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第十八話 イズミと母の共通点

 

 今日は昼食をイズミの母である朝陽さんと一緒に済ませる事になった


 夜の仕事をしている朝陽さんにとっては寝る前の食事になってしまうが、なんだか今日は寂しくなってしまったらしく朝方になって連絡が来た。



「なんだかねぇ…まだまだ三十代のお客さんがね? 結婚を諦めてる~とか言うからね、いつかいい人が出来る~なんて無責任な事言っちゃったけれどねぇ…? よく考えてみたら私も今は独身なわけじゃない? そしたらなんだか急に寂しくなっちゃってぇ…ヒック…」



 酒臭い呼気のまま昼間から回転寿司でまだ酒を飲んでいる朝陽さん。隣ではイズミが唐揚げや肉寿司をバクバク食べている、店からすると迷惑な客じゃないだろうかと内心ひやひやだ。


 それにしても朝陽さんもまだ再婚に関しては考えているのかと少し驚いたが、まだ四十歳前後なのであれば当然かもしれないな


 スナック務めであれば男性との出会いなんて山ほどあるだろうに…というか旦那との出会いがまさにそうだったのだから次々にアプローチしてみればいいのに、と言ってみても



「別に男の人と一緒になりたいとかではないのよぉ…? それに大我ちゃんがイズミの事を取ってったとか考えてる訳でもなくてぇ…本当に人肌恋しいだけなのよぉ~…慶二さんが居てくれたら一番いいんだけどねぇ…はぁ…」



 そうは言われても、イズミと一緒に住むようになるまで誰かと一緒に居たいと思う事なんか無かった自分からするとピンと来ないというか。ペットすら飼いたいと思わなかった


 そうだ、それこそペットに犬でも飼ってみればどうだろうか? と提案してみるととても怯えた表情で拒んでいる



「イヤよぉ…私まだ小さい頃に大型犬に押し倒されてお腹の上でずっと腰振られてから犬はトラウマなのよぉ…」



 なんて面白いエピソードをさらっと話すんだこの人は、満を持して持ってくるエピソードだろもったいない。それならネコやハムスターなんかはどうだろうか?と提案してみた



「ネコもハムスターも何年か前に考えたことあったのね…? でも、これから何年も一緒に暮らしていって、いつまでも一緒にいるものだと思ってから先立たれて…明日の分だと用意していたエサも…チュールも…家の中にはあの人の面影だけがぁぁぁぁ…うぅぅぅ…慶二さぁぁぁぁん……」



 めんどくさい地雷を踏んでしまった。これだから未亡人の扱いは難しい…ただ確かに死んでしまった翌日に半分だけ入ったエサだとか、食器やブラシが家の中にあるというのは中々にメンタルをやられそうだとは思う。じゃあ育成ゲームでもやってみればいいんじゃないですか?と言っても今までの人生でテトリスしかやった事が無いらしい。この人がまだ四十代だと信じたい



 簡単にペットと同棲生活を体験できるゲームは一昔前から一定の人気を得ている。今ではVRのゲームにもなっているが流石にそこまでステップアップさせる事は無いだろう。段階を経てゲームにたいして興味を持ってもらおう


 RPGもやった事がなければパーティーゲームもない。ボードゲームもない。スポーツゲームもレースゲームもないないないない。何をやって生きてきたんだこの人は?



 聞けば朝は自転車で学校に行き、帰って来てから宿題をすぐに済ませて友達と駄菓子屋で遊び、帰ってきたら晩御飯を食べてテレビを見て、お風呂を上がったら勉強をしながらラジオを聞いて、寝て起きたらまた次の日も…だとか。なんと清々しいまでに昭和なんだろうか…経験した事も無いのにノスタルジックな気持ちになってしまう。


 ただ現代の大人はゲームもネットもしなければ遊び場なんてないのも事実。朝陽さんは寂しいのではなくて退屈なだけなのではないか?一人でも遊べるように帰りにゲームを買って帰ろうと誘う



「でも大きくなってからゲームするなんて新鮮だわぁ、昔はファミコンばっかピコピコやってたら頭が悪くなる~って皆言ってたのよー?」


 ファミコンだのピコピコだの死語だらけじゃないか



 この人に買ってもゲームなんか出来るのだろうか?と不安になりながらも最新ゲーム機と数本のソフトを買って帰る。流石にブラウン管のテレビを使ってるなんて事は無いが、HDMIがどーのこーのと説明すると本当に訳が分からないんだろうな…という顔をしていた


