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第六十八話 ラブコメのテンプレなんておとぎ話的な

 


 流石に曲がり角で食パンを咥えた女の子とぶつかったり空から女の子が降って来るなんて事は無いだろうが、世の中には案外溢れたりしている物、それが"ラブコメ的展開"である



 本を取ろうとした際に手が触れ合ってしまうとか、捨て猫に優しくしているサラリーマンを見つけたりとか。でもどうにも悲しいかな、それらの相手が自分の好みである確率が限りなく低いというだけなんだ…



 ラブコメの展開が無いのではなく、ラブコメのキャラみたいな人間が居ないというのが真である



「皆はラブコメの主人公になったらどんなシチュエーションで出会いたい?」



 ラブコメの主人公みたいな奴にこんな事を聞かれるのだから視聴者もたまった物じゃないだろう。それでもちゃんと付き合ってくれるのだから優しい人達だ



【ハーレム作ってキープしまくるわ】


【毎日脱ぎたてのパンツ要求して被りながら授業受ける】


【お弁当に〇×かけて食べさせたい】



 ……そんなに立派な人ではなさそうだが優しさは有るのだろう



「でもあんだけトラブルが絶えないのは正直危ないよな…ラッキースケベとか言うけど、階段から落ちて来た女の子を顔面で受け止めるとか大怪我する可能性もあるんだからさ」



「・・・」



 イズミは何か言いたげな顔で大我の話を聞いていた。常に大我の隣で生活を共にする彼女は知っているのだ、彼が真の意味でラブコメ主人公であるという事を。


 ──あれは厳島カガリの研究を手伝っていた日の事だった



 * *



 ~三日前~



 呼び出された大我とイズミが"十メートル上の高所からバケツ一杯分の熱湯をカップ麺にぶちまけるとちょうど内側の線に収まる量のお湯が注げるのではないか?"という動画を撮ろうとしていた時の事である。



 脚立に乗ったカガリの足元を支えている大我はバケツ一杯に入った熱湯に怯えながらも任務を遂行していた



『いやぁ~申し訳ないね、研究者としての欲求が時折我慢できなくなってねぇ』



『こういうのは俺も好きだから分かるけどよ…バイト前に怪我するとかはやめろよ?』



『大丈夫だって、こんな事一度や二度ではなっ…わぁっ!?』



『うぉっ…だから気を付けろって言っただろ? あぁ~あ…お湯も沸かし直さなきゃ…』



『あはは…すまんすまん…』



 バランスを崩してバケツごと落下して来るカガリを熱湯に塗れながら受け止めた大我に、イズミは心配そうに駆け寄った。そこには火傷して赤くなった肌を見せない様に隠し、平然と会話している大我の姿が有ったのだ。



 天然で女を誑し《たら》込む才能が有るとしか思えないこの所作にイズミは戦慄した、もしもこれが親子でなければどうなっていたのか?否、親子だとしても危険を感じるほどのイイ男っぷりに舌打ちを堪える事が出来なかった




 他にも余罪はボロボロ出て来るのだが…これは先週の事、三沢晴香が家に逃げ込んできた時、大我は文句を言いながらも晴香の分の夕食も準備していたのだ──




 ~一週間前~



『いい加減に帰らんと弟さんも心配するだろ…?』



『いいんだよ、あいつもそろそろ結婚して出て行くみたいな話もしてるしさ』



『へぇ~、しっかりしてんな』



『まあ一般的に考えれば遅いくらいの年齢だけどな』



 そんなくだらない話を自分の前で繰り広げていた二人だが、大我が晴香に対して持って来た皿には自分の物とは明らかに違う食材が盛り付けられており…



『んえ? なんか肉少なくね?』



『もう内臓も限界なんだから相応の食事にしないと明日には死んじまうだろ』



『そ、そこまで年寄りじゃねーよ!!』



『嫌なら食うな、俺が食う』



『く、食わないとは言って無いだろ…いただきます…』



『・・・』



 どう見たって主人公が幼馴染相手にするやり取りに、兄妹の私とは違った愛情が見えて普通に嫉妬してしまった。もしも自分がこんな事をすれば心配して新しい物を作り始めるだろうと容易に想像がつくからだ。イズミは最も信頼されている証として自分ももっと雑な扱いをして欲しいと感じてしまったのだという




