第193話 超能力少女イズミ
「はぁ~あ、急に得体の知れない存在から超能力授かって能力者と戦いてぇ~……」
「・・・」
まぁー--た始まった
兄さんが配信中に妄想を膨らませた時は長々と展開だけして、大概毒にも薬にもならないテンプレを語って投げ出して終わる。自分の欲求を吐き出すだけの自慰行為を全世界に向けて配信している事に気付けばいいのに……ただ兄さんの自慰行為を眺めていると考えたらやけに興奮して来たわ、続けなさいよ。
「とっかかりとして自分が何系の能力者になるのか考える必要があるな、炎とか水は仲間が持ってて欲しいから除外で」
当然のように仲間がいる前提なのね
「俺だけが使える光属性とかも良いんだけどさ、最初は光属性かと思いきや俺の親が闇属性で光と闇の混合属性でした! って後出しは俺的に冷めるんだよ。純粋に聖属性にクラスアップして欲しい」
【複合属性登場は引き延ばし感満載だわ】
【ご都合主義もラインが難しいな】
【仲間の死で力が宿るのは好き】
なんで当然のように会話に混ざってるのよ。こういう層は普段の料理配信とかどんな顔して見てるのかしら
「武器から攻撃が出るのか手から出るかも重要だよなぁ……手からだと魔法感が増すし武器から出ると伝説の○○系で捗るしな……」
【肉体が変化して武器で戦えば?】
「それは正直かなり有り。ただ後半になればなるほど画力が求められてコマ割りが面倒になる気がするな、力が増すほどにデザインの独創性が必要になるし下手すりゃダサさで敬遠される」
なに? 漫画でも描くつもりでいるの? どうせ妄想のまま投げ出すんだから作者の事情とか考える必要ないでしょ
「俺的には肉体の一部が武具になる方が分かりやすいかなって思うけど、そうすると遠距離で戦うキャラの魅力を出すのが難しくなるんじゃないかなって……」
【不可避の一撃とかばっかになりそう】
【見えない所からチクチクしてそう】
【最終的に捉えられない速度で詰められて負けそう】
「それな~」
よくもまぁ存在しない物に対してスっ…とあるあるが出て来るわね。ていう事はもうそれ系の漫画があるんでしょう、兄さんが手を出したって○○のパクリだってネットで叩かれるに決まってるじゃない。いや出さないのよ漫画なんて。
「ライバル的ポジションも必要だけど、それが鎧とか着て素性の分からない幼馴染だったら燃えるよな」
【俺ならその幼馴染女にしちゃうけどなぁ……】
「うわぁ……その子が死ぬかどうかで漫画の評価決まるヤツじゃん……プレッシャーやばそ~」
あぁ……でもそういうのは見た事ないかもしれないわね。そりゃレディースコミックとかで女性主人公の場合は有るのかもしれないけど、少年漫画で異性の幼馴染がライバルとして登場は新しいかもしれないわね。でもそういうのって得てして死んで仮面が剥がれてから気付くんじゃないの?
「でも生存ルートがまるで思い浮かばん……大体死んでから気付くし」
そうそう
【洗脳されてる前提で考えてるから殺さなきゃいけないのでは?】
「なるほど」
なるほど
「じゃあ幼馴染は主人公と知って殺しに掛かってる訳か……それが世界を救う為かシンプルなNTR系列なのかで連載する雑誌は決まるだろうな」
今は青年誌の方が自由に出来るわよ
「そこら辺はラスボスの目的次第か、俺が何者かに力を授けられたって事はそれなりに意味があるんだろうし、やっぱ魔王の目的も世界征服なのかなぁ……となるとやっぱ洗脳しか思い浮かばん」
【もしラスボスが"ヒロインを殺した世界線の主人公"だとしたら?】
「おいおい、ネタバレやめろや!」
これあなたの漫画なのよ
「でもそれなら自分を救うために別の世界線からやってきて、死んだ目から涙を流す主人公を見て手を貸してしまうシチュエーションが出来上がるな……にしても主人公気の毒すぎるだろ」
段々と形になって来たわね、これから仲間の素性も考えなきゃいけないし力を授けた者が本当に止めたかった世界の運命とは何なのか? そしてヒロインと主人公はどうなってしまうのかって所だけれど……そろそろかしら。
「まぁ今日はこんな所かな」
ほら見た事か
結局自分が気持ち良くなってこっちが前のめりになったら放り投げてしまう早漏人間め。まぁ夜の方は中々の遅漏で絶倫なんだけども。こうなったらこの物語に次回なんて存在せず未完のまま虚空を漂うだけの存在になってしまう。ていうか誰か参考にして漫画書き始めてるまであるわよ、見知った物語が後の世に出て来るかもしれないと考えたら胸が熱くなるわね。
