第191話 それもまた人生・・・
【前回のあらすじ】
大田まさみによる無意識下でのセクハラが大野楓を追い詰めた。そしてついに我慢の限界を迎えた楓は父の職場でもある如月大我のマンションへと押し掛けるのであった
「すみません如月さん……娘がどうしてもと……」
「別に構わないよ、俺も娘さんには色々と話を聞かなきゃいけないと思っていたから」
「……私にですか?」
「まぁ座りなさい、大田さんと同じバイト先に務めているんだってね?」
「……はい」
むほほ、如月大我です。最近大田さんからバイト先の事で相談されるのだと母親連中から聞いていたが……これは間違いなく女性同士による色恋の話だとワイの百合百合センサーが申しているのでおじゃる!! あの変態的レズ女の大田さんが女を前にして我慢なんか出来る訳も無く、セクハラに次ぐセクハラを重ねたであろう状態で未だにバイトを続けていられるという事は、すなわち二人は既に結ばれていると考えて良いだろう。たまらないですねぇ……
そして突然俺の家にまで押しかけて来たという事は大田さんに関する事で相談でもあるのか? それとも大田さんに何か入れ知恵されたのか……まぁ直接頼まれるのであれば撮影のスタッフに加えてやらんでもないが、目の前でキスとかし始めちゃったらこっちも困ってしまうからなぁ~^^ そこはしっかり配慮していただきたいものですねwむほほw
「あの……大田まさみさんの事なんですが」
「あぁ、まぁそうだろうなとは思ってたよ」
「そうですか……では単刀直入にお願いします」
「彼女に今働いているバイト先を辞めないように言ってもらえませんか?」
「え、大田さんバイト辞めようとしてんの?」
「まだそうとは決まってませんが、そうなる可能性があるという段階で」
「いやぁ~……あの人辞めないと思うよ?」
なんでこの娘がそんな所に気を回してるんだ? だって大田さんも付き合ってる相手が同じ職場に居た方が嬉しいだろうし、なんなら店閉めた後にレジとかで一発ヤるのを楽しみにしてそうな物だけど……それともいざ付き合ってみたら体は極上だったけど性格が問題ありだったとか? まぁ急に父親の雇い主相手に彼女の事で直談判しに来るくらいだから、少なくともまともでは無いだろうな。
ていうかそんなやり捨てみたいな事する人間だったのかあの女、まぁイズミに一筋みたいな事言っておいて一目見ただけの女相手にあっさり乗り換えるくらいだからな、さもありなんって所か。それで違和感に気付いた彼女の方から父親の伝手を使って、と。朝陽さん達に相談してたのってこの事だったのかもな、いい大人が揃いも揃ってどうにか出来ないもんかね……
「まぁ君の言いたい事はよく分かるし、彼女の人間性に問題がある事も理解しているよ。分かった、俺の方から連絡しておくよ」
「そうですか、話が早くて助かります」
「・・・」
「・・・」
「あの、連絡は……?」
「え? 今するの?」
「そうしていただかないと困りますので」
「あぁそうなんだ……」
(今の流れでどうして後日という思考になるんだろうか)
めんどくせぇな~、百合は好きなんだけどいざ自分が関わるとなると女の面倒臭い所が前面に出てて萌える気が削がれる。適当に大田さんを説得するフリして帰って貰わないと、俺は女性同士のイチャコラ遠くから眺める事に至極の快楽を感じる侍だからな。お、出た出た
「もしもし大田さん? 今日バイトの日?」
『……そうですけど』
「なんか大田さんバイト辞めようとしてたりする?」
『な、なんですか急に……別に……ないですけど……』
「あのなぁ、別に俺が思ってる事じゃないんだけどな? 一回自分が取り組むと考えた事って適当に済ませちゃいけないんだよ。それは誰かに対する不義理になってしまう」
『そんな事……分かってますけど……』
「いいや分かってないね、お前には自分が男であるという自覚が足りていない」
『なんですか失礼な! 私はれっきとした女ですよ!』
やれやれ……大田まさみという女はまだ自分の立場が分かっていない。あいつは『女を愛したなら必ず幸せにしなければいけない』という責務が自分の肩に乗っている自覚が無いんだな。俺の大好きな百合漫画にはタチの女の子が自分は女だから彼女を養うだけの甲斐性が無いのでは? と一人で悩み、長い迷宮に迷い込んでしまったという話が有った。特に山もオチも無い中で病んだ彼女を中心に2巻も消費した時ばかりは追う事を辞めようかとも思ったが……その結末は今までのフラストレーションすべてを吹き飛ばすほどの爽快感が有った。
その時のセリフを彼女にも送ろう
「いいか大田さん、人間という生き物は生まれた瞬間に性別が決まるんじゃない。与えられた器の中で自分がどちらの性別になりたいかを決めていくんだ」
「生きて行く中で誰かを守りたいと思い、守れる力を身に着けた時にその人は"男"として生を受けるんだ。俺はこの歳になって初めてイズミの為に男になれたと思っている」
『あの……一体なんの話を』
「だからお前にも本当に大切な人が居たとして、その人を守りたい、その人が居られる場所を守りたいと思うんならな……逃げて良い事なんて有りはしないんだよ。怖くても戦わなくちゃいけない。最後までな」
『……っ!?』
「離れたくない居場所にお前がなってやれよ、"男"ならな」
『大我さん……あのっ』
「俺が言いたいのはそれだけだ。じゃあな」
「ふぅ……こんな所で良かったか?」
「は、はぁ……ありがとうございます……」
(何言ってんだろうこの人……?)
* * *
その後俺はバイト終わりの大田さんから連絡を貰い、大変元気が出て大野さんとも話をする事が出来たと言っていた。まったく世話の焼ける野郎だぜ……まぁ俺は今後も外野から楽しませて貰うつもりだから、せいぜい頑張れや。しかし大野さんの娘も好き物だねぇ……あんな性獣から離れられなくなるなんて見た目に似合わずエグイ性癖してる可能性も……
いや、これ以上考えるのはやめよう。二次創作における質感の追及はどんどん非現実へと向かう行為なのだ、今はナマの質感を噛み締め今後の発展にも期待するとしよう。これも消費期限ギリギリの干物を大野さんに分けてやった事が幸いしたのか、神様は見てるもんだな~!
「さてと、じゃあ風呂に入るかイズミ?」
「ねぇ兄さん」
「ん? どうした?」
「結局あの女誰だったの?」
「どんだけ興味無いんだよお前は」
大田さんには俺達のようになれとは言わない。そんな事は不可能だし、自分達だけの色を持ってさえいれば俺たち以上に幸せだろう。今まで散々いがみ合っていた俺達だけど、最後くらいは助けになったと思っていいだろうか?
長い対立だったが彼女も身の丈に合った幸せを掴めたのだと考えると目頭が熱くなる。一時とはいえ同じ女を愛した者同士、これからも良き友人として百合の供給を止める事が無いようにお願いしたいな。
────この世界には妹を愛する兄が居てもいい
────同じ性別を愛する者が居てもいい
────それもまた人生だろう
※全部大我の勘違いである




