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第176話 イズミの杞憂

 


 ~9月某日~



「はぁ~……」


「……」



 なんだか今日は兄さんの元気が無いように思えるのは気のせいかしら。いや、確かに昨日のウキウキ気分の兄さんとは違う。昨日だって寝る前に何かを確認したかと思えばにやけたまま眠りについたのだから、起きてから今までの間に何かが起きたのか?それとも寝ている間に何かが行われたのか……



 ────浮気か?



 まさか。兄さんに限ってそんな事あるはずも無く。というかこの地球上に私以上の上玉が居るとも思えないわ。これがメンヘラ女に多く見られる被害妄想って奴ね、とうとう私も兄さんが好きすぎてそんな所まで足を踏み入れているとはね。であれば何が原因で兄さんはそこまで落ち込んでいるのかしら?さっきから携帯を何度か見てはまた閉じるの繰り返し。



 ────女か?



 いやいや。ついさっきその線は完全に立ち消えたはず。そもそも私以外に本気で怒張した兄さんの節操ない猿チンコを受け入れられる器がこの世に存在する訳も無く。これもまた最近抱かれていない女特有の欲求不満状態という物かしら?にしてもなんでこんなMAXエロボディをした女が毎日隣で寝ているのに抱かない日があるのか?それが分からない。



 ……まさかね



「兄さん、なんだか今日は元気が無いわね。どうしたのかしら」


「え? いやいや別に大したことじゃないよ! 本当に大丈夫だから!」


「とは言ってもそこまで辛気臭い兄さんなんて珍しいのだから気になるに決まってるじゃない」


「ごめんごめん! ちょっと考え事してただけだから!」



 兄さんが素直に謝る時は隠し事をしているサイン。まさか私が気付かないとでも思っているのかしら?舐められた物ね、疑われているのは一目瞭然なんだから素直に吐けば良いものを。こうなれば少しずつ追い詰めて自分の口からハッキリさせましょう、念の為使うかもしれない包丁と燃えやすそうな物の位置を確認してからね。



「ところで兄さん今日は随分と携帯を触るのね」


「いやっ……そうかな……ちょっと調べ物を」


「目の前に置かれてる箱は使ってない様に見えるけど、そっちで調べた方が効率良いんじゃないの?」


「そ、それもそうだな……じゃあもう少ししたら」


「そう」



 女以外でそこまで秘密にしたいって事はエグめのアダルトグッズか、法律的に完全アウトの薬物しか無いじゃないの。もういっその事素直に言って欲しいわね、吸うタイプなのか打つタイプなのかは分からないけどそれくらいなら口外しないのに。水臭いわね



「何を調べてるのか気になるわね」


「いやいや……もう終わったから……」


「さっきはもう少ししたらパソコンでも調べようとしていたのに?」


「思いの外早く終わったもんで……」


「ドラッグか女の事でも調べてたの?」


「はぁ!? どどど、ドラッグ!?」


「女の方には驚かないのね」


「並び立つレベルじゃないだろ!!」



 カマをかけてみたらあっさり尻尾を出したわね。それなら私が最近抱かれていない事にも辻褄が合うし、どうせ関係を終わらせようとしたら多額の金品を要求されたか、リベンジポルノでも匂わされたんでしょうね。兄さんが見るAVの傾向的に相手は人妻だろうからまんまとハメられたって訳ね。先にハメたのは兄さんだけども。



 こんなにも愛している男が浮気したっていうのに案外私の頭の中は冷静で、自分が兄さんの女だという事に確固たる自信がある証拠なんでしょうね。人生の最期は必ず兄さんの隣に自分が居るという揺るぎない自信。けれどここまで愛し焦がれている女を放って、どこの馬の骨かも分からない萎びたナスビみたいな乳にむしゃぶりついていたかと思うと……お仕置きの一つでもしてやらないと気が済まないわね。



「兄さんが自分の口から言わないなら私が当てて見せましょうか?」


「な、いや本当に大したことじゃないんだって! 隠すほどの事でも……」


「兄さん、どこぞのブス女と浮気してるんじゃないの?」


「……ん?」


「私みたいに健康的かつ若々しい男の体を掴んで離さない極上ボディよりも、その生殖機能に不向きなデカすぎるイチモツは子供を何人か産んでるふわとろ経産婦の方が都合よかったって事かしら?」


「まてまてまて!! 本格的な誤解をしてるってイズミ!!」



 五回もしたって事……?じゃあもうエロ同人特有の生強要までしてるに決まってるじゃないの。その日の夜には旦那と久しぶりに義務交尾して、まさか自分の妻が優秀遺伝子着床済みの托卵女だとは思わない旦那が隠ぺい工作に加担してしまって腹ボテエンド待ったなし、昨日の夜はどんな顔して私と寝てたのかしらこの竿役は。



「兄さんが自分の下半身に正直なのはわかったからそろそろ上の脳みそにも説明願いたい物だわ」


「お前の中で俺がどういう扱いなのか分かったよ……」



「もう分かった! 俺自身そんな印象を持たれているのは心外だ、白状するよ」



 そう言って兄さんは頑なに見せまいとしていた携帯の画面を私の方に見せると、その画面に映っていたのは"商品品切れ"と書かれたコスプレ衣装のページだった。見える範囲ではすべて品切れ状態になっている様だけれど……まさかこれを着せて例の人妻と



「実はその……最近そこまで男女の関係を結べていないと思い立って……なんか女の人ってマンネリになりやすいって聞いた事があるから新しい刺激でも、って……」


「えっ」


「でもハロウィン間近な事も有って昨日から品切れ続出なんだよ……だからどうしたものかって考えてたんだけど、まさか浮気を疑われるなんてな。兄さんビックリだよ」


「じゃあ何よ、兄さんも欲求不満だったって事?」


「まぁ……俺の方が誘うべきかと思ってかなり我慢はしてた」


「待ってなさい」



 ────────────


 ──────────


 ────────


 ──────



「お待たせ兄さん」


「な、なんだその格好は!?///」


「前に兄さん達の前で私がコスプレしたチャイナドレスがあったから着てみたわ」



「見て分かる通り下着なんか着けてないわよ」


「……」



 この日如月兄妹は初めて何の連絡も無しに配信を休んだという。


 そして翌朝、二人の寝室には乱雑に脱ぎ捨てられた衣装の山と死んだ様に眠る男の姿が有ったとか……無かったとか……



「う~ん……もう出ないよぉ……」


「なんて寝言よ。また滾って来るじゃないの」



 とにもかくにも如月イズミの不安は杞憂に終わり、内心ではホッとしているのでした



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