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第二十三話 ナイトプールでポロリ


 

 今日は大田さんを連れてナイトプールに撮影に来た。


 貸し切りにしてどんな内装なのか、結局何をする場所なのかという実地検証をしに来た。ちなみに三人とも初体験だ。



 ビカビカと色とりどりのライトが発光し水面をライトアップしている、その光景を見てまずイズミが一つ舌打ちをする。大田さんは肩を少し跳ねて驚いていたがイズミは気に入らない事はとことんまで嫌いなままで、特に今回の様な目に痛い光源が大嫌いなため夜にもかかわらずサングラスを着用しての撮影だ。



 今回はプールという場所の関係で二人とも水着での撮影で、うちの妹はなんてスタイルがいいんだろうかと視線を釘付けにしていたのも束の間、すぐさま上着を羽織って椅子に腰かけてしまった。


 どうでもいいが大田さんも水着だ。日本人体型でいい感じだね、と言うと少し怒られた。



 肝心のプールは広いといえば広い。ただ遊泳用の市民プールの様に真四角の形状ではなくひょうたん型であったり三日月形の場所が多く、ストップウォッチまで持ってきて泳ぐ気満々だったのに、泳ぐには向いていなさそうで個人的にはかなり不満だ。なんか変な玉とか浮いてるし邪魔だからイズミと一緒に持って来た網で外に全部出した。


 ナイトプールが泳ぐだけの場所ではないという事で、フードコートやドリンクも充実していた。これはイズミも俺も素直に嬉しい。ビールを十杯ほどとタコ焼き五皿、フライドポテト七皿とチキンナゲットを四十個注文して満足気にプールへと戻った。大田さんは少し引いていた



 そしていつものようにイズミは椅子に腰かけ編集作業をし、俺は酒を飲みながら揺らめく水面に浮きを沈め優雅に釣りを楽しんでいた。鯛でも釣れたら今日のつまみにもなるだろう、動画を撮影している大田さんの呼吸は荒く、震えている様に見えた。風邪だろうか


 フードコートで食品が出来上がったようだ。カメラを三脚に固定して大田さんに持って来るよう頼む。少し渋っていたが一万円を地面に叩きつけるとイソイソとトレイを持って運んでくれるようだ。雑務をこなしてくれるいいスタッフを雇ったものだ



「大田さんはさぁ、釣りとかするの~?」


「い、いえ…一度も…」



「そっかぁ~。いやねぇ? 結構楽しいんだよ、当たりが来たら何回か突かれてね。どこでしゃくるかってのもポイントで、ただ垂らして引っ張るだけじゃ魚って逃げちゃうんだよね~。意外と難しいんだよ」



「そう…ですか…」



「・・・・・・・」


「・・・・・・・」



「でも…ここプールじゃ…?」


「オラァッ!!!!!」


「ひっ!?」



 立ち上がってしなる竿を必死に制御し獲物を逃がさんと踏ん張る。糸が切れるかもしれない為慎重に、魚の力に逆らうことなく、ただ決して逃がさないように竿を巧みに操作する。これは魚との戦いだ、逃げ切らんとする魚をいかにうまく操縦するか?この地球と一体になる感覚。海を感じて波の勢いに乗る事で魚を疲れさせるんだ、竿を引き上げるタイミングを考えろまだだ…まだ弱い。明らかに手応えの変わったタイミングで再び腰に力を込める



「イズミッ!! タモ!! タモ持ってきて!!」



 タモとは水面に上がってきた魚を捕えるための網の事で、大物だと水面で暴れてしまいその勢いで糸が切られて逃げられてしまう。魚を逃がす事も悔しいが、口の中に針が残ったまま逃がしてしまえばそれを魚自身の手で外すことは出来なくなってしまい、いずれ出血の影響もあり苦しみながら命を落としてしまう。命をいただくという事は自らの手でその生命の火を絶やす覚悟が必要だ、それが我々アングラーの使命でありこの世の真理とも言える



「フィッシュオーーーン!!!」



 大きく振り上げた竿の先には魚影もなく、タモを構えていたイズミも何も言う事は無く元の自分のスペースへと帰っていった。そう、ここはナイトプール。魚なんか居る訳もなく、水も透き通っているので何もかかっていない事なんか一目瞭然だった



 ただ、なにも居ないしかかっても無い事が釣りをやめる理由にはならない。いいじゃないか、魚を釣る気なんか無くても竿を垂らして。いいじゃないか、決して浮かんでくる事のない魚の為にタモを構えていたって。この時間が人生に何をもたらすかなんてこと誰にも分からない。でもこんな事に目くじらを立てて怒ってくる人は絶対この釣り以上に人生を無駄にしているだろうから気にする必要なんてないんだ。大田さんは少し目に涙を浮かべて俺とイズミを見ていた。気狂いを見るのは初めてだろうか?肩の力を抜いて見て欲しい




