第五十二話 如月家株主総会・秋
本日は前回も伝えた通り、秋にやる企画案を募り現実的に開催が可能なのか?それは配信でやったとして面白くなるのか?それを精査して今日の夜配信にて、視聴者に発表する
その為の会議を今からこの三人で行う。
"如月大我" "如月イズミ" "神田朝陽"
大田さんは風邪ひきやがった。「季節の変わり目ですからねぇ~…」じゃないんだよ。代役として朝陽さんを呼んだ訳でもなく、朝陽さんと普通に飯食いに来たら大田さんから連絡があったので急遽参加して貰う事になった。一応視聴者代表という事で見てみたい企画なんかを聞いてみた
「大我ちゃんが脱ぐ所…?」
「まだチンコの話してんのかこのババァ。いい加減忘れてくれ。しかも一発でBANだよ」
「一つは決定したみたいね」
「してねぇよ、何でフルチンで如月チャンネルです~って出てくるんだよ。病気だろうが」
「でも私が兄さんのをしゃぶりながら配信すればプラマイゼロよね?」
「有料放送とかあるサイトでやってる訳じゃないんだから認められる訳ねぇだろ。チンコ消失マジックとでも言うのか?苦しすぎるだろ」
「じゃあお尻の方は私が…」
「何考えてんだこの家族、揃いも揃って淫乱の家系かよ!」
なんで今日はこんなに混沌としているんだ、まるで熱出た時の夢みたいじゃないか…
* *
「うぅ…ざけんなぁ…」
「大我ちゃん辛そうねぇ、インフルとかは大丈夫かしらぁ…?」
「そうね、例えそうだったとしても病院に行ってないから分からないわ」
「季節の変わり目ですからねぇ~…」
――――熱出てる時の夢だった
如月大我、まさかの風邪によりダウン。恐らくはこの前布団を蹴り飛ばして寝ていたのが災いしたのだろう。三十九度の高熱を出してしまい看病されてしまっている。これだけ大柄な人間だから有事の際にはイズミと大田さんだけでは人手が足らないという事で急遽朝陽さんも招集された。
これはイズミも心強いのではないかと思ったが、実は彼女の胸中穏やかではなく…その理由というのはこの三人で大我のベッドを囲んでいるという構図…漫画で見た事が有る。おでこに乗せられた濡れタオルを交換しようとしたら、うなされている彼に腕を掴まれて抱き寄せられるイベント、それが自分以外に訪れる可能性が有るのだから!
タオルを変えられる位置を常に陣取り、必要な物は二人のどちらかに取りに行かせればいい。大切なのは手の届く範囲には自分以外を入れない、という断固たる決意 "断固イズミ" の精神である
しかしここで早くもアクシデント、高熱によって布団の中の熱さはいつもの倍以上。大我がそれを嫌って掛け布団を捲ろうとするのだ。
バカバカやめろ!見える見える!死の淵を彷徨う事で人間の"子孫を残そう"という本能は活性化され、生殖器は屹立し準備万端になっているのだから!私以外の人間に見せるな!!
ただでさえ旦那に先立たれて性欲を持て余した未亡人と、怒張した竿を見た事で男に興味持っちゃう系女子が居るんだから4P始まるだろうが!!※偏見です
「そういえば大我ちゃんも暑そうだけど…アレは大丈夫なのかしら…?」
「えっ? 何が?」
「"大我ちゃんのタマタマ"」
「ついに正体表したなテメェ…!」
「違う違う!! 誤解よぉ!」
人間の体内にある器官、胃や腸。そして心臓や肺など、重要な部位になるほど分厚い骨に守られていく。しかし――
"睾丸はどうだろうか?"
人類の存続という大役を担っている雄の精子製造工場。そんな重要部位が何故こんなにも無防備に曝け出されているのか?これではふとした拍子に怪我をしてしまうかもしれないのに…答えは"熱"だった。
こんな無防備な場所で放熱し続けなければ精子たちが死んでしまうという。バカげた話だ、平時はそれでも構わないのかもしれないが、もしも体内の熱が全体的に上昇し睾丸までもが高熱の状態が続くとすれば…"内部の精子達は全滅"男性不妊という状態に陥ってしまう。つまり男性が高熱を患ってしまった場合には睾丸も同時に冷やす事を推奨する。そうしなければ将来、辛い思いをしてしまうかもしれないからだ
「そんな…じゃあ兄さんはこのままだと子供が作れなくなってしまうの…?」
「その可能性もあるってだけだから…でも用心するに越した事はないわよ…?」
苦渋の決断だったが、如月イズミは兄の為に立ち上がった。兄の下半身事情は妹の私が絶対に守り抜いて見せると。私が守り、抜いてみせると!
