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第148話 美人でいい匂いのする科学者のお姉さん

 


「なんかお前くっせえな」


「えっ」



 私の名前は厳島カガリ。天才科学者兼美少女をやっている者だが、今現在私の目の前に立っている遺伝子上の息子から体臭についてクレームが入った様なのだが?これはよもや夢ではあるまいか?きっとそうに違いない、ここはひとつ馴染み深い自分の体臭でも嗅いで目を覚ますとしようか…



「うわぁ!? 誰だ!?」


「お前だよ」


「そんな馬鹿な!? あきらかに扇風機みたいな匂いがしたぞ!? 懐かしいような押し入れの様な…」


「あぁ…それだわ俺が感じてる臭い。やっぱお前じゃねーか犯人」


「!!??」



 何言ってるんだこのシスコン性犯罪者が…私みたいな童顔ロリ体系の科学者キャラっていうのはだなぁ、薬品塗れで臭そう臭そうと言われながらも良い匂いがするっていうのが定番で、私だけがその例から漏れるという事があるはずも無く…でもくっさ…なんだこれ誰か住んでないか私の首元に…?小柄でブリーフのおじさんが住んでてもおかしくない位の生活感が漂ってるんだが…



「お前それもしかして──」


「言うな!! それ以上は何も…」


「いやだってもう40…」


「それだけは絶対にない!!!」



 まさか…言葉にするだけでもおぞましいあのワードが…私の身に降りかかるなんて事が有って良いはずも無い…!きっと何かの間違いで…



「そ、そうだ! 朝陽ちゃんとか三沢っちからこんな匂いして来ないよな!? 同世代なんだ私達!!」


「そりゃそうだけどよ…にしたって…」


「フローラルの香りなんだ!!」


「それは絶対に違うよ…」



 人間五十年…そう言われていた時代でも花魁だとか一国の姫君だとかは、煌びやかで良い匂いのしそうな描写で後世に伝わっているにもかかわらず、その実"湯あみ"と呼ばれる入浴もどきの行為しかしてこなかったのだからどうせ臭かったに決まっている!それに比べて私はどうだ?毎日風呂に入り服の洗濯までしているんだぞ!?



 考えられる要因としては私自身…素材本来の匂いに違いないが…



「人間とは常に死に向かって、それでも人生を謳歌する物だ…故にたとえ何人たりとも老いには勝てず…」


「やめろ!! 今すぐそのくだらない格言みたいな詠唱をやめるんだよ!!」


「…まぁ俺が普段嗅いでる臭いはイズミみたいなフィクション同然の超絶美少女が基準なんだから、俺の鼻が肥えすぎただけなのかもしれないがな」


「そ、そうだ! だから私から段ボールの隙間みたいな匂いがしたんだ!!」


「もうほぼ自白してんじゃねーか」



 どう考えてもこれが老いによる変化な訳がない!だって人間が生きながら体臭の変化をするというなら、動物の死骸を毎日あれだけ食べてるイズミちゃんからあんなに良い匂いがする訳ないだろ!?しかもニンニクそのまま食ってると言っても過言ではない量ぶち込んでるし…



「ちょっとイズミちゃんの体臭嗅がせて貰っていい?」


「良い訳ないだろ何言ってんだ」


「頼む!! 自分に自信を…まだ諦めきれないんだ!!」


「どんだけ必死なんだこのババア…」



 若くして天才科学者だともてはやされ、この容姿から寄って来る男どもをあしらっていた二十代の頃…それでも研究に没頭し著名な科学者として世界を飛び回った三十代…確かに女として充実していたとは言えないかもしれないが、それでも確かに私自身が歩んできた軌跡なんだ…それが今になってこんな仕打ちを受けてたまるか…!!



 ────────


 ──────


 ────



「んで…どういう状況なんだこりゃ…?」


「うぃ…ふくぅ…!」


「どうもこうも…匂い嗅いでみろよ」


「匂い…? 別に普通じゃねーか?」


「うぐぅぅぅぅ!!! ふうううう!!!」


「まさか救いとして呼んだ同じ種類にとどめを刺されるとはな…」



 *大我事情説明中*



「はぁ? 加齢臭?」


「イズミの匂い嗅いでから『あの日の自分と同じ匂いがする…』ってこのざまだよ」


「いや加齢臭ってもなぁ…流石にそんな急には来ねえだろ?」


「実際今来てるんだから困ってんるんじゃないか…?」



 晴香は慰めようとしているのか、それとも本当にいつも通りの匂いに感じているのかは分からないが…ただ俺の鼻が感じ取ったのは昔一緒に住んでた爺さんの部屋からした匂いだったのだから、これを加齢臭と言わずしてなんだと言うのか?他にもなにかしらの化学薬品が掛かったのではないか?と尋ねてみても昨日は晴香と朝陽さんのスナックで飲んでいただけだというし…これはもう完全に黒だろうが。



「三沢っちぃ…三沢っちも枕から毎日この匂いがするのかい…?」


「いや私はしねぇし…お前もそれだったらここに来る前に気付くだろ…」


「確かにそれは妙だな、匂いの元が首からならばもっと早くに気付いても良いはずだが…」



 なら本当に誰かが首元に住んでいるとでも?バカな事を言ってはいけない、人間の体にそんなスペースは存在しないし、今目の前に存在している事実はカガリの体から加齢臭がして、それが誰かからもたらされた物では無いという事だけで……誰かから?



 そうか、別にカガリが何をした訳でも無く…例えば誰かがカガリの服を着てしまったりした場合にはしばらくその服には匂いがこびり付いてしまうだろう。それと同じ様に誰かが加齢臭を…?世界征服を目論む悪の組織に目を付けられたとて、そんな目には合う事がないだろう。これは俺の考えすぎだったのだろうか?



「念の為聞くけど、昨日のスナックには他のお客さんとかいなかったのか?」


「あぁ、昨日は珍しく会社の二次会かなんかで結構居たなぁ…それこそアタシらの席の真ん前に」


「なるほど…ならその団体の真後ろに座っていたのはカガリじゃなかったか?」


「え…そ、そうだけど…」


「ふふ…全部が繋がったな」



 この状況証拠から導き出した俺の答えはこうだ、以前一度足を運んだあのスナックはかなり手狭というか、客席の間が極端に狭くそれこそ駅のホームに置いてあるベンチ程度の距離で後ろに客を置く事になる。その際にカガリは腰まで伸びた長い髪が自分の首筋に触れていると思ったのだろう。だがその時に触れていたのは仕事帰りで脂ぎった高齢のおじさんだった訳で…



「つまり今カガリの首元から発せられているその加齢臭の正体は、カガリの内面から出ている天然由来の成分ではなく! 昨晩のおじさんから絞り出された加齢汁だったんだよ!!」


「きっっったねぇな!!! 早く脱げその服!!」


「ひゃあああ!!!」



 そうしてイズミが普段から着ているTシャツに着替えたカガリの体からはあの匂いがする事は無かった。涙を流しながらまだ老いてはいなかったと喜び、なんども俺とイズミにお礼を言うその姿を見ると胸が痛んだ。



 そりゃ加齢臭はしないのかもしれないけどさ…首元におじさんが触れていても気付かないって…それもう感覚が衰えている証拠じゃないですか…



 厳島カガリの体から加齢臭がするまで"あとXXX日"────




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