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第六十七話 折角なので満喫する

 


 クッションに嫉妬する男こと如月大我は朝も早くから朝食の準備に余念がなかった、イズミの好きな甘くない卵焼きを焼いてトーストしたパンにはマスタードを塗ったベーコンを挟み薄切りのボンレスハムも入っている。後はイズミが目を覚ますだけだ




 先日から続く大我とクッションの確執だが今のところ軍配はクッションにあると本人は思っている。その理由としては自分の身体が筋肉のおかげでカチカチなため、あそこまでイズミがくつろげる空間を提供する事は難しいからだと言う



 しかし昨日の夜だって大我の隣で寝たのだから最終的には勝ちでいいのでは?そう思う方も多い事だろう。だが大我にとっての勝利とはそんな生易しい物では無く、完膚なきまでに自分の元にイズミがべったりと張り付いて離れないくらいの物を想定しているらしい



「おはようイズミ」



「…今日はなんでこんなに早いの?」



「朝ご飯を作ったんだ、食べなさい」



「…まだ朝の五時よ」



 大我は少し早起きしすぎてしまったらしい




「イズミもよくこんな時間に起きたな」



「兄さんの感触が無くなったから起きたのよ…」



「そうか、起こしてしまったか」



「別にいいわよ…それでなんでこんな時間に起きたの?」



「うーん…」




 実際のところ大我も目覚ましなんか設定してないし起きてしまったのだから、仕方がない…程度の気持ちで朝ご飯を作っていたのだ、聞かれたって困るだろう。ただ思い当たる節は一つしかなく、昨日の事が関係しているのだろうとは大我も思っていた



 ただ、なんかそれを言うのは恥ずかしかった



 昨日だってあんな態度で寝たんだからイズミにもとっくにバレているのは分かっているけど、自分から言うには少し恥ずかしすぎるのだ。仮想敵として認識しているのは自分だけでいいと言うか…大我としては内々で処理したい出来事なんだろう




「特に理由は無いけど早起きしちゃった」



「そう…じゃあ二度寝しましょうよ」



「そうだな、そうしようか」



 それから寝室に戻りイズミと一緒に二度寝しようと頑張っては見たのだが…一向に眠たくならない。一度起きてしまった後に寝るというのは難しい物だ、俺ってこんな体制で寝てたっけ?なんか肘関節が違う気がする。肩も痛い気がするからこうじゃなかったのか?イズミの位置が違うのか、なかなか眠れないぞ…?



 * *



 それからどれくらい時間が経っただろう、イズミがまだ寝ている事から朝の配信までにはまだ時間が有るのだろう。なんだか少し眠気を感じる気がする、ここから頑張れば寝れそうな気がするぞ。でも今から寝ちゃったら朝の配信に間に合わない可能性もある諸刃の剣だ



 まあ努力してまで眠る事も無いだろう。イズミが起きるまで大人しく待つか




 * *



 ん~…眠たくなってきた…これは分かる、もう体感的に一時間も寝れないやつだ。落ちるようにして寝れば数十分の睡眠でも飛び起きれるんだけど、自分の意思で寝た時ってぐっすり寝ないと絶対に目覚めが悪いのってどうにかならんのか…寝る訳にもいかんならもう起きちゃおう



 * *



「おはよう兄さん、よく眠れた?」



「んぁ…? あぁ…んん…」




 寝ていたのか俺は…あぁ~…眠たい…なんでこんなに眠たいんだ…最初の方に努力して寝ておけば良かったのに…最悪な選択をしてしまった



「早くしないと朝の配信に間に合わないわよ」



「んー…」



 のそのそと布団の中から出るとそのまま配信開始のボタンを押した。いつも通りに喋っているつもりが明らかに口から出て来る言葉が重たい事に気付く。喉に一度突っ掛かってから出て来るから口の動きと嚙み合わずにもごもごと聞き取り辛くなってしまう



