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第147話 イズミにおける納豆の是非

 

 やぁ如月大我お兄さんだよ。今日も元気に朝から納豆ご飯をいただいておりますが、思えばイズミから納豆に対してクレームが入った事が無いな、とふと今更になって気付いたのだ。いつも野菜を食ったり魚を焼いているだけで「なんでそんな物を…」なんてぼやかれるのに、これだけ臭いの強烈な納豆に関してはノータッチ。もしかしたらイズミも納豆が好きなんじゃないのかと思い始めているのです



 それとなく聞いてみるとしようか



「そういえばこの納豆安い割に結構うまいな。今度まとめて買ってこようかな?」


「兄さんの趣味なんてすぐ変わるんだから腐るでしょ」


「まぁ…もう腐ってるんだけどな」


「…そう」



 自分でも呆れるほどつまらない会話の終わり方をしてしまって次の言葉が出て来ない…こんな事になるなら第一声で納豆が好きか聞いてしまえばよかったのに…でも仮にイズミが納豆好きだとしたら、あの暴食のイズミがとても我慢出来るとは思えないしなぁ。好きでも無ければ嫌いでも無いって所だろうか?イズミにしては珍しい食品だ。



「俺さぁ、納豆食ってる時に魚も食べてる訳じゃん? そうなると骨を取ろうとした時に箸がヌメヌメしててちょっとストレスたまる事あるんだよね」


「味噌汁に一回着けてから使えば良いじゃない」


「え…?」


「なによ」



 何でイズミが納豆好きの中ではおなじみのベタベタ攻略法を知っているんだ…?もしやイズミは極度の納豆愛好家なのか…?いやしかし、俺に隠れて食っていたとしたら一緒に寝る時に絶対わかる、でも今までイズミの体から納豆の匂いがした事なんか一度たりともなかったし…昔何かの番組で見ただけなのか?



 実は納豆の粘りというのは熱に弱く、暖かい液体に一度触れれば溶けてしまうのだ。納豆汁と呼ばれる納豆入り味噌汁も存在しているが、納豆を入れたまま火にかけてしまえば最期。粘り気の無い"素大豆"が入っただけの簡素な汁になってしまうのだという。なので最後の仕上げというか、味噌を入れるタイミングで納豆を入れるのがミソなのだと…なんかややこしいな。豆被りも起きてるし。



「詳しいなイズミ。納豆好きなのか?」


「全然好きじゃないわよ」


「そうか…じゃあどこで知ったんだそんな情報」


「母さんが一時期狂ったように食べてたのよ」


「朝陽さんが…?」



 イズミ同様朝陽さんも野菜が嫌いな民だったと記憶しているのだが…もしや旦那がこの世を去った事で気が狂ってしまったんだろうか?別に悪い事ではないが、納豆だけで気が狂ったようにって…家中が納豆菌に塗れてとんでもない匂いが漂ってきそうだ。そうか、だからイズミはこの程度の匂いなら意に介さず食事を続けられるって訳か。



「にしてもなんだってそこまで納豆漬けになる事に…?」


「母さんってバカでしょ?」


「まぁ人よりは…」


「畑の肉って呼ばれてるから肉だと思ってたのよ」


「とんでもねぇなお前の母親は」



 確かに言われてみれば特殊な調理法を施したそぼろの様に見えなくも無いが…にしたってべとべとして糸の引いてる肉を目の前に出されたら食べる気なんて失せるけどなぁ…許容出来るヌメヌメ具合はあんかけまでだろう。ていうか"納豆"という名前からして完全に豆だろうに、どうしてそんな風に育ってしまったのか聞いてみたいくらいだ。



「テレビでやってたのよ、納豆は健康にいいって。大豆イソフラボンがどうのって」


「テレビも大豆って言ってるじゃないか」


「味噌とか醤油が大豆由来だってのは知ってたから厄介なのよ。パックの中には醤油だれが入ってて味噌汁も私が毎日作ってたからね」


「完全にセットとして脳内にインプットされてたのか…やばい鳥肌立って来た」


「まだまだ怖いのはここからよ」



 今でも十分に怖すぎるくらいだが、いやもうそこは通り過ぎて吐き気すら催すレベルだ。気持ちが悪い、ダイオウグソクムシの裏側を見た時の様な、宇宙人との邂逅を想起させる気持ちの悪さだ。そんな人間いる訳が無いというラインを三段跳びで飛び越えていく異常性。もしかしたら犬の方が賢いかもしれないのだから。



「母さんが毎日肉だと思って食べてた納豆を、本来の豆として認識した日があるのよ。きっかけは何だったと思う?」


「分かる訳ないだろあの人の思考なんて…」


「私が食べない事に気付いたからよ」


「本当に野良犬レベルの知能なんだな」



 あの朝陽さんの事だ、毎日バカみたいに食べられて健康にも良い魔法の食品納豆を娘のイズミにも何度か勧めた事だろう。しかし母親よりかは多少知能指数の高い生物である娘はそれが大豆由来の食品である事は知っている、食べるはずも無い。しかし母親は懲りずに毎日豆を喰らい、そしてついに気づいたのだろう「豆だこれ」ってな。



「それから母さんは納豆の匂いが無理になったのよ。訳が分からないわよね」


「俺らの親父にも責任あるだろうけどな…」



 もしかしたら父親の神田慶二も納豆嫌いだったのかもしれないが、だとしても最低限口に入れられるものくらいは管理しておくべきだろう。もしかしたら幼少の折にイズミも何かしら変な物でも食わされて、そのせいでこんな暴食になっているのかもしれないしな。これ訴えたら朝陽さんが勝てる要素一つも無いレベルだぞ。



「そうだそうだ、朝陽さんの話は良いんだけど結局イズミって納豆…」


「食う訳ないでしょそんなくっせえ豆」


「…ですよね」



 イズミにおける納豆の評価は"非"だそうで。現場からは以上です




 * * * * * *



「ふぇっくしゅ!」


「どうした朝陽ちゃん夏風邪?」


「誰かの噂話かもねぃ?」


「夏場の風邪って栄養の偏りから来るみたいですよ! 肉ばかりじゃなくて野菜も食べた方が…」


「う~ん…そうねぇ…」



「たとえば"納豆"とか!」


「ひっ!? 納豆こわーい!!」


「お、おいどうした朝陽ちゃん!?」


「日本昔話みたいな逃げ方してるな…」



 聞いている限り冗談みたいな話ではあったが、本人からすると相当なトラウマになっているようだった。



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