 釣りに飽きたのでプールに入ってみた。飲酒しながら水の中に入るのは危険なので見ている方々はくれぐれもマネしないでいただきたい。ここで大田さんと視聴者の皆にクイズを出してみる事にした。



「大田さん、俺が水着脱いでるか履いてるか当てるゲームしない?」


「イヤですよ汚い…なんの意味があるんですか…」



 イズミが肩を回して近づいてきた。流石にやる気だな


 水面から顔だけ出して二人から見えない角度でスタンバイする。イズミの表情は真剣そのもので大田さんはまだ視線をそらしている。俺が大田さんにセクハラをして楽しんでるとでも思っているのか?心外だ。ただ単に俺が水着を履いているのか脱いでいるのか当てて欲しいだけなのに。これには少しムっとしてしまった


 第一問、今俺は履いているでしょうか?脱いでいるのでしょうか?

 イズミは履いている、大田さんも履いていると答えた。



「残念、脱いでいます」



 勢いよくイズミがプールの中に飛び込み意地でも脱いでいるのか確認しようと水中を蠢いている

 しかしそれを許すはずもなく超スピードで水着を履きなおす。



「履いてるじゃないの! ノーカン! 認められないわこんなもの! 脱ぎなさいよ! 脱げ!!」



「ちゃんと脱いでたんだよ、そこを信じて貰えないならこのゲーム成立しないから」



「見えてないもの! 脱いでいる所を! 正解は公平に判断しなくてはならないのよ? 今からでもいいから脱ぎなさいよ。私の見ている前で、さぁ」



「イヤだね、妹にギンギンな所とか見られたくない」



「ギンギンならっ…なおの事…見せなさいよッ!! 手どけろ!! おい!!」



「"根拠もないのにギンギンな事は信じるんだな"これによって、目には見えていなくとも俺の言葉には股間の状態を信用させるだけの説得力が有るという事が証明された、俺が脱いで見せる必要なし」


「チィッ!!!」



 悔しさのあまり水面を殴りつけるイズミを逃す事なく撮影している大田さんにカメラマンとしての自覚が芽生えたと嬉しそうにしている大我だが、本人はついついイズミの胸の谷間に目線が行ってしまっただけで特に意識はしていなかった。



 その後も履いてんの?脱いでんの?クイズは二人の間だけで大いに盛り上がりを見せたがBANされかねないという事で後にお蔵入りしてしまった。正直このゲーム以外ナイトプールで面白い遊びを見つける事が出来なくなり三人は貸し切り時間を大幅に残して帰る事にした。水着に着替えた大田さんは体に一滴も水が付着しないまま、ただただカメラの後ろで我々に肌を晒しただけになってしまった。



 大田さんを家まで送り車載配信をしながら少し遠回りで家に帰る。ナイトプールの動画を撮ってきた旨を話すと【あっ…】【ふ~ん…】というコメントが急に増え、流石にそういう本の読みすぎだろうと思っていたら今では本当に若者達の出会いの場になっているらしく、昭和で言うディスコみたいな立ち位置と言えば分かりやすいだろうか?



 近頃はそういった異性との出会いの場が増え、一人で出歩くのが少し億劫というか逆に目立ってしまい恥ずかしいという視聴者もチラホラいる様だ。「君達も出会いを求めてそういう場所に行けばいいのに…どうして一人が前提なの?」と言うと殺害予告すれすれなコメントで埋め尽くされた。



 誰かが言っていた"正論は確かに正しい言葉だが、言った本人しか救われる事のない無意味な言葉だ"という意味が少し理解できた気がする。彼らにも彼らなりの人生が有るんだと反省した



 しかし、イズミは光の具合が気に入らないと言っていたが日焼け止めを気にする必要もなければ、温水な事もあり今みたいな少し肌寒さも残る五月という季節にも楽しめるいいレジャー施設ではないかと考える。まぁ我々の場合は飯食って酒飲んだだけで帰ってきた事は今は忘れよう



 少ししか水の中に入っていなかったけれどもやはり水圧の力は偉大だ。少しだけ体が気だるく眠気も感じられる。まだ午後十時にもなっていないのに深夜のテンションで配信してしまい、車の中でカラオケ大会が開かれる。一応広告無しでなら配信してもいい曲に絞って歌う事が出来たのは少しだけ残っていた人間としての理性が成せる業だろうか?二度目のBANの危機は回避できた



 陽気なまま家まで帰ると配信終了と同時に自分の部屋に駆け込みすぐに眠った。


 なんだかいつもより早く深く眠れたような気がする。たまには歩くだけでなくしっかり運動らしい運動をするべきかなと寝起きの頭で考える。

 


今日もイズミは当然の様に横で寝ていた。そろそろ鍵の設置を検討しよう




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