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第十四話  でていけ!けだものの村!

 

 ジョンが遊びに来た。

 そういえばゲームを持って来たとか言っていたな


 今日はそれを配信でやってもいいよ!と自信満々で連絡を寄越してきたが、配信許可が取れるゲームなのかも分からないのにいきなり配信出来る訳もなく、とりあえず持って来させて物を見てみる事にした


 のだが…



『でていけ!けだものの村!』



 いやいやいや…これは流石にまずいだろう…しかも販売元が"人天堂"って…よく見つけてきたなこんなパチモン


 パッケージの裏を見てみるとゲーム画面やシステムの説明などは一切書かれていない世界観推しのいかにもって感じのやつだ


 実際ジョンが日常的にプレイしているとのことだから、極端な問題描写なんかは無いんだろうけど


 こんなパチモン配信で流した日には、本家から怒られて一生ゲームをやらせてもらえないなんてことになりかねない。


 ただ…配信者としては非常に、とんでもなく気になるのが性分というもの。

 動画として撮影して、まぁ…本家の方に一応許可を取ってみるのもありかもしれないな

 と撮影しながらプレイだけはしてみる事にして電源を入れた。



【hitotendou】



 読み方そっちかよ。なんでちょっとリスク管理してんだよ小賢しい

 タイトル画面で小躍りする動物たちの表情が皆一様に半目で、やけにこちらの神経を逆撫でしてくる


 しかも動物の種類もネコとか犬のメジャーどころではなく、トカゲやらラーテルなのもムカつく。そこは本家での登場を待ち望んでるファンだって居るだろ。なんでお前らが先取りしてんだよ



 開始画面もどこかで見た薄暗い画面の中心で半目のワオキツネザルが手招きしている


 主人公の名前は念のためジョンにしておいた。どうせろくでもない住人に恨み言を言われながらいじめられる種族差別ゲームに違いない。奴らの胡散臭い半目が物語っている。



 名前を決めゲームの世界に入り込むと、そこには炎に包まれた村を我が物顔で闊歩する主人公ジョンの姿があった。ワニとゾウとカバを従えコウモリを踏みつけるヒトの姿が。



『この世界は力こそが正義!食物連鎖の頂点であるヒトの貴方はこの世界から好きな動物を追い出す事が出来ます。追放される事が嫌な動物たちは貴方に気に入られようと貢物を捧げて来るので、月の終わりにその中から気に入らない動物をこの世界から追い出して、あなただけの村を作ってね!』



 なんて面白そうなゲームなんだ…


 先程から顔に浮かべていたあの半目は小馬鹿にしているのではなく、なんとか気に入られようと必死に作った表情だったのか


 こうなってくると主人公をジョンという名前にしてしまった事が悔やまれる


 こんな奴が時の権力者になれる訳もなく、新しい種類のジョンという動物もアップデートで追加して欲しいくらいだ。



 初期の住民はナマケモノ♂、ハイエナ♂、オコジョ♂、ラーテル♀、リオック♀、タヌキ♀、クマノミ♀



 なんだこのラインナップは。まぁどんな動物だろうがいずれこの世界から消えてしまうのだから短い余生をせいぜい楽しんで暮らすといいさ


 手始めに一番近くに住んでいるナマケモノ♂の家を訪ねてみる。バゴンバゴンと玄関の扉を蹴りつける音にナマケモノにも関わらず凄いスピードで扉が開かれた



 ナマケモノ『へ…へへへっ…いやですねジョン様…こんな下賤なあっしに構っていたら、へへっ…貴重なジョン様の時間が失われてしまいやす…どうかご自愛くださいまし…』



 うーむ、こいつの媚び方は自分勝手だな。貴様が下賤な存在である事など承知の上で謁見を許しているのだ。なにか芸の一つでも見せてみたらどうだ?とジョンはナマケモノの家の扉を壊してみた


 それでもナマケモノは卑しい薄ら笑いを浮かべるだけだ。貴様はつまらん、この村を出ていく準備でもしておくのだな。というと怯えた顔で地面を舐めだした。少しいい表情に変わったではないか



