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第195話 クリスマスパーティー

 


 早いものでクリスマス当日、如月家のキッチンでは大量の肉を準備しつつ来たる災厄に備えでもしているのか、如月大我が険しい表情で腕を組みながらチキンが焼ける様子を眺めている。



「今年も奴等は来るのだろうか……?」



 奴等とは言うまでも無く彼の母親三人衆の事であり、イズミの友人である大田まさみの事でもある。クリスマスとは恋人同士で過ごす事が一般的であると昨今の世論では語られているにもかかわらず、相手のいない奴等はこぞってこの家に集まり惰眠を貪り孤独を癒そうとするのだ。



「いや待てよ……? そういえば大田さんは既に恋人が」



 大我の言う恋人とはこのマンションの守衛として働く大野卓三の娘である大野楓の事らしいが、大我が勘違いしているだけで大田まさみとは別に付き合っている訳でも無く友人関係な事にはまだ気付いていないらしい。希望的観測で物を言うから余計にガッカリするのだといつになったら分かるのだろうか?



「母さん達今年は来ないって」


「ほ、本当か!?」


「なんか店でパーティーするんだって」


「おぉ……神は我に味方せり」



 余計なお世話かもしれないが無駄な期待を抱かせない為に言ってしまうとこれは"嘘"である。こう告げられた大我が油断している隙に、来ないはずだった彼女らがサプライズでプレゼントを持って訪れるという筋書きらしく、普段から部外者の事など視界に入らないイズミは特に断る理由などなく仕掛け人として一役買ったという事の様だ。大我の落胆する顔が目に浮かぶがそれもまた一興だとでも考えているのだろうか?



「そうか……じゃあ今年は配信も休んで二人きりなんだな」



 先程まで険しかった表情は綻び料理をする手にも活力が戻っている様に感じられるが、実はこの後大野楓を引き連れ大田まさみもこの家を訪れる予定になっている。なんでもクリスマスに贅沢をしたり美味しい物を食べたりなんて思い出が無いという楓の事を不憫に思ったまさみが



『じゃあ大我さんのお家でご馳走になりましょう! サプライズでプレゼントも持って!』



 と口走った事が発端だったらしいが、常識人である楓がそんな気軽に他人の家へ押しかけるなんて良しとするはずも無く……



『え、いいんですか?』



 彼女も美味しい物が食べたかったらしい。つまり二人っきりどころか今年は一人増えるという大我からしたら最悪に糞をトッピングした悪夢のようなクリスマスになりそうだ。それでは現実が彼を迎えに来るまでの軌跡をご覧いただこう。



 * * *



 そうか、イズミと二人っきりのクリスマスか……なんだかイズミが居るのなら毎日が特別な日だと思ってはいたが、意外にも俺は"たかだか12月に存在するだけの一日"に少し浮足立って胸が高鳴っている。この24時間に一体何の意味があるのか、そこに意味をもたらすのが俺の役割なんじゃないのか? と考える事で少しばかりの重圧を感じているのかもしれない。



 イズミが酒でも飲むのならこの年で一番のワインでも用意していたかもしれないが、雰囲気だけを味わおうとした結果シャンメリーを数本買って冷蔵庫で冷やしたりなんかもしている。普段はあんなに冷めた態度で世間の催しを斜めから見ているだけにイズミに引かれないだろうかと少し心配している……こんな事ならハロウィンとかも渋谷で騒いでおけばよかった……



「いい匂いがして来たわね、もう一匹あるんでしょ?」


「あぁ、もう仕込みも終わってるから食べてる間には焼けると思うぞ」


「楽しみだわ」


「そうか、ならよかった」



 イズミはいつも通りに見えるが……いやそれでも少しは俺と二人きりという事に喜びを感じてくれているんだろうか? そうだといいのだが、俺の目からは丸ごと食べられる一羽のチキンに気分が高揚しているようにしか見えない。いや、そうだとしてもイズミが喜ぶ事こそ俺のしたい事である。それはどんな日だろうが変わらないスタンスに違いない。



「これにローストビーフと、米は流石にいらないよな。今年は二人きりだから十分だろ」


「えっ」


「ん? いやほら残しちゃったらあれだし、どうせ明日食べるなら出来たてでと思って」


「いや……食べると思うわ、今日は特に」


「いやいやw 流石に全部で5kgもあるんだよ? いくらイズミだって……」


「い、いっぱい食べなきゃダメなのよ!」


「???」



 なんだイズミがこんなにムキになって俺に催促するなんて珍しいな……まさかイズミのやつ……



 食事の後の事も考えて……!?



 いやいや、まぁ確かに性の6時間だ何だと言われているけども俺達まで他人と足並みを揃えて性行為をする必要なんてない訳でな……別にその為に沢山食べなきゃいけない訳でも無いし、でも確かにこの浮ついた状態で同衾なんてしようものならかなりのカロリーを消費する事が予想される……男に限りはあれども女性の体は何度でもなんて言うし……やっぱり俺だけでなくイズミも今日の事を楽しみにしててくれたんだな、よーし色々と兄さん頑張っちゃうぞ!



「まぁそうだな……多いに越した事は無いか///」


「ほっ……」



 本来なら正月に出すつもりだった高級和牛のすき焼きセットを作っちゃおうかな! 牛肉は精が付くって言うし俺も鰻とか焼いちゃおう、夏場の鰻が旬だと思っている人も多いけど本来は旬ではない鰻を売る為に土用の丑の日が出来たなんて逸話もあるくらい、冬の鰻は天然物であれば想像を絶する美味さだ。本当ならワインで優雅にと思っていたけど日本酒とビールも飲んじゃおうかなぁ!



 しかし飯を食う前からこの後の事を想像してしまい俺のクリスマスツリーがいつもよりイルミネーションされている様に感じる……こんなのに精が付いたらどうなっちゃうんだろう!? もしかしたら正月まで収まらないかもしんないねぇ! ねぇ!?



 ガチャ



「えいいぃぃ~www お疲れぃ~www」


「メリークリスマース大我ク~ンwww」


「お母さん達でプレゼントも買って来ました~♡」


「いやぁまさか朝陽さん達も来る予定だったとは! そこでばったり会ったんですよ!」


「お邪魔します……わっいい匂い」



「────────────え?」



 突然の出来事に幻覚かと疑う如月大我の脳内は、思考を停止した。


 受け入れがたい現実がそこにあるのであれば知覚する訳にはいかないという判断。


 結果、如月大我の脳が導き出したのは


 ──────立ったままの気絶ッッッッ!!!!



 一方、侵入者が来たのなら連絡をしなければならない守衛の大野卓三はと言うと……



(楓、美味しいもの食べられると良いな……出来れば父さんの分もちょろまかして……)



 親バカ、いやバカ親だった 


 つづく!!


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