氷をビニール袋に入れて大田さんが帰って来た。これを兄さんの股間に的確に…竿ではなく玉に…どうしよう、分からないわ…"兄さんの金玉"がどこにあるのか皆目見当がつかない…妹なのになんて情けないのかしら…"兄さんの金玉"の位置を知っているのは私だけなのに…兄さんがこんなに苦しんでいる時に"兄さんの金玉"を冷やしてあげる事も出来ないなんて…!!
イズミはウキウキだった。
その後大体の目測を付けて先に腕を突っ込む。金玉確認よし!氷よし!行くわよ兄さん、せーのっ――
「ああっ!? あぁっ!? ヒッ! えぅ…えっ!? なにぃ!?」
「あ、起きちゃった?」
「ダメじゃないイズミ、もっと静かにやらないと…」
「デカくても敏感な物なんですかね…?」
「えっ!? なに…えっ!? れ、レイプ!?」
大我は高熱の中、急に金玉を冷やされて非常に混乱していた
「あぁ…まぁ確かにそうだけど…インフルでもなければ大丈夫だって…///」
「そうじゃない確証がないでしょ?」
「これは大丈夫な奴だって…すぐ治るよ…///」
「でも大我ちゃん四十度手前は立派な重病よ…?」
「そうですよ、万が一イズミさんに移ったらどう責任取るんですか?」
「いいから寝かせてくれよ…/// ゴホッ…///」
「ていうか…俺ら子供作んねえだろ…///」
「兄さんの言う事ももっともだ」
「なんですかその癖の強い納得の仕方は…」
これはダメだ…と諦めて寝入る大我を見届けた三人は、どうにか病院に連れて行く術は無いかと話し合った。それでも本人が動こうとしなければ救急車でも呼ぶしかないが…暴れられでもしたら立派な犯罪なのだから迂闊には呼べない。
それでもイズミも無理には行かせたくなかった。自分だけは大我の病院嫌いの理由を知っていたから。ある日気になって聞いたことが有ったが、まぁ…トラウマという程では無いんだけど
――あぁ。またこの夢か
婆さんも爺さんも死んじまって、死に目にも会えなかった。そこまで気にする必要なんか無いだろうに。人情味溢れる俺みたいな人間は深層心理でまだ悔いているんだろうなぁ…バカバカしい
誰も居ない病院で一人っきりで逝く事はねぇだろ…
不満も無ければありがたいと思う事も無かった。勝手に"作られて"不自由な人生送らされてるんだから、こんな遺産も慰謝料にしちゃ少なすぎるだろ。適当に生きて浪費して、俺も勝手に死んでいく。そんな人生になれば、なぁ…
あれから背も伸びた、友人も出来た、これからの進路を伝えれば何と言ったか?どうせ肯定しかしないんだろう。それでいい、そういう物だろう。親ってさ
多少の罪悪感…?体調が悪いだけだろ。人恋しいだけだ。イズミの顔を見ればこんなくだらない夢、すぐに忘れる。勝手に死んでいった爺と婆の思い出なんて。
…もしも、くだらない話ではあるが、もしも…本当にもしも、俺の人生にイズミが居なかった場合
俺はこの後どうしていただろうか――
ほらな、治ってるだろ?起き上がった俺は三人に向かって言った。世話になったと二人を家まで送る、運転はまだ危険だとイズミが担当した。まだ少し暑いな、夜は蒸す。
やたらと光っているネオンが目の奥を刺激して不快だった。
コンビニに寄っていつもは食わない駄菓子を数個買って帰る
そんなに美味くない。暇つぶしに食うから"駄菓子"と呼ぶんだろう
イズミは寝るらしい、俺は少しリビングで動画などをチェックする
やっぱりまだ万全じゃないんだろう、鼓動の数が少ないのに胸が苦しくなった
ドン!ドン!と内側から大きな音で心臓が鳴る。吐き出してしまいそうだ
鼻の奥にまで上って来ているのかツーンと痺れる。
やっぱり美味くないな、この菓子。
――味が全然しねぇや




