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第四十七話 フィクションにマジレスする男

 

 今日も大我の妄想シリーズ。今回は自分達が日常アニメの世界に存在して居たら?という議題だ。ここ20年ほどでジャンルの超新星爆発が起き、美少女学生たちの日常物アニメが大変多く見受けられるようになり、女っ気の少なかった日常アニメ界隈の面子はガラリと変わったように感じる。


 中でも部活動を通しての作品がメジャー所で、作品によっては存在してるかどうかも怪しい部活動を主人公が作る。という導入も最近ではありふれた物として語られている


 普段は忘れがちだが大我にとっては学校や部活という物自体がフィクションである、なので自身が見る分には剣と魔法のファンタジーくらい新鮮な世界観になっている。だが現代的で身近な物として見ている人からすると、あるあるなんかも相まってより楽しめてるんだろうなと思っていた


 しかし、実際に体験して来た人達でも「いやいやwこれは無いだろうw」という様な設定や、男の一切出てこない世界観に対して揶揄するような書き込みなども見受けられた。


 確かに最近では男子生徒が存在しない事なんか日常茶飯事、作品によっては女子高などの理由付けがされている物もあるのだが、ただただモブの顔が描写されていない作品なんかもある。見ていても気にならない部分の事なのでこれに関しては言っている人達も冗談半分だろうと容易に想像がつく。


 ではこういったケースはどうだろうか?「こんな高校生いねーよ」


 こんな高校生と言われていたキャラの属性をまとめてみた。"スタイル抜群で薄着" "成績優秀で運動神経抜群だが無口" "根暗に優しいヤンキー" "やたらと厳しいなにかしらの委員長"



 確かに。これは一種のテンプレートと呼ばれる属性で、見ている方々の頭の中にも連想するキャラクターが数人程度思い浮かんだのではないか?しかしここに対して言及する方は現実主義者リアリストなのだろう。見た事がない物や、一般的に伝聞している人間にこんな奴らが存在しなかったのだから口出ししたくて仕方がないのだ


 しかし現実を見るのであれば君達にはもう一歩踏み込んでみて欲しい。

 数多くの作品には決定的に、現実の世界とは異なっている世界設定が有るのだ



「前振りが大変長くなってしまいましたがこんばんは、如月大我です」


「イズミです」


「今日は日常系アニメで散見される展開を現実的にしてみようと思っていますので、あの天才キャラや美少女たちをもっと身近に感じられるのではないでしょうか?」


「フィクションにマジレスする情けない大人が見られるかと思うとワクワクするわね」


「妹も興奮しておるわ」



 まず一番最初に共有しておきたい事、それはフィクションには必ず存在している主人公と呼ばれるキャラクターだが、とある部活動に興味は無かったが勧誘されたりだとか、隣の席になった明るい女の子との交流とか、そういった非日常的要因が絡む事によって物語が動き出すこととなる。


「まず現代日本においてこんなコミュニケーションは存在しない! SNSのグループに入れなければ村八分! 何の取り柄もない地味な女の子!? えぇっ!? そんな子は中学くらいにネットに触れて特定のコミュニティーに毒されて、取り柄は無いかもしれないが普通じゃなくなっている可能性が極大!! もはや間違いない!!」


【どうしてそういう事言うの?】

【自分に刺さりすぎワロエナイ】

【あまり私を怒らせるな。泣くぞ】


「3年という懲役を終えると別に働きたくない会社に就職してそこから終身刑だよ」


「一般的な人生も兄さんに掛かればネガキャン、偏向報道なんでもござれね」


「そうだな、これが普通の人間が普通に生活する、何の取り柄も無い人生。君達こそが真の日常系主人公と言えるだろう」


 確かに日常系アニメの多くは非日常系の要因が無ければ完全な駄作となってしまう。だからこそ普通の主人公と前置きして、普通じゃない周囲の登場人物たちが作品という体裁を保っているのだろう。ここからが本題だ



「じゃあ見ている君達にも非日常が訪れたとしたら? ある日突然、会社に美人上司がやってきたら? 義理の姉妹が出来てしまったら? 君達には何が出来るのか考えてみよう!!」


【ないない】

【そういうのがないからフィクションが求められてるんやぞ】

【寝言は寝て言え】


「お前らのそういう怠惰が日常に隠れている非日常を退屈な日常に変えているんだぞ」


「兄さんやめて。もう終わっているわ」



 イズミが止めるのは相当な事だが、事実コメント欄では効いてしまった人々の鳴き声がこだましている。今日大我が伝えたかったことはこういう事なのかもしれない


 日常系アニメの世界観に真の怠惰なんて存在しないのだから、そりゃあとんとん拍子に物語が進むわけだ。人間にとって最大の枷は怠惰だ、アニメ内で描写される「え~…まんどくさいよ~ん…」などという描き方こそが何よりのフィクションなのだ


 現実問題、真の怠惰とは"まぁいいか"という諦めなのだから。もしもアニメ第一話に主人公が登校し、わいわいと盛り上がっている部活談議に興味を示さなかったら?隣の席の同級生からの挨拶に怠惰な様子で返答したとするなら?いくら主人公と言えども物語から排斥されモブへの降格を余儀なくされるだろう。積極性という物は日常においての翼なのだと心に留めておいて欲しい。


「さぁ考えてみろ! お前の人生で優しいお姉さんが隣に越してくると! 家出少女を家でかくまうと!!」


「犯罪じゃない」


「うるせぇ! 行こう!!」


「積極性と犯罪教唆は別物でしょうに」



 これは少し行き過ぎた表現だが、逆にこれくらい思い切って生きてみると何か人生の転機が思わぬところで見つかるのではないか?自分がモブかどうかは皆の捉え方次第で、自分の人生の主人公は他でもない、君だけなのだから。といい感じにまとめた


