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第189話 ジェネレーションギャップの刑

 


 季節はそろそろ冬に差し掛かろうとしているからか、街で電飾を見る機会が増えイルミネーションの準備が進められている事が伺える。今年のクリスマスはイズミと二人で過ごす事が出来るのだろうか? 俺の母親たちに配偶者でも居ればまた話は別だろうが、そんな気配は微塵も見られず年がら年中酒浸りのダメ人間ばかりだ……



「なぁ……そろそろ男の一人でも作ったらどうなんだ?」


「あ? なんだお前パパが欲しくなったのか?」


「大我クンも父親とキャッチボールとかしたくなるのかね?」


「慶二さんが生きてれば……うっ……」


「邪魔なんだよ月に何日も家に居られると」



 最近大田さんはバイトを始めたという事で家に来る頻度は減り、このマンションの守衛である大野卓三の娘と同じバイト先をわざわざ選んだというから、恐らくイズミの事を諦めたと考えても良いだろう。後はこのお邪魔虫どもを排除してしまえば俺達の生活は二人だけの安寧に包まれるって訳だ。



「そもそも毎日酒飲んで遊び惚けるくらいの資金力が有るなら恋愛するぐらい訳ないだろ? 若い男囲ってヒモにでもしてやればいいじゃねーか」


「若くて資金量の有る男が目の前に居るじゃねーか」


「顔よし金よしチ〇ポよしの3Yだからね」


「3Kみたいに下品な事言わないの!!」


「なんだ3Kって、酒飲んでる時の身内ネタやめろや」



「え……?」

「うそ……」

「またまた~……」



 目に見えて動揺しているアラフォーババア達は何やらひそひそと会議を始めた。3Kってもしかしてバブルの時代に使われていた言葉なのだろうか? これがジェネレーションギャップという物か……なんか前にもこんな事あった気がするけど、その時は朝陽さんだけだったからそこまで話も広がらなくて被害は最小限だった。しかし今回はバブルの化身が三人……早く別の話題に切り替えなければいけない気がする……



「まぁ冬は人肌恋しくなる季節と聞いた事があるからな……言ってみただけd」


「大我ちゃん、MK5は知ってるわよね……?」


「……拳銃?」



「おいおい……マジだぜあいつ」

「最低でも"マジで恋する"と間違えるかと思ったけども……」

「で、でも大我ちゃんマジで切れるのに5秒もかからないから……!」

「確かに……」



「おいやめろ、人をジェネギャチェッカーとして使うんじゃない」



 そしてまたいつもの様に割を食うのは俺とイズミで、黙々とお菓子を食っていたイズミも招集されバブル世代によるジェネレーションギャップの刑が執行される事になった。俺とイズミに三人が向かい合うようにしてスケッチブックを持ち、出題されたバブル用語にどちらかが答えられればポイントを獲得するという訳の分からないルールまで設けられてしまった。



「はいじゃあもう早く終わらせてくださいね……朝陽さんから」


「えっと……最初だから簡単なのをと思って……」



【アッシー君・メッシー君】



「……当時人気だったコンビ」


「流行ってたおもちゃじゃないの?」



「ひっ……ひぇ~!!」


「アッシー君は足用の男で、メッシー君は飯用だろ!?」


「そ……そんな……これでも伝わらないの……?」


(なんでこんな面倒臭い事引き受けたんだろうか……)



 ここからのリアクションはほぼ一緒なので詳細は割愛させていただこう。



【成田離婚】


「……いやゴメン何も類推出来ないわ」


 ※ 成田離婚の成田とは当時国際線の発着が盛んだった成田空港が語源。国内では男らしく振る舞い羽振りの良かった男性と結婚を決め、新婚旅行先の海外でトラブルが起きると英語も喋れずあたふたしてしまう男性を見て百年の恋も冷める女性が多かった事から、海外旅行から帰ってきた瞬間に成田空港で離婚を告げられる男性が多く流行した言葉。



【ゲッターズ】


「これは流石に芸人だろ!」



 ※ ゲッターズとは当時のディスコから帰る女性たちに路肩に停車した車から「家まで送っていくよ~お腹空いてない? もしよかったらご飯でも……」なんて声を掛けるいわゆるナンパ師の事。




【5時から男】


「夜勤……ではないんだろうな?」


「女は昼間ヤンキーと遊んで、次にカモにするのが5時から合流するサラリーマンって事じゃないの?」


「う~ん……惜しい!」



 ※ 5時から男とは就業時間に定められていた定時を終えると急に元気になるサラリーマンを指す言葉。元は栄養剤のCMにて退社後に飲んだ栄養剤のおかげでオールナイトで遊び回れますよ! という意味での言葉だったが一般的にこちらの意味で使われ流行語大賞にもなる。



【ランバダ】


「これは流石に知ってるわ。ほぼS〇Xのダンスだろ?」


「なんでほぼS〇Xのダンスが流行るのよ」


「そういう時代だったのよ……」



 ※ ランバダとは男女二人で踊るダンスであり、あまりにも過激な事から一部のディスコでは禁止されていた。ほぼS〇X。




 ~結果発表~


 神田朝陽 :0

 三沢晴香 :1

 厳島カガリ:0



「ほら見てカガリちゃん、今日はこんなにピーカンよ?」


「本当だ~! ねるとんパーティー帰りのメッシー君にTELしよっかな~」


「げっ、お前親父ギャルかと思ったらメッシー君キープしてんの?」


「ん~まぁ土地転がしの?」


「晴香ちゃんだってヤンエグキープしてるの知ってるんだからね~!」



「おい、そろそろ現代に帰ってこい」


「まだ介護させるつもりなのかしら」



 それから俺はこいつらに男の話をする事はやめた。同世代ならつゆ知らず現代人に俺と同じ様なストレスを与える訳にはいかない……実際の親子ですらこれほど精神的ダメージが有るというのに、親と子ほど年齢が離れている赤の他人が受けるにはあまりにも理不尽。



 もし俺がコールドスリープされて数百年後に目覚めたとしても、決して○○の事知らないの!? ウソでしょ!? なんてことは言わないようにしようと学びを得た。



 ……つまりストレス以外何も得られない時間だったという事だ。



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