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第183話 お誕生日おめでとう……???

 


 ~秋・いつもの面々と如月家にて~



「そういえばお前らの誕生日を俺は知らない」



「「えっ……?」」



「あれ? 大我さんも知らなかったんですか?」


「てっきり私も大我ちゃんの方からプレゼントを貰ってるものだと……」



 大我だけならまだしもいつも時を同じくしている大田まさみや神田朝陽すらも、厳島カガリ・三沢晴香の誕生日を知らされていないというのだ。今回は何故か頑なに誕生日を教えようとしない二人と、何としても誕生日が知りたい三人との攻防を覗いてみましょう。




「そもそも俺は自分の誕生日にも頓着しないし、イズミのめでたい日以外を本気で祝う気が無いから知らなくてもいいんだけどな」


「なら別にいいじゃねぇか……」


「そうそう、人間はいつ生まれたのかじゃなくてどうやって死ぬかだよ!」


「でも私の誕生日には二人からお祝い頂いちゃったし……」


「そうですよ! 私達はお二人の誕生日を祝いたいです!」



 大我は本当にただ世間話でもしようかと呟いただけなのだが、どうも二人の狼狽えっぷりを見るに触れられたくない話題なのだと瞬時に理解してしまったようだ。こうなるとあれやこれやと詮索の手を休める事無く二人の事を攻め立てていくのでしょう。



「にしてもだ、俺は実の息子に対して隠し事があるという方が気に入らない。数十年の間ほったらかしにしておいた事を微塵も反省してないんじゃないのか?」


「そ、それとこれとは話が違うじゃないか!」


「そうだそうだ! 自分の都合が良い時だけ息子面すんなよな!」


「俺が身内だと思ってない人間をプライベートな空間に、それも日常的に侵入を許すとでも思ってんのか?」


「うっ……」


「それは……まぁ……」



「た、大我さん……私の事をそんな風に……?」


「私も嬉しいわ大我ちゃん……」



 普段は高圧的な態度で畳みかける所を、今回は年増の情に訴える方向へと舵を切ったようだ。それが功を奏したのかカガリと晴香は二人で顔を見合わせバツが悪そうにしている。なんだか嫌がっているというよりも気まずさの方が勝っているという感じだ。先程から興味無さ気にだんまりを決め込んでいたイズミが深いため息を吐いて立ち上がると、しつこく詰め寄る三人へと向け何か意見があるようだ。



「もういいでしょ。大体言いたくない理由なんて察しがつくわよ」


「でもお母さん達には何が何だか……」



「おいおい……なんかイズミちゃんまで入ってきてややこしくなりそうだぞ……」


「そうだね、絶対悪い方向に事が進むって私の第六感も言っているよ……」



「こんな結婚もしてない40そこそこの女が誕生日を祝われて嬉しい訳無いじゃないの」


「そ、そういう事かー--!!」


「あっ……なんか私……すわせん……」


「そ、そんな事無いわよ! 私も今独身だけどとっても幸せよ!」



「ほれ見た事か」


「違うんだ! 別に年齢とかではなく!!」



 イズミにしては珍しく助け舟を出してやったのだろうが、人の感情が分からない無表情サイボーグからの擁護は火に油を注ぐどころではなく容赦なく二人の心を抉ったのだった。必死に取り繕おうとするも大田まさみは目を見てくれないし、やたら神田朝陽は優しくしてくるのだ。これだけ恥をかいたのであれば今すぐにでも本当の事を打ち明けた方が傷は浅いのではないか……? と二人の中で意見が合致したようなので、二人が誕生日を明かしたくなかった本当の理由を聞いてみるとしよう。



「じ、実は私達……」



 ────────────


 ──────────


 ────────


 ──────



「た、誕生日が一緒だぁ!?」


「え、だってお二人って大我さんの出生にたまたま関係してるだけで……」


「偶然にしてもあまりにも出来すぎよねぇ~……」



「いや……なんかこれに関してはアタシらも恥ずかしくてな……///」


「うん……未だにおめでとうとか言った事無いと思う……///」



 二人の出会いは如月大我の出産に際し、当時遺伝子研究所で働いていたカガリが莫大な報酬を譲り受けた若かりし頃の三沢晴香に目を付けた事に起因する。それからしばらくの間身の回りの世話や精神面でのケアを通じカガリは晴香に恩を売ろうとしていたのだが、そうこうしている内に本当に仲がよくなってしまったというなんとも微笑ましい話である。



 しかしそれだけ長い事友人関係である二人には『これだけは墓場まで持って行こう』という話がいくつかあるようで、今回の誕生日の話もそのうちの一つだったらしい。こんな話を聞かされては心優しい息子とその他大勢のおせっかい焼き達が黙っていられる訳も無く、もっと根掘り葉掘り誕生日にまつわる話を聞かせてくりゃれと二人に詰め寄るのだった。



「そんでそんで? 三沢っちはいつカガリンと同誕だって気付いたの?」


「いや……なんか酒飲んで……たのかな……? そん時にポロっと……///」



「カガリさんとかこういうの面白がってSNSのプロフィールとかに書いてそうですけど、案外そうでもないんですね?」


「いやなんか……別に生まれた日が一緒なだけだし……ふ~んて感じ……?///」



「でも同じ日に集まってひっそりみたいなのは有るわよね? ね?」


「「……」」



「え……ないの……?」


「いや……あんま意識しない様に……気使うのとか嫌だし……?」


「そう……だから昨日はスナックにも行かなかったし……」



「おまっ……!! バカっ!!」


「あっ!! ち、ちがう!! 別に昨日がどうとかは違くて!!」



 晴香が必死に取り繕うとするも、口を滑らせてしまったカガリは焦りからどんどんと自分の墓穴を掘っていくばかり。これを聞いた大我の目元はみるみるうちに細さを増しほとんど漢字の一みたいになっている。年に一度大義名分を持って人間をバカに出来る日が増えたのだ、それも一度に二人分。人の不幸でフォンデュする男として有名な如月大我がこんな面白そうなイベントを逃す気がある訳も無く……



「皆、今日は俺の母親の誕生日パーティーに集まってくれてありがとう」


「グラッチェ、心からのグラッチェですよ。」


「ふ~ん、あれが兄さんの産まれて来た穴か」


「それはなんか違うぞイズミ」



 この日、厳島カガリ・三沢晴香両名の合同お誕生日会が開催される事になった……




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