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第160話 日本かぶれのジャパニーズ

 


「はぁ~…忍者になりてぇなぁ…」


「また始まった」



 イズミには定期的な発作みたいな言い方をされているな、まぁいい。そこは正直否定しようのない事実だ。しかし俺が忍者になりたいのもまた事実、カッコよく印を結んで忍術とか使いたいもの。



 ちなみに"印"という字をルビも振らずに『いん』と読めた人は俺と同じ素養が有るだろうな



「イズミも変わり身の術とか使いたくない? あの攻撃受けたら丸太になるやつ」


「躱す余裕があるなら丸太なんか置いてる間に反撃して殺せばいいじゃない」


「違う違う! あれは口寄せで丸太を召喚してるだけで、自分で用意して変えてる訳じゃないんだよ!」


「どういう原理よ。いつもみたいに科学的根拠がどうだとか言ってみなさいよ」


「こればっかりはそういう物としか言いようがない」



 確かにイズミの言うように現実的な話をしてしまえば、現代人が創作している忍者なんて超能力者もいい所だ。かと言って現実に寄せすぎてしまえばあまりにも絵面が地味、なんせ諜報員な訳だから極力人に見つからない様に変装をしたり、屋根裏なんかから侵入するはずも無く城下で口の軽そうな足軽から情報収集が主な仕事である。ロマンもへったくれもあったもんじゃないな



「でも手裏剣とかクナイには実用性があるからな。あれが武器として現代に伝わっているって事は、実際の任務中に使用されていたって事だぞ!」


「確かにあの小ささなら現代でも銃刀法違反にならないし便利かもね」


「どうしよう、街中で忍者が俺の事狙ってたりしたら…」


「兄さんが殺されるビジョンが見えないわよ」



 イズミはこんな事言っているが、忍者が何故手裏剣やクナイなど小さく殺傷能力に乏しい武器を好んで持つのかと言えば、身軽にして工作活動などを円滑に行うという目的が一つ、そしてもう一つはそれだけ小さな獲物でも"毒を忍ばせる事で格段に殺傷能力が上がる"という理由だ。



 腰に刺している小刀にも動物や植物から抽出した天然物の毒が塗られており、その制作過程で独自の調合が施されており解毒の見込みはほぼ無いとさえ言われているのだから、いくら俺と言えども経験した事のない毒との戦いには自信が持てない…現実の忍者はなんと合理的かつ卑怯な奴等なんだ!



「だからそもそも忍者に遭ったらその時点でほぼ詰んでいると言っても良いだろう」


「どうしてその忍者が兄さんを狙ってる事前提なのよ」


「政府からの刺客だろうな…」


「何をしたのよ兄さんは」



 しかし俺が遭遇する忍者が特定の旗本に雇われているとも限らない。忍者にもそれぞれ所属の様な物が存在し、特に有名なのが『伊賀・甲賀』の二大巨頭だろうか。その他にも様々な里出身の忍びが存在しており現代には時代小説の登場人物として伝わっている事が多い。



 しかし数百年の時を超えて知られる彼らでも本来の名前とは違った形で小説の中に登場する事が多く、間違った名前で覚えられる事もしばしばだ。有名どころで言えば百地三太夫だろうか?彼のモデルとなったのが百地丹波という安土桃山時代に生きた忍びで、彼もまた伊賀の国出身である。歴史オタクの前で百地三太夫という名前が出た時には要注意だ、きっと長くなる。



「でもイズミも逆張り気質だから風魔一族とかはカッコよく感じるでしょ? 半蔵とかよりそっちの方が好きそう」


「別にどっちも好きじゃないわよ、言われてもよく分からないし」


「風魔一族は忍者とかじゃなくて『乱破らっぱ』って呼ばれてたんだって。カッコ良くない?」


「乱交パーティーみたいね」


「お前の方が忍びに狙われそうだな」



 ちなみに俺達が当然のように呼んでいる"忍者"というのも戦後の時代小説から広まった呼称であり、それ以前は"忍術使い"であったり先程俺が言った"乱破"もそのうちの一つである。他にも地域ごとに呼ばれ方が異なるため山ほどあるのだが、今回は割愛させていただく。



 数々の創作物で扱われる忍者の中でもこの小太郎という人物の場合には異常さを語るエピソードも多々あり、酷いものだと身長は2m以上あって口から四本の牙が突き出しているなんて扱いまでされているのだからとんでもない話である。その他の創作物でも顔に何かしらのメイクが施されていたり、なんなら元から人間ですらないという設定まである始末で、生前の彼が見たらなんと言うだろうかと非常に興味深い物ばかりだ。



「まぁこの小太郎にもしっかり元ネタが存在していて、ちゃんと人間である事は確認されてるんだけどな」


「結局兄さんが憧れてる物は全部夢物語じゃないの」


「そりゃそうだろ! 人間に出来る事だったら俺の方が絶対上手く出来るんだから!」


「忍者なんて口から火を吐いて津波起こすくらいのぶっ飛び方がちょうどいいんだよ!」


「忍ぶ気ゼロじゃない」



 確かに現代のアニメやゲームに登場する忍者は見るからにド派手な技を使ったり、性別が変化するだけでなく明らかに布の少ない『くノ一』として登場する事が多く、そんなキャラクターに魅力を感じる人が多いのだろう。もしも今から数千年後に現代人が変化させた歴史上の人物が正史として認められてしまったら、戦国時代の武将がとんでもない数の女性で溢れる事になりそうだと少しだけゾッとした。



「俺も将来語られるとしたらとんでもない侍って事にして欲しいな」


「忍者の話はどこ行ったのよ」


「知ってるかイズミ? かつて妖刀と呼ばれていた刀の事なんだけど」


「もういいわよ面倒臭いわね」



 よく海外で生活をしている時には日本人だと言えばニンジャだサムライだと言われて辟易していたが、それらが落ち着いて日本に住んでいるとやはり惹かれる部分が数多くある訳で…



「兄さんが使ってる包丁もダマスカス鋼を使って日本刀作ってる所にお願いして作ったんだぞ」


「旅行に来た外国人みたいな事してるんじゃないわよ」



 今ではしっかり日本かぶれの日本人になってしまっている。




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