表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/216

第167話 他人が遊ぶゲームを自宅で見る

 


「おう大我ー、トラステやらしてくれー」



 最近うちに来た新型ゲーム機トラステを目当てに、晴香が午前中から家に来る事が増えた。なんなら俺がやっていないシリーズの新作を手にガッツリクリアまでやろうとしている模様だ



「昨日ネットで見たらここら辺でレベル上げられるらしくてよ~」



 人ん家でレベル上げまでする気かコイツ。とっとと攻略してクリアしてくれよ、いつまで我が家を根城にゲーム楽しむつもりだ…



「あぁ今日晩飯いらないぞ、夜になったらカガリとかと飲みに行くから」



 誰が飯までくれてやるものか。こいつ俺の事友達かなんかと勘違いしてるんじゃないのか?慣れた手つきで戸棚からおやつまで持って行く始末。俺が許可してないんだから窃盗だぞ普通に



「おぉこりゃ効率いいわ。連射機とかあればもっと楽なんだけどなぁ」



 おい


 信じられんこいつ


 今菓子食ったその手でコントローラー持ったろ?



「おい、お前目の前にティッシュあるんだから拭いてから触れよ」


「ん? あーわりぃわりぃ」



 他人の家の最新ゲーム機だぞ?どんな神経してたらそれを汚しても大丈夫だという感覚になるのか?こいつに育てられていたら俺の倫理観が地の底まで堕ちていただろうから、今では逆に感謝していると言っても過言では…



 ぶっ



「正気かテメェ…?」



 なんで場所と機材の提供してるのに目の前で屁までこかれなきゃならないんだ?俺が前世では悪人だったとしてもこれほどの仕打ちを受けなきゃならんか?デリカシーとかの問題じゃないだろ、人間としての大事な機能がバグってるんだこいつは。



 プシッ!



「昼間っから酒飲みながらゲームサイコーw」



 しかも持ち込みかよ…!



 俺に言ったらどうせ断られるからって自前で酒用意してきやがったのか…度し難い、俺が神や仏の類ならば真っ先にこういう人間から地獄に叩き落としてやるのに。ていうか夜まで居座るつもりって事は俺とイズミが買い物行く時こいつに留守番任せるのか?



 なまじ身内なだけに素知らぬ盗人を家で放置しておくよりも危険じゃないのか?何が有っても立件しづらいしあくまでも家を任せたのが俺だという言い分までまかり通ってしまう…こりゃ両手両足縛り付けて買い物に行くしかなさそうだな。



「兄さん今日の晩飯何にするの?」


「ん? あぁ…そうだなぁ、なんか食いたい物あるか?」


「肉」


「だろうなぁ…」



 今日は配信しながらの料理は無い日だったという事もあり、晩飯の献立がまだ宙ぶらりんのままだった事も思い出す。イズミには焼いた肉食わせておけば満足するだろうけど、思考停止のまま肉だけ食わせておけばいつしかイズミは身も心も獣になりおおせてしまいそうで怖い。なにか新しい事をしてみなければと頭を捻っていると妙案が思い浮かんだ。



「おい晴香、好き勝手やってるんだからなんかアイディア出せや」


「なに? アタシに晩飯決めさしてくれんの?」


「肉の美味い食い方考えるだけで良いんだよ」


「そらもちろん焼肉のタレだろうな」



 晴香が若い頃にやっていた娯楽の内に『安い肉を大量に買って浮いた金をすべて焼き肉のタレに使う』という飽きる事無く肉を食い続ける為の工夫が有ったという。俺みたいな人間が野菜を買ってしまう所を晴香みたいなバカはどれだけ胃の容量を肉で満たすかという事に命を懸けていたのだという。