 極めつけは自分の母である朝陽に対してなのだが…二日酔いに苦しんでいた母に対して、自ら介抱を申し出るという異例の事態に"おかしいな"とは思っていたのだが案の定…



『うっ…大我ちゃん…そこはダメよ…私、もう出ちゃう…』



『我慢してくださいよ、すぐに良くなりますから…ほら体こっちにして…どうですか?』



『うっ…ん…少し楽にはなったけど…まだ苦しい…』



『ほらもうこんなにビショビショじゃないですか…凄いなコレ…』



『・・・』



 いやこれはもう"ヤってるでしょう"と言われてもおかしくない発言のオンパレード。しかしラブコメの展開みたいに扉越しに聞いていたとかではないのでネタバラシをすると、内臓の構造上は胃の出口が左側にあるので体の向きを左にして寝ると幾分か楽になるという話らしい



 それで動けない母を介助し向きを変え、ずっと布団の中に居たので体中からアルコールと共に出て来た汗をビショビショだと形容したのだ。こんな事言ってはいけないのかもしれないがエロ同人では自分の存在が削除されズッポシ始まるに違いないと語った



 * *



 何が怖いってこれだけエピソードに事欠かない兄さんは大田さんに対してだけ何のラブコメ展開も起こさない事だ。もし熟女専のラッキースケベ神でも存在しているなら、今後彼女たちの股に顔面から突っ込む事件も起こり得るのだから最近は肝の冷える思いをしている…



「だからそんな事も有ったり無かったりでさぁ…ん? なんだか柔らかい…」



 今も明らかに私の目の前にある缶ビールを取ろうとして私の右乳を揉みしだくというありえない事象を体験しているのだから全然可能性はあると思われる。というか何かしらの病気よそれは



「兄さん、そこは私の胸よ。ビールはこっち。あっ…」



 いけないわ、動揺のあまり兄さんの股間部分にちょうどお酒をこぼしてしまった。そんな訳無いでしょう、なんか電磁波的な物が出てるんじゃないかってくらい不自然に手元から落ちたんだけれど。もうちょっと怖いわこの人



 そして透ける兄さんのパンツ。いやそれは女側のサービスシーンでしょうに、なんで今日に限って透ける材質のズボンを履いてるのよ、誘ってんのこの男?最近も"オネエ系配信者が選ぶ乳首をこね回したい男性配信者ランキング"で二位になってたんだから気を付けなさいよね



「兄さん、言いにくいけど兄さんは完全にラブコメ主人公よ…今だって」



「え? インデペンデンス根絶マルコメ主人格?」



 ほら見なさい、今なんて?とかいうレベルじゃないわよ。なにが絶対音感持ちで耳が良いの?私が"インデペンデンス根絶マルコメ主人格"とかいう訳分からない造語を急に口走る人間だと思われてる事が何よりもショックだわ、今度意地でも病院に連れて行きましょう。それかお祓いが必要ね



 放送を終えると二人で風呂に入り、私の髪を洗い終え再び私が浴槽に戻ると今度は兄さんが髪を洗い始める。その際に股間のガードは完璧、夕方六時台のアニメかってくらいに鉄壁で決して動く事が無いタオルが置かれている



 その後は水で歩きにくい足元にも拘らず、歴戦の武将かの様に安定した足取りで脱衣所へ引き返す様はとてもラブコメ主人公とは思えないものだった。ラッキースケベ起こすならここだろうというタイミングは悉く回避しているのが非常に腹立たしい




 そして翌日目を覚ますと衣服の乱れは一切なし、ゴミ箱にティッシュの形跡なし、何が楽しくて生きてるのよこの男ってくらいに徹底して誠実すぎる



 しかし…



「おっ、おはようイズミ~」



「…おはよう」



 この笑顔を見ればどうでもよくなってしまうあたり、私もラブコメの登場人物として相当な適性があると思われる──





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