 とりあえず設定だけして分からない事や動かなくなったら電話してくださいと言って家を出た

 その際にもなぜかゲーム機を持ち上げ下から覗き込んでいたが気付かないフリをした…



 夜の配信中にイズミの携帯が鳴った。朝陽さんが仕事に行くために起きたらしい。するとゲームのランプが付きっぱなしで寝かせるにはどうすればいいのかと聞いている


 寝かせる…?スリープモードの事を言ってるんだろうか?イズミは小さいボタンを押せばいいと言っているが朝陽さんからするとどのボタンも小さいと言う。側面にボタンがあるから、長押ししないで少しだけ押し込むと画面だけ消える。そう何度か伝えた後にバツッ…と明らかに何かを引っこ抜いた音が聞こえた。普段は感じさせないがこういう所でイズミの母親だなと実感する



 それから小さい頃に見た事があるという今ではレトロな作品を楽しんでプレイしている様だ。なぜかクリアした後にED画面と自分を撮った写真を送ってくるのだが、世界を救ったのに誰にも知られないのが悲しいからとの事。



 仕事中も年配のお客さんとの話題が増えて、今ではおススメされたゲームを消費するのが大変なほどだという。本人も出不精になってしまった最近の自分にピッタリな趣味が出来たと喜んでいるが、少し心配になるのがRPGをやる時に最初の町で過剰にレベルを上げてしまったり、その街で買える新しい装備品などを一式すべて買ってしまうのだという。



 もしかしたら強い敵が出てきちゃうかもしれないと心配なのだと言うが、いまだにそんな事態には遭遇していないという。これはイズミにも言える事だが、苦戦する事が楽しいとは思わず、いかに苦戦する事なく冒険を進めていくかが重要らしい。


 この性質上二人ともRPGの進める速度がやけに遅く、そして終盤のレベルはやけに高い。ラスボスに苦戦した記憶はないそうだ



 親子とは変なところで似るものだと思ったが、流石に仕事もしているのだからそんなに長時間のゲームはよくないと注意した所、なんと今では職場のスナックに持って行ってお客さんと一緒に遊んでいるらしい。普段はカラオケに使っているモニターにHDMIを接続し朝陽さんのプレイを見たりお客さんが裏技を披露したりと大盛り上がりらしい。



朝陽さんも『これなら世界を救った後も寂しくないわ~』と満足気な様子だ


 そしてお客さんにとってはかわいそうな部分もあり、少し時間を空けて行ってしまうと以前プレイしていたタイトルを既にクリアしてしまっている為、最近ではゲームの結末見たさに足繁く通うようになったお客さんも多いのだという



 なんとゲーム実況のシステムを商売に上手く落とし込んでいるとは、いずれは自分達のライバルとして配信界に彗星のように現れるかもしれないと大我は戦々恐々としていた。


 そんな母の様子を見てイズミはホッとしているようにも思える。


 確かにイズミが家にさえいればあんな風に思い悩む事は無かったかもしれないが、朝陽さんも言っていた通りにイズミの人生はイズミだけの物なのだから、自分勝手に生きてもいいとは思う。



 事実、俺も育ての親である老夫婦の事を放っておいて好き勝手に生きていたが、そのおかげで今イズミと一緒に暮らせているんだと後悔はしていない。人生なんてそんなものだろうと思って生きるしかないんだろう


 もっと言えば俺の父親でもある神田慶二とやらが死んでなければこんな事にはなってないので大体あいつが悪いんだろう。


 まさかあんなにも似ていないと思っていたこの親子にゲーム内でこんなにも共通点があるとは思わなかった。面白い物だ





兄さんは私が母さんの写真を見て笑った時に、安心したとでも思っているんでしょうね。そういう所が兄さんの鈍感なところだと叱ってあげたくもなる。

私が母さんとの間に見つけた共通点はそんな部分ではなく

主人公の名前だって気付いてないんでしょうね

そんなところまで似てしまうと母さんみたいにいつか苦労するかもしれないけれど

それもあなたの為なら悪くないと思える

なんだかんだ、親子だなぁと私も思った

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