 そこまで行くと肉食ってるのかタレ食ってるのか分からないだろうにと俺は思うのだが、案の定イズミは乗り気みたいだ。晴香が言うには出来るだけ脂っこい筋の少ない肉がタレを楽しめる肉だという。赤身というよりかは豚トロとかハラミとかって事か…専門家みたいな口ぶりだが、あくまでも貧乏苦学生が考えた贅沢飯の範疇を出ていない事は言うまでもない。



「じゃあ買い物行ってくるから、大人しくしとけよ。冷蔵庫にも触れるな、物動いてたらすぐ分かるんだからな?」


「あいあい、行ってらっしゃい」



 武士の情けというか瓶底に残った最後の信頼を晴香に懸け、俺達はスーパーへと買い出しに向かった。いつもはタレやソースは自作してしまうものだから、それらが並んだ棚を眺めるのは俺もイズミも新鮮だった。隣に並んでいるドレッシング類にも目移りしてしまうが、今日の目的はあくまで焼き肉のタレだと思い直し物色を始める。



「塩だれ、胡麻だれも良いなぁ。でも市販の物は当たり外れが激しいんだよな~」


「何でも買ってみればいいじゃない」


「いや全部使い切らなきゃ次に行けない性分なんだよ…」


「それは兄さんが勝手にしなさいよ」



 イズミに突き放されてしまいハズレを引いた時のリスクが増した事で俺の目も真剣になる。値段を考慮に入れれば間違いないだろうと考えているそこの奥さん、焼き肉のタレに関しては全然そんな事は無いから注意して欲しい。やたらリンゴだパインだ入れすぎて海外の甘いソースみたいになっている焼き肉のタレは俺の中で大外れの部類に入り、それなら醤油でもぶっ掛けて食ってた方が何倍も有意義だ。



 高い物はメーカー側が奇を衒いすぎて失敗作みたいになっている事がかなり多く、そのくせ材料費がかさんで回収するために高額になってしまう負のスパイラル。家庭ごとにお決まりのタレが有るだろうから誰も手を出さず、悪評も広がり辛い事が実にイヤらしいトラップと化している…そのくせ消費するスピードも醤油以下という悪質さゆえにより慎重に吟味していきたい所だ。



「結局3000円も使っちゃったな…」


「兄さんがタレだけ買いすぎなのよ」


「晴香とか大田さんに押し付ければいいやってなったら止まらなくて…」



 不味ければあいつらが食うだろうの精神をこれからも大事にしていきたい




「おう、帰ったぞ」


「お帰り。いい子にして待ってたぞ」


「なんで空き缶増えてんだクソババア」



 素知らぬ顔で待っていた晴香は『冷蔵庫と酒の入っていた野菜室が同じ物とは知らなかった』と開き直っており、盗人猛々しいとはこのことだ。そろそろ日も落ちるだろうという頃には家から追い出し俺達はホットプレートをテーブルの上に用意し肉だけのお家焼き肉を開催した。



「脂だらけの肉ばかりだから長袖は避けられないか…イズミも離れていなさい」


「いいから焼けよ」


「中世の王様かな?」



 空腹で気の立った妹から顎で使われながら跳ねる油と格闘する俺。物量重視でバカデカい物を買ってしまった分、このホットプレートに合うサイズの蓋がどうしても見つからなかった事でこんなにも辛い思いをするとは。菜箸で一つずつ肉を取り出しイズミは何皿にも用意したタレをそれぞれ試し、それぞれ米との相性も確かめている様子だ。これは総評が楽しみだ



 ──そして一時間が過ぎ──



「はぁ…はぁ…どうだったイズミ…?」


「悪ふざけで買ったキムチ鍋の素がめちゃくちゃ美味かったわ」


「せめて焼き肉のタレから選べや!!」



 実際キムチ鍋の素と脂っこい肉との相性は抜群なので皆さんも機会が有れば試してみると良いだろう。美味しくなかったらチゲ鍋にして食ってくれ。


 じゃあ今日はこの辺で…腹が膨れたら晴香が置いてったゲームでもやるとしますか



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