第150話 夏なのでナイトプールに行きます~前編~
どうも如月大我です。昨年の夏は海に赴きイズミとおまけと共に夏を満喫しましたが、今回はとある事情によりナイトプールで遊泳を楽しむ事と相成りました。その理由というのが…
「いや~やっぱり夏の夜よ」
「うむ、ギラギラと紫外線に照らされながら毒を吸収する事の愚かさよ」
「この歳で倒れちゃったら大変だものねぇ~」
そう、おばさん達が熱中症で倒れてしまえば日頃の不摂生並びに体力の低下により最悪命を落としかねないという事で、大田さんと会って間もない頃の様に再びナイトプールを貸し切り泳ぐことになったのである。なんて迷惑な話なんだ…
「今年は陽に照らされたイズミさんの水着はお預けですか…しかしこの夜にしか出ない妖艶さもまた…!」
「ほらイズミ、この世で最も醜い妖怪が見てるから何か羽織ってなさい」
「この世で最も醜い争いに巻き込まないで頂戴」
どうせイズミは泳ぐ事なんか無いだろう、今年もフードコートから食品を貪りつくし余計に俺の金を消費するに違いない。しかし前回来た時は確かに食品が充実し、泳がない人からしても嬉しいサービスに溢れていたが…本当にここは遊泳するための施設なのだろうか?と疑問に思わざるを得ないな。
もしも貸し切りにしていなければ、若さゆえにギラついた男達が性欲を持て余し、今目の前でストレッチしている老婆達にさえ股座についた矛先を向けてしまうのだろうな。それこそ俺がよく見る人妻シリーズの導入の様になっていたに違いない。ナンパされたすぐ後にシーンが切り替わりホテルの一室からスタートするのだろう…危ない所だった。
「なんだね大我クン、母の肢体に見とれてしまったのかな?」
「お前の死体を水面に浮かべてやろうか」
「おいこいつ勃起してないか確かめようぜ」
「ちょっと…ダメよ大我ちゃんのは…!」
イズミが晴香を投げ飛ばす様子を背中で感じながら、俺と大田さんは食料調達に向かった。イズミが欲しているとあらば普段いがみ合っている俺達も休戦協定を結ぼうというものだ。一年という歳月を経てもメニューに代わり映えは無く、この店舗が営業を続けられている事が不思議になる。
普通稼ぎ時となるこの時期には目玉商品の様な物が登場するのが定石というか、経営者側であればそのように舵を切りそうなものだが…というかこのシーズンに俺達の様な少人数でも貸し切れるという事はそういう事なんだろうか…来年はまた新しい店を探す事になりそうだ。
「おや…今年は女性が店員なんですねぇ…ふむふむ、地味ではありますがその胸元にはたわわに実った二粒の果実が…」
「気色悪いなコイツは」
店員さんに聞こえてなければいいが…一応動画の撮影なんかはしていないが俺達の苗字が如月だという事は店側にバレており、昨年は動画の撮影も行っていた事でネットで活動しているという事は一部の店員の間でも周知されているのだ。そんな中で店員にセクハラを働いたと拡散でもされればまた面倒な事になってしまうかもしれない。
少しでもお行儀よく懇切丁寧に対応しなければ…とは言うものの…
「あの~…ポテトを20個…」
「に…20…ですか?」
「は、はぁ…ははは…」
そう、これだけの数を注文し準備させる事が彼女にとって嬉しい出来事なはずが無いのだ!なんて面倒な時間にシフトを入れられてしまったのかと自分の不運を呪うだろう。それに俺の注文はこんな物では収まらない。これからチキンナゲットを注文しあまつさえ大量の酒も、つまみでさえも彼女に用意させようというのだ。このまま厨房から包丁を持って襲い掛かられても仕方が無いと思う程の仕打ちだ…すまない今時には珍しく真面目そうな少女よ。
「大丈夫ですか? もしよろしければ私も手伝いますけど~?」
「胸見ながらしゃべるな気色悪い」
「あ…あはは…厨房には入らないでくださいね…?」
「急いで用意しますので…」と苦笑いしながら駆け足で去っていく彼女の背中を見ながら、俺は申し訳なさ半分(あぁ…酒を先に頼んでおけばよかった…)という後悔半分を頭の中で思いながら大田さんのこめかみを握りつぶさんばかりの勢いで締め上げていた。すると…
「お、お待たせいたしました~!!」
「はやっ!? な、何分経った!?」
「あでででで!!! アンタのせいで見えないんですよ!!」
俺の体感ではまだ5分も経過していない様に思えたが…まさかその短時間でこの20人前のポテトを準備して来たと言うのか…?否!!そんな事物理的に不可能だ!!この先の厨房で中国宮廷料理を取り扱う一流のシェフが待ち受けていたとしても、芋をまとめて揚げるスペースなんか有る筈もない。
その時彼女の口角が僅かに上がった事を俺は見逃さなかった
「昨年は大変多くのご注文を賜ったとの事で…今年はお越しいただく前に可能な限りご用意させていただきました…」
「あはは…それはお手数かけてしまい申し訳ありません…」
「いいえ! むしろもっとご注文いただかなければ当店が赤字になってしまい私のボーナスも…あっ」
「ボーナス…?」
「いえ…それはこっちの話で…」
なるほどなぁ…確かにどこを見ても昨年からまるで変わりのない内装を見るに、経営状態は順風満帆とは行って無いのだろう。だからこそ俺達の様な金満客から搾り取れるだけ搾り取ろうという魂胆か…それにこの大学生風のアルバイトには買わせれば買わせるだけボーナスを出すと…だからこんな大田さんが食いつくほど胸を強調していた訳か。まるでコンパニオンだな。
しかし、残念な事に俺の購買意欲が性欲では上向かないという事まで考えられなかったのだろうな。舐められたものだ…まさかこの俺を相手取って金づるにしようとしていたなんて…普段であれば動画撮影という名目上「こちらとしても協力させていただきます」と2つ返事で羽振りをよくするのだが。
「俺は昔から利用されるのは好きではないんでね…」
「・・・」
「でもまだお酒も注文してませんし…それにイズミさんの胃がこの程度で満足するとはとても…」
「アイツらが泳ぐことに満足すれば、別の店で飯だけ食って帰ればいいさ。」
痛恨のミスに悔しさをにじませた表情の彼女に、この上ない優越感を感じた俺は(いい気味だ、名前くらいは覚えておいてやろう…)と彼女の名札を見てその場でひっくり返りそうになってしまった。
【大野楓】
「あ、あんた…大野さんの娘…」
「え…?」
「大野卓三の娘さん!?」
「なんでお父さんの名前を…」
如月大我の住まうマンション前で、今この時も守衛として働いている不幸体質で薄毛のおじさん、それが大野卓三。御年53歳になり今年から大学生になる娘を持つバツイチだ。
まさかこんな所でその娘と邂逅する事になろうとは、誰一人として想像だにしていなかった──
つづく!!




