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第四十五話 お義母さんに挨拶

 

 どうも、イズミの母の神田朝陽です!



 今日はイズミが初めてお友達を連れて帰ってきました!お母さんとっても嬉しいわ!でも大我ちゃんがこんなに不機嫌そうな所初めて見るし…この子本当に大丈夫なのかしら?



「本当に何しに付いてきたんだよ…ただの実家帰りなんだから大人しく待っとけよ」



「何言ってるんですか! 私の実家にもなるかもしれないんですから挨拶は早い方が良いに決まってますよ! ねぇお義母さん!?」



「あ、えぇ。そうねぇ…?」



「朝陽さんも甘やかすことないですよ。いざとなったら不法侵入ってことで慰謝料ふんだくりましょう。ノウハウは有りますから」



「あ、いいのよ? 私も一人だし、賑やかな方が嬉しいわぁ~」



「安心してくださいお義母さん! 私が娘婿になった暁には絶対に寂しい思いなんかさせませんから!」



「ん? んん??」



「起こり得ない空想で余計な混乱を生むな。しかも厳密に言えば娘婿にもならん」



「んぅ~ん?」



 どういう事かしら?娘婿ってことは私の娘になるって事で…イズミと結婚するって事…?でも日本では同性婚が認められていないはずだし…もしかして、大我ちゃんがイズミを捨ててこの子とお付き合いしてるって事!?



 そんな…あんなにラブラブで、もう少しでチョメチョメ寸前だった二人がどうして…?よりにもよってイズミのお友達となんて、よっぽど性欲に直結した理由で喧嘩別れしてしまったのね…それでイズミを引き取らせようと家に来たんだわ。やっと辻褄が合った!こんな若い子達が何もない日に未亡人のシングルマザーになんか構ってくれるはずがないもの!



「大我ちゃんっ! ちょっとお話があります!」



「は、はい。なんすか?」



「あなたはエッチが出来れば誰でもいいんですか!!」



「急に何口走ってんだババァ!!」



「お義母さんになんて口の利き方するんですか!?」



「ババァじゃないもん!!」



「うるさいわねさっきから。有ったわよ兄さん」



 自分の部屋から何着かの服を持ってきたイズミは眉間にシワを寄せてその場を一喝した。今日の大我たちはこれから先のシーズンでイズミが着る服を参考にするべく、昔着ていた古着を取りに来たのだ。にも関わらず急にエッチだなんだと言われたので、いつもは温厚な大我の口からついババァなんて言葉が出てしまったのだ



「あと母さんはしっかりババァよ。年齢考えなさい」



「年の割には若いもん!」



「そうですよ! 初めて拝見した時はイズミさんのお姉さんかと思いましたもん!」



「あらぁ~/// それは言い過ぎよぉ~…///」



「いや俺が初対面の時なんかイズミと勘違いして妹だと思ってたからな? 俺の方が見積もり若かったぞ」



「もぉ~…大我ちゃんも張り合わなくっていいわよぉ/// おばさん恥ずかしいわぁ///」



「なんだこれ」



 普段は自分を取り合って火花を散らしている2人は母親からの評価に対しても張り合って、もはや呼吸の数でさえ競い合い出しそうな勢いだった。こうなってしまうと蚊帳の外の自分も気に入らない訳で、兄さんの膝の上に座って事の顛末を母親に説明する



「まぁ! じゃあ大我ちゃんと不仲になった訳じゃなかったのね? 母さん安心したわぁ~!」



「不仲じゃないとは言い切れないけどね」



「不安を煽るんじゃない」



「でも、大田さん…? は良いのかしら…大我ちゃんとイズミって結構アレよ…?」



「アレってなによアレって」



「はい! 最終的に私の所に来てくれれば問題ないです! どうせお酒の飲み過ぎで大我さんは早死にするでしょうから!!」



「あっ」

「あっ」



「早死に…あぁ…慶二さんみたいに…」



 どストレートで朝陽さんの地雷を踏み抜くとかどれだけデリカシーが無いんだこの女…別にイズミ相手とかじゃなくて普通にコミュニケーション能力に問題が有って恋愛できなかっただけだろ…



 しかし、いい加減に朝陽さんも切り替えることは出来ないものか。死んでからもう20年は経つんだろう?このままでは永遠に旦那の影に縛り続けられる。幽霊なんか微塵も信じていないが…これだけの依存性は、近親者から見ても霊の仕業と言われたら納得してしまいそうだ。まさに呪縛と言えるほど病的で…見ているこっちが後を追ったりしないか心配になってしまう



