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第184話 ママンのバースデイ大作戦

 


「ほらほら生物学上のママン笑って笑って~、はいチーズ!」


「あ、あはは……ありがとー大我クーン……」


「ほら産みのママンも~? 記念の日なんだから朗らかに~!」


「お、おう……嬉しいな……」



【前回までのあらすじ】

 如月大我にとって遺伝子上の母である厳島カガリと、産みの親である三沢晴香は友人でありながら誕生日が同じという珍しい関係だった事が明らかになった。それを知った実の息子である如月大我は


「たとえ俺の誕生日を二十年間も祝わなかった薄情者の親もどきであろうとも、俺にとって親は親なのだから沢山の愛情を注ぎたいと思います」


 と言ってカガリ・晴香両名の生誕祭を執り行う事としたのだった。




「それにしてもママン達は何歳になったんだい? 見るからにまだまだ若そうだけど!」


「え……そ、そうかなぁ嬉しいよぉ……」


「そりゃ子育ての苦労も知らない訳ですからなぁ! がっはっは!」


「そうっ……すねぇ」



「なんだか見ているこっちの胃がキリキリしてきますね……」


「まぁ……大我ちゃんの気持ちも分からなくは……」


「あんな楽しそうな兄さん久しぶりね」



 別に大我は出生の件について本気で怒っている訳でも傷付いている訳でも無いのは明白だが"誕生日"と"母親"という二つのフレーズだけで人の心にダメージを入れられるコスパ最高のイベントという認識だけで、今もなおカメラに向かって苦い顔でピースサインをしている二人を攻め立てているのだ。その顔はいつもの大我と違いハツラツとして、見ているだけでも若返り効果が有ると錯覚するほどに。



「ほら見てくれよこの料理! ママン達が育児放棄している間に世界各国で学んだ料理だよ! 食べて食べて!」


「い、いただきま~す……おいしー……」


「うん……自慢のむすこだー……」


「はっはっは! いっちょ前に親のつもりでいやがらぁ!」


「「あははは~……」」



「もう味なんか分かんないでしょうよ……」


「この為だけにあれだけの料理を準備出来るなんて……大我ちゃん凄いわね」


「兄さんはサメで鯛を獲るタイプなのよ」



 大我が次々繰り出す料理にはそれぞれバックボーンが有り、これは中国の宮廷料理で出される物で当時働いていた所の料理長を包丁で真っ二つにしようとした話とか、フランスで受けた差別のバリエーションを語りながらワインを注いだりもしている。思い出話としてはあまりにも暗すぎる内容を聞きながら子供の成長を喜んでいるのだろうか? 本日の主役である二人は目に涙を浮かべている様にも見える。



「それにしても俺の苗字が如月で良かったわ~カッコイイから気に入ってんだよね! もし厳島とか三沢とかになったら恥ずかしくて外も歩けねぇや! 認知してくれなくてありがとうなママン!」


「そ、そろそろ帰ろうかな……なぁ三沢っち……?」


「お、おぅ……お腹いっぱい……」



「え、なんすか? また置いてくんすか?」



「も……もうちょっとだけ……」

「うんうん!! そうしようそうしよう!!」



「エグイっすねぇ……」


「抉られるわよぉ~あれは……」


「飯がうめぇ」



 それからも度重なる如月大我からの精神攻撃により疲弊していく二人。そもそも誕生日は昨日なのになぜこんな目に遭っているのか? それはこの悪魔をこの世に生み出してしまった者としての責任なのかもしれない。もしも遺伝子上の父親である神田慶二が生きていたのならこの二人と同じ目に遭っていたかもしれないと考えると、今も天国で安らかに暮らしている事を祈らずにはいられない。



 しかしここで二人には朗報だ、テーブルの上に用意された料理は既に食べきってしまい残す所は精々デザートくらいだろう。それを食べきればこの地獄から解放されまたいつもの日常へと帰る事が出来るはずだ……そう思っていた時期がありました。



「大手コンビニ店の人気スイーツ上位10品当てるまで帰れませーん!!」



 今までネチネチと心を蝕む方法で攻め立てていた大我は、よりにもよって怒ったフリをして帰る事も出来ないまともな企画を持ってきやがったのだ。しかもコンビニスイーツは量も少なく、比較的人気な物が分かりやすいジャンルなので本気を出せば普通に楽しんで帰る事の出来る最高のレクリエーション。



 この空気に耐えられるのであればの話だが……



「どう? うまい? 人間の屑のくせに味覚は有る? ねぇ?」


「ぁぃ……」


「さぁこれはランキングに入っているのでしょうか!! ドrrrrrrrドン!」



【5兆2位】



「か~っ!! 5兆か~!!」


「お、面白ーい!!」


「ご、5兆は無いだろー……!!」


「はっはっは!」



「もうこれキャバクラの刑でしょ」


「どっちがもてなされてるか分からないわね……」



 そしてついにその時が……



「おし、じゃあそろそろお開きにするか」


「えっ!? ほ、本当ですか!?」


「なんでそんな嬉しそうなんだよ。まさか楽しくなかった……」


「そ、そんな訳ないだろ!? 私らがどれだけ大我の事を愛して過去の行いを悔いているか!!」


「もう完全に洗脳されちゃってるじゃないですか……」



「よし、じゃあ……ん」


「え?」


「大我クン……?」



 短くそれだけ言うと大我は両手を大きく広げて何かをアピールしている。普通に考えればこれはハグを求めているようにも思えるのだが、如月大我に限ってそんな事は有るだろうか? いいやそんな訳はない、きっと何か新手の拷問を考えているに違いない。そんな事を考えていた二人に歩み寄ると大我は二人をいっぺんに抱き寄せた。



「おし、誕生日おめでとう」


「~~~~~~ッ!?」


「た、たい……!!」



 二人は張り詰めていた糸が切れたかのように強く大我の事を抱きしめワンワンと泣いた。釣られて朝陽も大田も目には涙が溜まっている。しかし如月イズミだけが冷ややかな視線を送っている、流石イズミと言った所だろうか? なんとこれだけ感動的なフィナーレを迎えた誕生会だがこの幕引きすらも大我の術中だったのだ。彼女らの帰宅後にイズミが問いただしてみるとこの様に語ったという。



『最後だけでも良い風に見せたら今までの事は全部チャラになる。散々窓ガラス割って弱者をパシリに使ってたヤンキーが卒業式に感謝を述べるとなんだかんだ優しいやつって評価に落ち着くだろ? 誰もおかしいと思わないんだよ、その場の雰囲気に流される。やっぱり愚かだよ人間は』



 童話であればこの後手痛いしっぺ返しが来てめでたしめでたし……となる所だがそれも叶わないのが現実の不条理。しかもやる事が小悪党程度なので天罰が下ろうともたかが知れているだろう、イズミはケタケタと高笑いする大我を見てまだまだ長生きしそうで安心したそうだ。



 如月兄妹に限って言えば今日も平和な一日でしたとさ。


 めでたしめでたし



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