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第169話 非モテで無職なコミュ障の末路

 


 今日のパスタは少し固めでやや失敗。アルデンテと言えば、そう。でも私はうどんもそばも適切な調理時間で作らなければ我慢ならない性分のつまらない女なのである。



 今日は天気が少しだけ曇り模様。陽が差す時間帯でも中途半端に青空が垣間見えるどっちつかずの天気らしい。私は快晴が好きだけどこの季節なら曇天も気に入っている、なのにこの半端な気候は何か良くない事の前触れなのかと勘繰ってしまう。



 空での仕事をしていた影響からか、今でもそんな荒唐無稽な天気占いもどきをしてしまう事があるのだった



「大我さん、そろそろこのマンションに我々の別荘みたいな部屋作ってくれても良いんじゃないですか……? いちいち通うのが面倒ですよぉー」


「なんでお前らみたいな犯罪者予備軍の底辺を、わざわざ高額な家賃を払ってくれている善良な入居者に近づけなきゃならんのだ。もしこのマンションで事件が起きたら犯人はお前らしか居ないんだからな?」


「ここには人権が存在していないのか! その言い分は不当だ! 消費者庁に訴えてやる!」


「どこに問題持ち込んでんだよ……」



 最近は朝陽さんのお店を経由して様々な人と交流する機会が増えたからか、昔ほど大我さんとの間に壁を感じなくなっている。それは大我さん自身も変わったという事なんだろうけど、私の中でも大きな心境の変化が有ったからだと思っている。



 朝陽さんやカガリさん、晴香さんとのお付き合いの中で見えて来た家族とのコミュニケーションという物を私は怠っている気がしたのだ。実家に住んでいながら休日だろうが平日だろうが遊び惚けて家族との会話が減っている気が……いいや、気がするだけでなく実際に減っている。それは紛れもない事実だ……



「イズミさんは今日も沢山食べましたか……?」


「そりゃあな。イズミが何も食わなかった日こそが人類最後の日らしい。ヨハネの黙示録に書いてあった」


「ふぅぅぅ~~……」


「なんだ気持ち悪い声出しやがって」



 最近はイズミさんとも全く話せていないし……というかこちらから出す話題が何もない事に問題があるんですがね……完全に同い年にも関わらず私の知っている話題が彼女のお母さんと同年代なのだから話が合う訳もなく、朝は眠って夜は酒ばかりを飲んでいるから食べ物に関する新しい話題を仕入れる時間もまるでない!!



 これだけ近い距離にいるのになんだか遠距離恋愛をしているみたいです……



「大我さんはいつもイズミさんとの話題はどうやって入手してるんですかぁ?」


「入手も何も……一緒に住んでるんだから感じた事そのまま声にすればいいだけだろ」


「それで退屈とかはされないんですか?」


「お前は親と話す時にいちいち爆笑狙ってるのか……?」


「なるほどですねぇ……」



 たまには家族とも会話する事を考えないと、なんだか酔っている時にしかまともに声出してない気もするし、話題の引き出しからは何かが出て来る気もしない。このままでは本格的に子供部屋おばさんの孤独死ルートに乗ってしまう気がする!!



 ようやっと私にも危機感が産まれたのですが……



「アンタ別に昔からそんな感じでしょ?」


「え……そうだっけ……?」


「ん~そうよ~? 小学校の頃から友達家に連れてきた事も無かったでしょ?」


「で、でも道場が終わったら皆ご飯食べに来て……」


「それはただの門下生でアンタの友達って訳じゃなかったでしょ?」


「そうだったんだ……そう言われてみれば、学生時代から交流ある人ってイズミさんだけかも……」



 いらぬ一念発起をしてしまったもんだから気付かなくていい事に気付いてしまった。孤独死どころか今まさに孤独な状態だったのだと気付かされる。まだ21歳だからと気を抜いていたがバリバリ仕事をしていた訳でも無いのに実感も無く既に22歳……このままではいけない!どうにかしなければと考えても私の身の回りにいる人間は、色々な意味で人生ゴール済みの人ばかり……ここから新たな人脈を作るなんて事は……



 * * *



「お願いします。娘さんを紹介してください。」


「こ、困りますよ! 如月さんなら今呼びますから……!」


「いえ、今日は大城さんの娘さんにお話があるんです」


「大野ですけどね……とにかく如月さんだけは呼ばせていただきますよ」



 * * *



「その年になって友達が欲しいだぁ~? 勝手に作ってりゃいいだろ。なんでもかんでも人を頼ろうとするんじゃねえよ出来損ないが」


「たまには私だって自分から積極的に話題を出したいんですよ。大我さんはアッシーくんとかミツグくんとかいうワードの意味を知ってますか? 私は日夜それらに愛想笑いをしながら酒を飲んでいるんですよ。たまにはイズミさん以外の同世代と話したっていいじゃないですか」


「わっ、懐かしい。それ知ってたら私と同世代くらいじゃないですかね?」


「大野さんが知ってるって事はバブル時代の遺産か……にしたってお前を大野さんの娘に近づけるのは危険すぎる。薬使ってレイプとか普通にするし」


「えぇ!? それは困りますよ!!」


「しないですよ!! なんですかそのクソ迷惑な嘘は!!」




 以前ナイトプールで出会った大野楓さんは現在大学一年生で、年齢だけで言えば同じ大学に通っていてもおかしくないはずなので新鮮な若者の生気を感じられると思ったのです。イズミさんは生まれながらに纏ってしまった高貴さのせいで未だに化粧もせずあの美貌。衣服に関しては大我さんがすべて見繕ってしまうという余計極まりない愚行。



 イズミさんと交流を深めようとしても結局この家の中で完結してしまうので大我さんに勝てる訳も無く……わざわざ相手のテリトリーで戦うなど愚の骨頂!!私が外の世界にイズミさんを連れ出して見せます!!そのアドバイザーとして大野さんの娘さんにご教授頂きたいというだけの話なのです!!



「私だって女の子なんですからねっ!!」


「でも恋愛対象も女の子じゃん」


「それはそれ!! これはこれ!!」


「父親としてこれほど不安な事も無いんですけどぉ……」




 とりあえず楓さんはアルバイトの関係もあって今すぐにとはいかないながらも、前向きに検討してくれると大木さんは言ってくれましたので、大我さん経由で追って知らせてくれるとの事でした。内臓はボロボロかもしれませんが私だってまだまだ花の二十代!!



 帰ったら久々にクレンジングをして身だしなみを整えないと、もし楓さんと並んで歩いたらお肌に年齢が出てしまいますからね……あ、なんか楽しくなってきた。やっぱりオシャレって楽しいかも!!



 * * *



「という事でこれからは皆さんに会う頻度も少なくなるかもしれないので」


「へぇ~大田ちゃんも真面目に若者するんだ?」


「やめとけやめとけ、どうせ外界とのギャップに苦しんで内臓抑えながら転がり込んでくるんだから」


「カガリさんと一緒にしないで下さいよ! 私だって一応はCA経験者なんですからコミュ力は人並み以上に……あるはずです」


「なんか後半かなり小声になってるけど~?」



「ど、どうしましょう……冷静になったら何個も年下の子呼び出して友達面してもらうって痛い大人過ぎませんか……!?」



「やめないか大田ちゃん。その言葉は効きすぎる。」



 如月イズミへの道をかなり遠回りしながらも大田まさみは新たな方向に足を伸ばした。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、挑戦する事は悪い事ではない!すでに緊張と悲壮感で背中は丸まっているが前を向いて突き進むのだ!!



 大田まさみの明日はどっちだ!?いつかにつづく!!



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