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第149話 格ゲーを嗜む兄妹

 


 今日の俺とイズミはレトロゲー配信を行うという事で、過去の作品が遊べる詰め合わせパックの様な物を買いにゲーム屋へやって来た。最近ではネットを通じてアーカイブという形で無料配信されている様な物も多いとされているが、今回我々が手に入れようとしているのはそこに並べられるようなメジャータイトルではないので仕方なくといった形だ。



「すいません、ウルトラファイティングファイトありますか?」


「はい、少々お待ちください」



 この『ウルトラファイティングファイト』通称UFFは同会社から販売されているウルトラシリーズと呼ばれる格ゲーが全作品入っているお得なゲームだが、なにぶんこの会社が出すゲームの知名度が低すぎるあまり買い手がつかず、一部のマニアたちからは絶大な人気を誇るのだが現在この会社はゲーム事業から撤退している。



「大量にありましたね、おひとつでよろしいですか?」


「はい、一つで」



 この手のゲームは生産数が少なくプレミアが付いたりもするのだが、どんな勝算が有ったのか知らないが知名度の割には作りすぎて全国のゲームショップには大量の在庫が余っている始末。とことんまで持っていないゲームだ。



 しかしこのゲームは悪い所がほぼ見当たらず、格ゲー初心者でも楽しめるライト層向けのゲームで俺の中でも評価は高い方なのだが、如何せん生まれた時代が悪かったというか…当時はゲーセンで格ゲーをしている人間なんて上手い人以外お断りというか、弱い人間は虐げられるような環境だった為コンボ入力も不必要なこういうゲームは邪道として忌み嫌われていた。



 そういった昔ながらの"強い者=偉い"という文化が昨今のオンライン対戦での初心者狩りという悪循環を促進させたのではないかと俺は考えているのだ。もしもこのゲームが流行っていればライト層とマニア層での住み分けも考えられたんじゃないかとも思うのだが、それはただの延命にしかすぎず遅かれ早かれ格ゲー離れというのは訪れたのだろうかとも思える。



「それにしても意外ね、引き籠ってた兄さんが格ゲー好きだなんて」


「コンボ練習とか楽しくてな、ずっとCPU相手にハメ技ぶっぱしてたもんさ」


「外に出ても一緒には出来て無さそうね」



 これはまだ今ほど技術が進化していなかった時代のゲームに限ってなのだが、格ゲーには様々なキャラクターに応じて必殺技というのが3つほど用意されていて、どの作品にも必ずぶっ壊れ技を持つキャラが一体は存在しているのだ。中には一度コンボが始まってしまえばミス以外では逃げ出す事が不可能なキャラまで居たのだから、当時のゲーセン事情を考えると背筋が凍る思いだ。



 もしも格ゲーが得意な根暗少年が対面のヤンキー相手にハメ技なんか決めようものなら、たちまちリアルファイトに発展してコンティニュー分の資金を奪われるに違いない。しかしそれほどハメ技とは禁呪、挑戦者の100円をわずか数十秒で一方的に無に帰す悪魔の技なのだから…使うのならば俺の様にCPU相手や冗談の通じる友人までにしておいた方が無難だろう。



「コントローラーは家にあるからそれ使おうか」


「あの変なやつ使うつもりなの…?」


「変なとはなんだ、レバーレスかっこいいだろ」



 一昔前までは格ゲーのコントローラーといえば"アケコン"と呼ばれるいわばゲーセンの筐体についている『左側にレバー・右側には複数個のボタン』というのが主流だったのだが、最近では技術の進歩というかモニターの進化も相まって、様々な技の出かかりだったり隙を見つける事が多くなってきたのだ。



 そうなって来ると今度はどれだけ早くプレイヤーが反撃だったり、防御だったりのコマンドを入力できるかという勝負になるのだが…俺の使っているレバーレスコントローラーというのがそれを解決してくれる優れものだ。見た目は先程話したアケコンとほぼ同じなのだが、大きく違う所が左手のレバーの部分には"ボタン"が存在しているという事だろう。



 つまりレバーで操作していた前後左右を左手のボタンに割り振り、無理矢理十字キーの様な操作に寄せて行った形がこのレバーレスなのだ。慣れ親しんだレバーでは無い分かなり慣れが必要で、一度は移行を試みても挫折するプロゲーマーも多かったという。しかしそれを補って余りあるほどのメリットもしっかり存在しているのだ。



 それがアケコンよりも明らかに入力が早いという事。ここでモニター類の進化の話に繋がって来るのだが、しっかり反応出来ているのに機械側が入力受付をしてくれない…なんてことが増えたのだ。解決策としてこんなシンプルな話は無いのだが、レバーを少し動かす時間よりもボタンをすべて押し込む時間の方が短いという事。



 美麗なモニターが僅か数フレームを認識出来るようにした事で、指先に数ミリの違いが生まれ、結果格ゲーの世界を大きく変えたのだ。



 出始めの頃はレバーに帰属意識を持ったプレイヤーから非難を浴びたのだが、やはり勝ちに貪欲なプロゲーマーたちが移行し始めるとそういった声はだんだんと小さくなっていった。しかし決していい事ばかりではなく、レバーの様に流れの中で技を出し切る事がかなり難しく、主に入力が少なくて済むキャラクターでこそ真価を発揮するのがこのレバーレスだった。



 溜め技キャラならレバーよりも数フレーム早く技を出す事ができ、今までの対策を無に帰す事が出来た。しかしコマンドで投げるキャラは『レバーを二周回して発動』みたいな事をボタンで行うのは困難を極めた。一長一短だが各々のキャラに合わせたカスタマイズ性が更に増し、最近では更なる格ゲーブームが巻き起こっている様に感じる。



 昔ながらのプレイヤーの方々は「新参が…」なんて思わず、下手くそな人を見ても決して煽らず温かい目で見てあげて欲しい。それが未来のプロゲーマーを産み出すきっかけになるのかもしれないのだから…



「よし、じゃあイズミは初めてだから俺が教えてあげるよ。好きなキャラ使いな」


「じゃあこれ」


「よし、じゃあ俺はこいつにしようかな!」



 ──俺はハメ技テンコ盛りのラスボスキャラを笑顔で選んだ



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