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第171話 甘い物が、たべた~い♡

 


 タイトルの通り今回は甘い物がどうにも食べたくなってしまった筋肉質の漢、如月大我です。見ての通り身長は180㎝を越え体重は100㎏に迫るほどのガタイの良さ、それを可能にしているのはこの筋密度にあると言える。



 このタワーマンションには2階にトレーニングジムが用意されており、このマンションの住人であれば誰でも自由に使える設備となっている。俺とイズミも週に数回そこでしっかりとトレーニングをしているから、普段あれだけの不摂生をしていてもこのスタイルを維持できているのだ。



「それでも甘い物のドカ食いは正直怖い……!」



 普段から飲んでいるビールの方が怖いだろ!なんて批判は受け付けない。


 正直な話ビール腹という言葉に騙されている人が多いのではないか?実はビールに含まれている糖質が原因だと思っている人も多いだろう。しかしそんな事は全然ない!ビール自体はどれだけ飲んでも痛風の原因になるプリン体くらいしか怖い要素は無く、ビール腹の原因は単なる食べすぎと運動不足による物なのだ。



 アルコールには胃液の分泌を促進する効果が有り、ビールのお供に食べるつまみを凄い速さで消化してしまい、結果的に普段よりも食べ過ぎて脂肪が溜まるというのが太る原因だ。更には運動をしないものだから手足の筋肉は衰え、より膨らんだ腹が目立つという悪循環。よく電車で見るおじさん体型の出来上がりだ。



 これを頭の中に入れて貰えば「あぁ、じゃあビールで付いた脂肪も運動すれば燃焼するんだ!」と分かって貰えると思う。しかし甘い物達はその味とは真逆に"甘える事"を許してはくれない……



 皆は電車に乗っていてビールを飲んでいる人間と甘い物を食っている人間ではどちらを警戒するだろうか?それはもちろんビールを飲んでいる方だろうな。なぜなら日常生活では暗黙の了解で飲んでいい場所とそうでない場所の線引きが成されているからだ。多くの者は電車で普通に酒飲んだろ!とはならないはずで。



 では甘い物という奴はどうだろう?そこかしこで巡り会うクレープだタピオカだの絶え間ない誘惑。しかもアルコールが含まれていない為、酔って誰かに迷惑を掛ける事も無い。完全合法の麻薬と言っても過言ではない存在だ!!どれだけ食べても内臓に負担が~とかではなく「も~太るよ~?」なんて冗談とも取れる注意の仕方。奴等は確実に我々の内臓に潜伏し養分を吸い取り、その芽が出る日を今か今かと待ち続けているに違いない……!!



「そんな物をよくもバクバク食えるなあ!!」


「別に動けば大丈夫でしょって」



 俺が手にしたドーナツを食べるかどうか迷っている間にイズミは今食べている物で8個目だ。確かにイズミの異常な代謝をもってすればあんな物屁でも無いだろう。しかし常人からすればこんな糖分の塊にチョコが掛かって、あまつさえ生地の間には生クリームを挟んでいるだと……?カロリー爆弾と言っても差し支えないんじゃないのか……!!



 これ一つでどれだけのトレーニング量になるだろうか……それはこんな小さな甘味を食べる幸福度と釣り合うだろうか……俺は自分のトレーニングを決してストイックだと思った事は無いが、そんな俺でも腕が動かない……これだけ鍛え隆起した上腕二頭筋でも持ち上げられぬ物が有ったと言うのか……!?



 仕方がない、こうなれば少し下品ではあるが床に置いて口から無理矢理迎え入れるとしよう。もう逃げられんぞ妖怪カロリー運びめ。両手を肩幅まで広げ少しずつ体と地面を平行にしていく事で、床に置いているドーナツと俺の顔が距離を縮める。



 待て、まだだ、まだ心の準備が……一度腕の筋肉を利用する事でドーナツとの距離を取る。これを数分の間繰り返している内に随分と精神的に追い込まれたのか俺の額からは汗がしたたり落ちている。そして心なしか二頭と胸にも効いている気がする。



 今度はイズミにドーナツを吊るして貰ってそれを無理矢理口元まで下ろして貰おうという作戦だ。もしかしたらぽっかりと空いた中心部はこの為なんじゃないかと考えなくもない。ゆっくりと目の前まで垂らされたドーナツだが中々開いた口の中にまで入ってくれない、イズミの方を見ると自分も食べながらのせいで垂らしている竿の精細を欠いている様だ。仕方がないので俺が上体を起こして自ら迎えに行く事に。



 しかしもう少しで届きそうな所まで行くと更にドーナツは俺の前を通り過ぎ、それを追いかける事で完全に上体が起き上がってしまった。その途中には左右に振られ腹筋だけでなくカットの入った腹斜筋にも効いているのが分かる……『脇腹単車が走ってる』という声がどこかから聞こえてきそうだ



 それからもハンマーカールやレッグカールをしながらなんとかドーナツを食べようとしても、ただ全身が熱を帯び代謝が上がっているのを感じるばかりだ。パンプアップした自らの胸筋を姿見で確認しながらも、俺の背後にはドーナツ片手にルームランナーでウォーキングしているイズミの姿が見える。やはり運動の後は体がカロリーを求めている……今すぐにプロテインを飲むべきなのは間違いないが、今日ばかりはチートデイという事にしてくれないだろうか?



 ハードなトレーニングだっただけに息を切らしながら俺はようやく念願のドーナツを手にし、乳酸の溜まった二頭筋の収縮を感じながらそれを自分の口に運んでゆっくりと味わった……



「んんんん!!!! んんぐぅぅぅう↑!!!!」


「なによ気持ち悪い声出して。そんなに美味しかったの?」


「ごうぐぅぅ!! ふんぐううう!!!!」


「まるで水分摂取せずにパッサパサのドーナツを食べたら喉に張り付いて死んじゃいそうみたいな顔をしてるわね」


「……ぐふっ」



 その後はイズミによる救命措置のおかげで何とか一命は取り留めた。しかしもしもこれが一人の時に起きた事故だとしたら……?そう考えると改めて甘い物の恐ろしさを感じました。やはり自分の体は正直で、これほどの糖質を含んだ悪魔の実を食す事に対して拒否反応が起きてしまったようだ。



 僕はこれからも様々なトレーニングを愛する人達に伝えて行こうと思う。それこそがこの筋肉たちから受け取った警告なのだから。そうに違いないのだから。




 ──そうに違いないのだから。




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