 ラーテル♀が井戸に水を汲みに来ていた。この村の資源はすべて俺の所有物なので水を汲むにも許可が必要なのだが、勝手な事をされては困るなぁ…


 ラーテルに声を掛けると驚いた拍子に桶を落としてしまった。なんてことだ、この村の貴重な水を地面に飲ませてしまうだなんて…



 ラーテル『す、すみま…すみま、せん…』



 無許可で水を盗もうとしただけでなくその水すら無駄にしてしまうなんて救いようのない畜生だねぇ…査定に響くから覚えておいてね。ラーテルはその場で固まったまま動かなくなってしまった。


 悪い事は出来ないね。ジョンは不敵に笑った



 ハイエナ♂とタヌキ♀が公園で密会している所をたまたま見つけてしまった。ほう、奴らはどうやら付き合っているらしいな。この村からの脱走を計画している様だな。所詮は害獣か…


 奴らの両親と記念撮影した時の写真を手紙と一緒に送っておこう。



 リオック♀は…家の中で吊られているじゃないか。腐肉好きのハイエナに後処理をさせておこう。



 オコジョ♂とクマノミ♀は家にもいなければ村中どこを探しても見つからない。

 すると海の方からハゲタカとシロイルカが声を上げた

 この村から亡命を図ったと思われるボートを一隻見つけたとの事だ

 すぐに海洋警備員に連れられて二匹のケダモノが目の前に連れられてきた

 目の奥に生気を失ったオコジョとクマノミだった


 このまま斬首の末、剝製にして家に飾ってもつまらないと思ったので一つゲームをする事にした



 直立してバケツを咥えさせたオコジョの足元に、クマノミを顔だけ出して埋める。

 そのバケツの中には硫酸を入れて


 この体勢で十分耐える事が出来れば二匹にはこの村から外の世界に出る権利をやる事にした

 住民を集め、処刑台の上に立たせた哀れなケダモノを果物を食べながら見物する


 イタチ科のオコジョは決してあごの力が強い動物ではないが、十分程度なら我慢できるだろう


 頭の上に硫酸入りのバケツがぶら下げられ、オレンジの体色をしたクマノミの顔が真っ青なのが笑えてくる



 開始から五分過ぎた事を目の前の時計が知らせる。観衆も彼らを応援しているのが健気で良い


 挑戦が達成されそうになったとしても邪魔立てする気は無い。それではせっかくのゲームも面白くないじゃあないか


 必ず解放されるという確約の為に、文字通り死ぬ気で歯を食いしばる姿に命の尊さを感じるのだから



 一分、また一分と過ぎていく時間。バケツを咥えている口元から血が滴り落ちる


 もう感覚もなくなって加減なんか出来ないんだろう。滴り落ちる血の雫が硫酸の海に落ちてシュワシュワと音を立てる。


 残り一分、血眼になってオコジョはアゴの力を強める。動悸は激しく涙を流しながら必死の形相で耐える。住民からは声も上がりだしている


 足元のクマノミももう祈るしかできない。五秒前、三…二…一

 時計の針が止まると、部下のサイが硫酸入りのバケツを受け取る。


 これで晴れて二匹はこの村から出て自由になる権利を得た。

 掘り起こされるクマノミと抱き合い涙を流す二匹



 次の瞬間オコジョの首を刎ねた



 外に出る権利を手に入れたのに、その権利を行使せずに抱き合う間抜けにはふさわしい最期だった

 クマノミの目の前で力なく崩れ落ちた肉塊


 早く逃げないとお前もこうなるぞ?そういって俺達は次のレクリエーションを始めた


 この村から逃げ出す事なんか不可能なんだ…残された住民たちはただ、この村を出る唯一の方法は死以外ない事を改めて理解したのだ…


 俺に従えないのなら出ていけばいいさ。この、けだものの村から

 ヒトの笑い声は、村中に響くクマノミの泣き声よりも大きく響いた



「…ジョン」


「面白いだろこのゲーム?」



 その日の晩はしゃぶしゃぶを食べに行った

 動物の命の尊さを我々は常に忘れないように

 今日もどこがで我々の為に命を落としている動物たちの為にも


 この地球においてのケダモノとは、我々人間なのかもしれないのだから





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