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第168話 食パン一斤を買う完璧かつ最高の理由

 


 数々の料理を学び自宅でもその手腕を振るっている事で有名なこの如月大我をもってしても、自宅では作れぬ食品がある。それがパンだ



 その理由としては調理や準備に時間が掛かるし、面倒だし、失敗したら取り返しがつかないし。なによりもそこら辺にあるお店で高クオリティな物が安価で食べられるのだから、自宅で作るメリットは料理を楽しみたい人以外には無いと思っている。



 当然俺は今日も行きつけの店で大好きな食パンを買って帰るつもりだ



「イズミはいつも菓子パンばっかりだなぁ。シンプルな奴も小麦の味が感じられていいもんだぞ?」


「小麦の味がした所で肉や砂糖より小麦の方が美味い訳では無いでしょ」


「わざわざパン食ってるんだから小麦の味は感じたいだろー」


「だったら小麦食ってればいいじゃないの」


「だから食ってんだってほぼ小麦の塊を」



 終始小麦ディスをしていたイズミだが彼女も例に漏れずこのお店のパンが大好物なのである。特に根元までパンパンにチョコの入ったチョココロネや、砂糖でコーティングされた甘めの揚げパンにソーセージを挟み、疑似的なアメリカンドッグになっている菓子パンもお気に入りらしい。



 てっきりイズミが好む物だから子供向けに用意されているのかと思いきや、意外とサラリーマンにも人気らしく時には出来上がりまで待つ必要がある事も。考えて見ればコンビニにホットスナックのコーナーが出来るまでは、軽食と言えばこういうパン屋だったのだから何も不思議でない事に気付いた。駅からのアクセスこそ良くないが通り道であれば買いたくなる気持ちもよく分かる。



「二千五百円です」



 そしてなにより安いのだ



 * * * * * * 



 家に帰って来ると俺のすべきことはこの食パン一斤をパン切り包丁で切り分け、真空パックで保存するというもの。別に切り分けるのなら小分けにされている6枚入りの物でも買って帰れば、と思うだろうがこのまとめ買いには利点がありそれを今から実践しよう。



「慎重に……途切れないように……」



 四角いブロック型の食パンから耳の部分だけを切り取る作業は、まるで懐石料理を作るが如く慎重さを要求される。少しでも中のふわふわ部分を削いでしまおうものならサンドイッチにした時、あからさまに量が少なく見えてしまう。そう、こいつは耳が無くなると意外と小さい事に気付くのだ。



 こうして神経をすり減らしながら耳を削いだふわふわ部分だけの食パンをさらに半分に切り、4片ごとに真空パックに詰めお昼の控え軍団サンドイッチの準備は完了した。こうしておけば後はこちら側で好きな具材を用意して挟むだけの簡単なご飯になるのだから優秀な食材だ。



 そして今回の主役はこちらの耳……何のために一斤丸ごと買ったのかはここで明かされる。まずはフライパンに多めのバターとにんにくを入れ香りが立つまで弱火で放置。そして四面分の大きな耳にもバターを塗り込んでおいて生ハムやボイルされたエビを用意し、バターとニンニクの良い匂いがして来たら断面の方を下にして巨大パンの耳を投入。この時表面がカリッとするまであまり動かさないように注意だ



「随分といい匂いね」


「今日はニンニクベースで作ってみる事にしたんだ」



 あまりの良い匂いに釣られてイズミが様子を見に来たが、既にその目は獲物を狩り捕食する事だけを考える簒奪者の物に変わっていた……そしてカリカリときつね色になったパンの耳を裏返しその上に生ハムや薄切りのソーセージも並べて、チーズとケチャップソースを掛けて蓋をする。もうお気づきだろうが我が家では食パン一斤から取れた巨大な耳をピザの生地代わりにするのが主流なのだ。



 小分けにされているパンの場合、ラスクにして食べるというのが一般的だと思うし以前まで俺達もそうしていた。しかしそれだと所詮は耳だけしか食べられなくて、調味料で味変するしかないと飽きを感じていたイズミは悪魔的発想を披露したのだ。それが生ハムでラスクを巻いて食べるという本当に馬鹿げた方法で、なんともみっともないというか……さもしく思えた兄の俺が産み出したのがこの巨大パン耳ピザだったと言う訳である。



 これなら油で揚げる必要もないし後日のサンドイッチに使う食材をピザとしても楽しめる訳で、表面をカリッとさせたらあまり火を通しすぎない様にするのがコツで、やりすぎては固めのバゲットみたいになってしまうのであくまでも上に乗っているチーズが溶けるまででいい。そして出来上がった物は不格好ながらもその匂いが自分はこれほど上等な料理だと雄弁に主張している。



「それイズミの分だから食べちゃっていいよ。ナイフとか使う?」


「ふぃふぁない」


「もう食ってんのかよ……」



 肉を基調にしたニンニク臭い獣の様なピザはイズミにくれてやろう。俺みたいな上流階級の人間には大人の海鮮ピザが似合うのだ。ボイルされたエビとホタテを用意してついでにイカも使う事にしよう、ソースは少量のケチャップと上品なホワイトソー……ホワイト……



 いや、急遽変更してニンニクとバターにしよう。とにかくこれで味付けしとけば間違いないのだから。ホワイトソース?準備しているなら使っても良いんじゃないのかな?まぁ俺は使わないんだけども。ニンニク入れちまえば肉とか海鮮とか関係ないからね。万能調味料最高!!



 となれば表面にはオリーブオイルも塗っておかねば少し具材に味気なさを感じかねないな。他にも鷹の爪でも入れて、え~っと他には……おっマッシュルーム缶が余ってるじゃないか。これは僥倖、すぐにスタメン入り決定だ。



 アヒージョだこれ



 どうみてもケチャップが浮いてしまう完璧なアヒージョがパンの耳に乗ってる構図……というかこれ巨大なバゲットじゃねーか!!アヒージョだ!!俺は無意識のうちにフライパンの中でアヒージョを作り上げてしまったのか!?食ってみよう!!白ワインも用意して食ってみよう!!



 アヒージョではないわ



 ケチャップが邪魔なのとそこまで具材にニンニクと鷹の爪の香りが移ってないから不完全なアヒージョもどき。失敗作と言っても差し支えない程の微妙な料理だ。料理というかレストランのコックがどうでもよくなって作っちゃったヤツって感じ。ケチャップの酸味でテンション下がるな最悪だこれ




 料理の道は奥が深い。如月大我の挑戦は続く──!!



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