第199話 実写映画化との闘い
今日は珍しく配信の中で俺と視聴者達が結託してある一つの問題について語り合っている。その題材となっているのが日本だけでなく全世界的な人気を博し、つい先日完結に至った大人気漫画の実写映画化についての話だった。その漫画は全25巻という昨今の漫画には珍しい引き延ばしなども無く、作者の意向通りに完結する事が出来た傑作であり、雑誌の最終掲載号で重大発表があるとの告知を聞き界隈では戦々恐々としていたのだ。
もちろんファンの間では猛烈に批判され実写化を辞めるようにSNSでは作者に突撃する者もあらわれる始末。未だ担当監督も発表されておらず、もしも過去に劣悪な実写映画を担当していた監督だったらと思うと我々としても気が気ではないのである。実際ここ最近の実写化作品には決まった監督、決まったキャストが集められ何かしらの利権が絡んでいるのかと語り草にされるほど……どうか作品に対する愛を持った監督が選ばれる事を切に祈っている。
と、いう所までが今まで配信で話していた部分なのだ。コンビニのカルパスを噛み砕きながら酒を飲み管を巻いている光景は厄介な客層にしか見えないだろう、しかし自分だけでなくこれだけ許せないと怒り心頭な購読者が居るのだから決していちゃもんだとは言わせない。愛する作品が無名アイドルたちの売名の場として設けられるのが我慢ならない、アニメ映画の芸能人枠とかもクソ喰らえだと思っている人間なんだ俺達は。
「実際これで成功した例なんてまだ片手で数えられるくらいだろ? 何年やってんだよ漫画の実写化なんて……これについては作者が強く言えない人だったりもあるんじゃないかなって思うわ。出版社が勝手に決めてたなんて話も昔聞いた事あるし……」
「だから一概に『なんでGOサイン出したんだ!?』とか作者に行くのは本当にやめた方が良いわ。これから先も同じ雑誌で連載するかもしれないんだし言い辛い事もあるだろ。」
「ただこれで『胸を張って言える傑作です!』とか前向きな発言されてこけた時が怖すぎる……なんで有終の美を飾る事が出来なかったんだと、どこをどう見たら傑作だといえるのかと原作すら嫌いになる可能性がある……」
「一番は成功して作者にがっぽり金が入る事なんだけどなぁ……」
【最悪なのは魅力的なキャラが株を落とす事な】
【原作での大事な部分が無かった事にも追加で】
【棒読みコスプレ女は共感性羞恥だから辞めて欲しい】
これらの要因がすべて解決される為には優秀で作品愛に溢れた監督と、原作キャラにイメージ通りのベテランの実力派俳優たちを使うしかないんだが、如何せん原作の主人公は20代前半だし主人公と同じくらい物語の中心にいるヒロインは16歳という設定な事から、ほぼ確実に顔がイイだけの若手俳優か演技の下手くそなアイドルが演じる事になるだろうから事前の段階でほぼ詰んでいるといえる。
しかし大団円を迎え花道を去っている間にファンに向かって『実写化しますんでお楽しみに!』と言えるほど自信を持てる根拠はどこにあるというのか? 完結の熱が冷めやらないファンから『申し訳ないんだけど近頃の作品完結に際して告げられる重大発表なんて、我々からしたら間接的な自殺行為にしか見えないんですよ』とまで言われてもまだ笑顔のままで居られる根拠とはどこにあるのか?
「まぁ……金にはなるんだよなぁ……」
【会社はね】
【その金を生むのがファン達じゃないんだもんな】
【スポンサーと芸能事務所見て商売した方が儲かるのよ】
哀しいが駄作を作り続ける監督が、世界観を無視した作品を何本も世に出せるからくりがこれなのだ。上から卸された意向を素直に聞いてキャストを組んで、自我を持たずに金だけ貰う人間こそが実写映画化に求められる人材なんだろう。原作ファンなんて知らぬ存ぜぬで作者が監修する事も無く『あんなの知りません』とまで言わしめる作品だって何本も世に出ているし、その監督は引退どころか同じ様な事を繰り返し業界にのさばっていたりもする。
盲目的に好きなコンテンツを追う事が正解では無いと最近のオタクは気付き始めている。SNSが発達した事によって様々なコンテンツのコミュニティが出来上がっている今の時代では、追い続ける事が苦しくなると簡単に離れてしまえる状況なのだ。そして別の界隈が盛り上がれば過去好きだった作品が実写化した事なんてどうでもよくなり、また例によって汚い大人が舌なめずりをしながら近寄ってくる。最近のアニメコンテンツなんてこんな事の繰り返しだ。
「嫌いになったら離れろなんてよく言われるけどな、嫌いになる原因から近づいて来てるんだから理不尽極まりないだろ。このままだったらコンテンツが消費されるスピードに追い付かないわ」
【監督は風化したらまた表に出て来るしね】
【最近はもう成功じゃなくて失敗しない事を祈ってるわ】
最近ではアニメ化すらも警戒しつつ見なければいけなくなっている人も多いんだとか。何クールで作ります! なんて宣言されてから作られる作品にいい思い出は無く、確実に原作のシナリオをカットしますという宣告をされてからのアニメ化なんだから素直に楽しめず。それを乗り切れば今度は実写映画化、ドラマ化なんて物も待ち受けている。そうなってくると必然的に耳を塞いでそっぽを向く事が正解としか思えなくなってくるなぁ……というのが本音だ。
「せめて最小限の傷で済んでくれるように、祈りながら今日は眠ることにします。お休みなさい」
配信を閉じる瞬間はまるで作品の葬式でも執り行われたかのようだった。隣に居たイズミはもちろんそんな事を気にも留めずにそそくさと風呂場へと向かって行くが、一般人の感覚っていうのはこんなもんなんだろう。俺らが気にしすぎというかのめり込みすぎてるんだろうな、コンテンツに……
もしかしたらこの作品から超人気俳優が生まれて何十年先も語られる作品になるかもしれない、誰かが応援しているアイドルが苦難を乗り越えてやっとのこと掴んだ主役の座なのかもしれないと考えれば少しは祝福する気になるだろうか? ただし監督キサマは絶対に許されん。
なお後日発表された監督が、邦画においては名監督と知らされた時にはオタクたちもそうじゃないと言いたげな苦い表情をしていたのはまた別の話しである……