「よしイズミ風呂入るか」
「えぇ」
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珍しい事に風呂から上がってもあの物語が気になりすぎて中々眠れないわ。実は兄さんが話してた架空の物語に興味が有るなんて恥ずかしくて言えないし、続きが気になる……ていうか仲間の名前が一人も出てないのにクライマックスから組み立てていくって聞いてる側としては生殺しじゃないの。結末だけ脳内に直接送って欲しいわ兄さん。あっねむっ、急にねむっ……こんなバカなこと考えてないで大人しく寝るとしましょう。
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「イズミ……俺はこうするしかないんだ……だってこうしなきゃどの世界線でもお前はッ!!」
「……ん?」
どういう事かしら、やたらダサい黒色の鎧を着た兄さんが剣を握りしめて涙を流さんばかりの剣幕。その後ろには宙に浮いてこちらを見ているサキュバスチックなコスプレをした私……? どういう事かしら、もしかしてこれは夢……明晰夢っていうのかしら。初体験ね
いやこれあの漫画の世界だ
そうよ、このシチュエーションは兄さんが語っていた創作漫画の世界観。きっとこの世界では私と兄さんが幼馴染であそこで浮いているのが別世界線の私、つまりこの世界におけるラスボスって事ね。確かに目が死んで生気のない表情をしてる気がする。
いや……してるのかしら?
なんか鏡で見る普段の私もあんな顔してる気がするけど……まぁ設定準拠なら死んでるんでしょ、どうでも良いわそんな事。それよりもこれから兄さんは私を殺さんと襲い掛かってくる訳よね、だとしたら自分の能力も把握していない私は成す術もなく殺されてしまう。いくら夢と言えども兄さんに殺される精神的ショックは計り知れないわ、起きたら精神が死んでいるかもしれないし今の私はとても危険な状況って事ね。
なんか動き止められる気がするわ
なぜかは分からないけど私の能力はどんな物体でも拘束できる能力な気がする。映画のラストシーンで一気に情報が脳内に流れ込む時みたいな現象が起こってるのかしら、あっ兄さんがこっちに向かって剣を構えて向かって来てる。どうせ私に止められるのに泣きながら剣を構えてる。無力な兄さんって新鮮でかわいいわね、どうせ夢ならついでに蹂躙しちゃいましょう。
「くっ……イズミ! だったら俺を殺せ!」
いやいやそんなエロゲーのテンプレみたいな事言われたら脱がすしか無いじゃない。"あっちの方"も現実と同じなのかしら? 時間の流れが存在しない夢の中なら何時間でも楽しめるって訳でしょ? 夢万歳……ってそういえばアレの存在忘れてたわ。こっちの世界の私も他人が兄さんの体をまさぐるなんて事を許す訳も無く、案の定とんでもないスピードでこっちに向かって来たわ。それで兄さんの服を脱がして……パンツも下ろして……
あ、こいつも私だったわ
これは僥倖、身動きの取れない兄さんともう一人の私との時間無制限3P一発勝負が幕を開けるのね。さぁどっちが多く兄さんから搾り取れるか勝負よもう一人の私……!
* * *
「えぇ……起きたら寝てるはずの妹が俺の太ももに腰振ってるぅぅ……怖いぃぃ……」
「これは欲求不満から来るものなのか夢の中で何者かとおっぱじめているのか……だとしたらこんな最悪の寝起きは無いよ。叩き起こしてやる……おいイズミ! 起きろイズミ!」
「……んぅ」
「一体どんな夢見てたんだお前は、まぁ大体想像は付くけども!」
「んぁ♡」
「ちょっ……イズミ! イズミこれ夢じゃないから!! 起きてるから!! 俺も朝だから起きちゃってるから!! イズミ!! イズミー--!!」
それからしばらくして脳が覚醒したイズミと俺はベタベタの体をシャワーで綺麗にし、こんなエロ本みたいな事が現実に起きるんだと感心したものだ。しかも夢の中でさえ俺と盛りまくっていたのだというから驚くと共に、内心少しホッとした俺だった。
「あっ」
「なんだまさかまだ隠してる事でもあるのか?」
「仲間の顔見るの忘れてたわ」
「徒党を組んで俺を襲ってたのか!?」