「大田さん…早死にとかあんま言っちゃダメだよ。旦那さん早くに亡くしてるんだから…」



「うぐっ…そうでした…そういえば中学の頃にもイズミさんに同じ様な事を…」



「常習犯かよ、やっぱ異常だよキミ」



「母さんもあんな男の事忘れて新しい恋愛に踏み出してみたらどうなの?」



「じゃあ…イズミと大我ちゃんが離れ離れになっても同じ事言えるぅ…?」



「無理に決まってるじゃない」

「無理っすね」



「ほらぁ…私だって二人に負けないくらいあの人の事が好きだったんだから…はぁ…」



 そんな事言われたらこちらとしても何も言えなくなってしまう。イズミのいない人生なんて麺とスープと具材のないラーメンみたいなものだ。皿と水だけ、死んだほうがマシだ…



「じゃあ我々が旦那さんの代わりにその寂しさを埋めてあげれば良いのでは?」



「今度はNTRものの竿役みたいな事言いだしたよこの子」



「ううん…若い子の人生の枷になるんだったらそれこそ一人寂しく隠居してる方が楽だもの…」



「年齢なんか関係ないですよ! 人間なんですから!お腹が空いたらご飯を食べる、眠たかったら寝る!寂しかったら寂しいって言うことの何が悪いんですか!」



「確かに」

「それはそう」



「でもぉ…何年もこの生活をしてきたら…今更誰かがいる生活なんて…」



「そんなの、自分の心を納得させる言い訳を自分で考えてるだけじゃないですか!私達がお義母さんの事を心配してるって言うんですから、少しはこっちの言い分も聞いてくださいよ!」



「う、う~ん…」



「なんか今日の大田さん頼もしいね」

「ね」



 普段から元気はいい方だが、今回の大田さんは少し様子が違った。まるで取り返しが付かなくなる前にどうにかしようとしているみたいな…そんな迫力を2人にも感じさせた




「大切な人が居なくなってしまう感覚は私にはまだ分かりません。でも、もしそうなってしまったとしても私には出来ることが有ると思うんです!ただ下を向くだけじゃなくて…思い出を振り返るだけじゃなくて…」



 あぁ、なるほど。この娘…



「隣で手を繋げなくても、感じられる部分とかがあるというか…同じ天気の日だったりとか、一緒に食べたご飯だとかからその人の事を感じられて…寂しいだけじゃないと思うんです!」



 知ってるんだ…これからの自分の事



「だから…」


「ふふっ…そうね? 私が弱かっただけだわ…」



 私はそんなに前向きに、後ろを振り返るなんて出来なかった



 振り返るといつもあの人の面影が見えたから。それが自分の中で怖い事かのように思ってしまって、一人の時は余計に意識していた。でも二人が傍に居てくれた時は自然とあの人の事ばかり…



 一人で向き合うことから逃げてただけで、これからの人生もあの人と生きていく覚悟なんて有りもしなかったんだ。この娘と違って



 きっとイズミが生涯、自分の隣に居続ける筈なんか無いと知っているんだ。本当の気持ちはずっと彼の所にあると…それでもなお、この場で笑っていられるのは自信があるんだ。この瞬間も一生懸命に愛し続けた自分を、将来の自分はきっと誇れると



 きっと夢破れたその瞬間も、イズミのことを好きでいるんだという自負が



 本当に愛してるんだったら、一方通行でも満足できてしまうのかな?初恋が実ってしまった私には永遠に知ることが出来ない問題だけど、これから始まる永遠の片思いの中で知ることが出来るだろうか?



「あっ、やべぇ…もう配信の準備しなきゃ。朝陽さん俺ら帰るけど…」


「うん、またいらっしゃい。大田さんもね?」


「はい! また来ます!」



 今日はいつもより大人数で騒がしかったけど、普段2人が帰った時よりも寂しくはなかった。けれど、珍しく仏壇の奥から遺書なんかを取り出しちゃって…今読んでしまうとまだ泣いてしまいそうだから。少し触れるだけで元の場所に戻した



 イズミが普通の生活に戻った時に済ませて置くべきだったのかもしれないけど…ずっとそのままにしていたあの人との思い出を整理する時期が来たんだろうと感じた。決別という意味ではなく、これから先も一緒に歩いていけるように




「大田さんどうしたの今日、えらい気合い入ってたけど」



「あぁ~…なんだか、お義母さんを見てると働いてた時の自分を見てるみたいと言うか…あの頃の私って結構ビクビクしてたじゃないですか?」



「確かに初めて会った時は頭にカメムシ着けてたわね」



「それは関係ないでしょう! あれでも周りからの見え方ってかなり気にしてたんですよ。CAって見られる職業でも有るので」



「あの頃自分が目指してた目標って"他人から見て満点の自分"っていう歪な状態だったんですよ。半ば病んでたんだと思います…」



「それは配信者にも通じる部分かもしれないなぁ…実際病む人も多いって聞くし」



「そんな状況から変われたのってお2人に会ってからですから、段々と取り繕う事を止めて、最近やっと昔の自分に戻ってきたというか。明るくはなりましたね」




 そう言いながら大我と仲違いしそうになった日の事を思い出している。立派に生きたかどうかなんて死んだ後に決めることなんだ、今は好き勝手に…自分勝手ながらも高給取りをさせて貰っているのだから…



「それに…お義母さんにとっても一度きりの人生なんですから」


「頼れる人が居るなら頼ってみても良いんじゃないですか?」



 誰に気付かれなくとも、これは一方的な恩返しなので




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