 完全に寝不足の症状なのだが一緒に寝ていたと思っているイズミは不思議そうにしているし、視聴者からしても毎日普通に配信しているだけに粗が目立って話している内容よりも心配が先に来てしまう。なんとなく時間だけが過ぎるような形で朝の配信を終えた



 配信が終わっても空腹にもならずイズミの食事風景をただ見ているだけの時間、またも特にやる事が無く睡魔は襲って来る。寝てしまえば楽なんだろうが配信に使う素材の許可取りやそれを使ったフォームの作成なんかもしなければいけない。 今日に限ってイズミ一人に任せておける量でもないので寝る訳にもいかない、寝たとしても出来る限りの作業を終えてから寝よう



 と、思ったのだが…



 そうだった、普段作業している場所をコタツに入りながら作業出来るように模様替えしたんだった…完全に足元から暖まり、あの憎きクッションの包容力で睡眠に誘われる…こんなの耐えられる訳がない



 先方に送るメールの作成…編集ソフトを使っての素材の作成…う~ん…



 ──俺は寝る事にした



 もう睡眠不足の働かない頭では作業に耐えられないんだから、こんな状態なら寝てから作業した方が効率いいに決まっている。その旨をイズミに説明しようかと思っている所で徐々に意識を奪われた…



 * *



 …兄さん、寝てるのかしら?今朝もなんだか様子がおかしかったし死んではいないわよね…うん、脈は有るみたいね。やっぱり二時間程度の睡眠じゃ満足出来なかったのかしら?まぁ私も寝ようと思えば寝られるものね…



 なんだか兄さんを見てると私も眠たくなって来たわ…でも私まで寝たら今日の配信で殆どやる事無くなるんだから我慢しないとダメね。いつも兄さんが頑張ってるんだから私も気合を入れて頑張りましょう。



 そういえば冷蔵庫にエナジードリンクが有ったわね、取りに…いえ、コタツから出るのが面倒臭いから別に要らないでしょう。効いてるかどうかも分からないんだから気休め程度にしかならないし、それなら兄さんの寝顔見てた方がまだ効果ありそうね…にしても気持ち良さそうに寝てるわ…



 いけないいけない、集中する為に音楽でも聴きましょうか。以前やったカラオケ枠で兄さんの歌ってる部分だけが切り取られた動画が無断転載されてたわね。通報してダウンロードしてから聞きましょう



 バラードしか歌ってないじゃない



 なんでこんな日に限って眠たくなるような曲のチョイスしてるのよ…他の物を聞こうにも見つけ次第全部通報してるから順当に消えてるし、本枠を聞くにしても私が歌ってる部分とか歌の合間にあるトークも二回目以降はただただ邪魔なのよね…ベストアルバムに入ってるオルゴールバージョンとかと同じ不快感が有るわ



 なんとか一段落出来る所までは終わったけど…そうだわ、最近通販販売が始まったって言ってた肉屋の情報まだ見てなかったわね、少し休憩がてらに見てみましょう。あ~、加工肉にして安全に出荷するって事だったのね。 確かに衛生面の事考えたら切ったままで出荷なんて出来ないわよね、評判が良かっただけに少し残念だけれど兄さんが起きたら教えてあげましょう



 ん?こっちは調味料…そういえばやたら岩塩がどうのと聞くけど実際に焼いた肉を塩だけで食べた事なんか無いかもしれないわね、兄さんはいっつもそうやってるけどあれって米に合いそうも無いから敬遠してたのよね。やっぱり肉はタレでベショベショにして…あら、トリュフ塩なんかもあるの?




 …思わぬロスをしてしまったわ、これじゃあ寝てしまった方が良かったんじゃないかしら…いえ、寝てるだけでは有益な食の情報を知る事は出来なかったわ。何件か衝動で注文してしまったけれど、寝ている兄さんの代わりに仕事してるんだからこれくらいは許されてしかるべきよ…今になってクッソ眠いわね…



 ・・・・・・



 ・・・・



 ・・



 zzzzzz





 この日を境に大我も普通にクッションを使うようになり、コタツが出ている期間に限り如月家にはお昼寝の時間が設けられる事となった…











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