第144話 戦隊ヒーローを改めて見る男
漢として産まれたなら誰もが憧れるであろう世界を救うという夢。それを何十年にも渡って続けている偉大な存在が居る事を皆さんはご存じだろうか?
「次シーズンのスーパー戦隊は12人の星座がモチーフか…裏切者が出てもおかしくない位の規模だけど予算は大丈夫なのか…?」
「まだ見てたのねそれ」
「まぁそこまで積極的に追ってる訳では無いけどな」
最近は撮影現場を用意する為の予算すら削らなければいけないらしく、かなり困窮しているとの噂だった戦隊シリーズだが…まさかここに来てこれだけの大所帯で新作を作るとは思わなかったな。それとも新人俳優を売り出す為に大手事務所からの援助でもあったのだろうか?昨今の戦隊シリーズでは子供よりもお母さんが夢中になり兼ねないほどのイケメン俳優が起用されているからあり得ない話でもない。
「ほうほう、12人とは言っても全員が変身する訳では無く二人で一組って感じなのか。地球人と宇宙人が協力して悪の宇宙人を返り討ちにすると…面白そうな設定だ」
どうやら地球人がベースとなって変身コスチュームや武器になるのが相方の宇宙人らしい。獣型やら海洋生物に酷似した生き物まで居るが、それらはどれも星座がモチーフになっている。これは大人が見ても楽しめそうな内容だし、宇宙人側にも有名声優が起用されており制作側の本気度が伺える作品だな。
何より面白そうなのがこの何をやってもドジばかりな女性ヒーローの相方がキザな男のライオン型宇宙人だという事だ。普通ならライオンなんて主人公の相方にするんだろうが、なにやら地球人と宇宙人の惑星を飛び越えたラブロマンスの香りがしてくるのは気のせいだろうか?少女漫画で散々見た性格同士の組み合わせ過ぎて邪推が止まらないぞ。色んな意味で楽しみだ
そして肝心のレッドがどんなモチーフの宇宙人と組み合わさっているのかと気になっていたのだが、それは発表段階では秘密らしい。そりゃ誰もがライオンになるだろうと考えていてのこれだから、本発表ではかなり意表を突いたキャスティングになるだろうと予想される。赤いから"かに座"とかやってきそうなのが子供向け作品の怖い所だ。
「今回は女性キャスト二人なのか。ピンクと黄色、まぁ王道だがまさか黄色の子がおとめ座担当とはな」
一般的に見ても女性的なイメージを持つのは黄色よりもピンク色だろうが、今回は様々な常識を取っ払った作品にしようという制作側からの秘めたメッセージが見て取れる。話題にしようとする努力は認めるが蓋を開けてみるとガッカリ…なんて事にならないか心配だな。しかし自分もこうやってまんまと話題に乗せられてる者の一員な訳で、この作戦は大成功と言っていいだろう。
「それにしても星座をモチーフにしているのになんで6人しかヒーローが居ないんだろうか?」
「敵として出て来るんじゃないの?」
「それはアツすぎる」
なるほど、確かに星座をモチーフにしているのは宇宙人側だし、本作品の敵も外宇宙から侵略して来る宇宙人なのだ。何か繋がりが有ったり地球人側の知らない因縁なんかを作る事だって出来るはずだ…これは俄然楽しみになって来たし、かに座とさそり座とかメチャクチャ面白そうじゃないか!
ちなみに12星座と呼ばれている星々の中に例外として13個目が有る事を知っているだろうか?それがへびつかい座と呼ばれている星座で、ギリシャ神話の中では『医師アスクレピオス』という人名で死者を甦らせる術を得た事が原因で冥界の神ハーデスから嫌われ殺されたそうだ。なぜそれがへびつかい座になるのかと言うと、一匹の蛇が死んだ仲間の蛇に薬草を擦り付け、蘇生している現場を見た事で学びを得たのだという。
戦隊ヒーローには物語り中盤のテコ入れ役として王道の色ではなく、銀や金の衣装に身を包んだ途中参戦のヒーローが出て来る事が定石となっており、恐らくはこのへびつかい座をモチーフとしたヒーローではないかと予想する。もしくはヒーロー達のベースに滞在しているおやっさん的ポジションが、既に引退したへびつかい座のヒーローだったりとかも燃える展開だ。
「いずれにしろ早起きする楽しみが増えたぞ、放送でも触れてみよう」
「前もそう言って二カ月も続かなかったじゃない」
「いくら顔がよくてもとんでもない棒読み演技する俳優見てると耐えられなくてな…」
「どうせ今年もそうなんだから諦めなさいよ」
「変身したら声優さんの方がメイン人格になると信じてる」
どれだけストーリーが凝っていても、迫真の場面で「えぁ~」みたいな悲鳴を上げられたら見てる方も冷めてしまうし、どうして現場の大人たちは言わないのかと怒りすら湧いてきてしまうのだ。そりゃ大手事務所の期待の若手とかには強く言えないのかもしれないが、こういう下積み時代にしっかりやっておかなければ今後苦しむのは彼の様な気がする。そこらへんはどうお考えなのかと監督及び事務所の方々に聞いてみたい物だねまったく。
「大体子供が見る様な夢のある番組に利権絡みの大人の事情を介入させるんじゃないって話だよ、そんで放送終わってから"あのイケメン俳優は元ヒーロー!?"みたいな感じで番組で紹介させるまでがワンセットだろ? もううんざりなんだよその流れは」
「子供が見るような番組に何をキレてるのよ」
そしてこの熱のまま夜の配信に臨んだ如月大我だったが、今作の監督がアニメなどを手掛けては仲間内のキャスティングを優先して原作改変を繰り返す監督だったと知り彼の中で何かが砕けた。
どうしてこんな事がまかり通るのだろうか?大人が身内に向けた寒いギャグを演じ、それを子供に見せつける事の残酷さが理解できないのだろうか?如月大我は激怒した。視聴者もそれに同調し不平不満を上げればキリが無く、この日はとても楽しい放送とは呼べないまでも、彼らの留飲を下げる事に一躍買った事は間違いない。
「兄さん」
「どうしたイズミ…?」
「兄さんがこれだけ苦しんでも何も変わらない。やっぱりヒーローなんて存在しないのよ」
「・・・」
時に世界と妹は残酷だ。如月大我はそう思ったまま深い眠りについたのであった