 その後念入りにこれで事件に巻き込まれても一切責任は負いませんと保身に次ぐ保身。現実の厳しさを感じ、視聴者達は絶望しながら放送を後にした



 実はこの放送中、大我は内心ひやひやしていた。どう考えたって自分達の環境の方が日常物のフィクションそのものだったから、いつその事についてツッコまれるかと。


 しかしもう視聴者がこの環境に慣れてしまっているからか、誰からも疑問の声というか『お前が言うな』的な論調で詰められる事は無かった。九死に一生とはまさにこの事だ。



 いつも通りフィクションの様に妹と一緒に風呂に入り、妹と一緒に布団に入った。これが日常だなんて視聴者に対して急に申し訳なくなってしまった。俺みたいな人間が、偉そうに言う権利の無いデリケートな部分に触れてしまったな…


 …くん


 い…くん!


「こぉら! 早く起きないと遅刻しちゃうぞ! タイガくん!」


「わぁっ!?」


 いててて…せっかく人が視聴者に対しての自責の念で押しつぶされようとしていた時に…ってあれ?もう朝か


「ほらタイガくん? 下でおばさんが朝ご飯用意してくれてるから一緒に食べよ?」


「うん、分かってるよ姉ちゃ…」



 姉ちゃん…だと…?



 どういう事だ?ていうか誰だこの女!?尻肉見えるくらい極小のスカートに乳袋がパンパンに膨れた胸元。そんなTHE・二次元といった風体の女性が俺の名前を呼び、幼馴染然とした態度で接してきている。というか実際目の当たりにすると気持ち悪いな乳袋


 下に降りるとキッチンの前にいる若い女性がムチムチプリンっ!という効果音が聞こえてきそうなほどタイトなズボンを履いて味噌汁を作っていた


「あらナズナちゃん、いつもごめんなさいね? この子ったら昨日夜更かししちゃったみたいで…」


「いいんですよ、クミさんも忙しいんですから。私が出来る事が有ったらなんでも手伝いますから」



 え、ママ?これ某のママ?こんなエロいママおる?女優じゃないの?若妻設定の女優じゃないの?



 おかしい、はは~ん…夢だなこりゃ?前回はインドを救ったが今回は俺の青春を取り返すラブコメ展開か。望むところだ、イズミをメロメロにさせた俺の恋愛テクニックをとくとご覧あれ!!



「仕方ないだろ~…昨日の夜にシコり過ぎて疲れちゃったんだからさぁw」


「それとも姉ちゃんが代わりに俺の下の世話とかしてくれるわけw? むふふ♡」


「も、もぉ! タイガくん!?/// そうやってエッチな事ばっかり!///」



 あ、エロゲーかこれ



 しかも主人公の性格が終わってるタイプのエロゲーか。感情移入とかじゃなくてどんな理不尽なセクハラしてもなんとなくで許されて、最終的にエロパートに突入するタイプの賛否分かれるエロゲーの世界かここ。


 なんてことだ、ご都合主義展開で抜きどころに到達するまでに萎え落ちしてしまうタイプのやつじゃあないか…このタイプの主人公は、とても放送上では言えないような発言をテキスト上でマシンガンの如く口走るから、脳内で表現する事も憚られるくらいだ…



 その後もテンプレヒロインのオンパレードだった


 同級生の運動部で先輩に恋する幼馴染、多分こいつは先輩から酷い性強要をされて男性不振に陥って、その後ちょっとだけ優しくしてきた主人公に股を開くんだろう。


 下級生で巨乳眼鏡の真面目ちゃん。コミュニケーションに自信がない自分にも声を掛けてくれる先輩の優しさと明るさに次第に恋していくタイプのヒロインか。オタク特有のなんでも肯定して欲しい欲求を一身に受けた被害者だ。こんな主人公に惚れる訳ないだろ、おかしいぞ君は


 風紀委員長の黒髪ロング釣り目先輩。もう何を言いたいか分かるだろう、この女は絶対に凌辱される。そして抗えなくておねだりする、どうせロッカーの中に隠れる展開になってごにょごにょされるんだろう?何度でも言おう、ただの淫乱じゃねぇか!



 苦しい…先の展開が予想できてしまうこの世界の中が…どうせこいつはこう動く、そうすると俺は抗う事も出来ずにテンプレ回答、テンプレ行動…世の流れに逆らう事が出来ずに、それでも仕方がないさと諦める事しか出来ないのだ



 目が覚めると俺は泣いていた。いや下半身がとか言うおやじギャグでは無くて、ちゃんと目から涙が出ていた。


 決められた選択肢を選ぶしかない夢から覚めて、なんでも出来た自分の人生がどれだけ尊ぶべき物かと再認識させられた。まさかエロゲーの夢に教わるとは思わなかったが…


 選択肢のない自分の人生で、どんな選択を選んだとしても自己責任と言われるのは辛いかもしれない。しかし窮屈ではないはずだ


 選択の権利は自分に有って、リスクも常に自分が負う。それは誰かに作られた人生よりも幸福と言えるのかもしれない。今日も一日、俺は自分の人生を謳歌しよう。少し違う道を歩いて買い物に行ってみるのも良いだろう。自分の人生を彩る権利も、皆には平等に分け与えられているのだから



 隣を見るとイズミがもう起きていた。随分早いものだと驚いたが、イズミも布団の中に目を向けて口をあんぐり開けている。おや?



 夢の中での体験によって大我のタイガーも起きてしまっていた様だ





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