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第141話 限界ギリギリサバイバー

 


【前回までのあらすじ】

 如月大我の手によって彼女たちの安息は絶たれた。悪の天帝・如月大我がその手に持つエステ券をかけた熾烈な戦いが今始まろうとしている!負けるなアラフォー!頑張れアラフォー!



「カガリ左手、黄色」


「ふごっ…! ぬおぉぉ…」


「ちょ、ちょっと! なんて所から手伸ばしてるんですかカガリさん!?」


「ま、股下…失礼ぃぃ…」



 まさかここまで醜く凄惨な光景になるとは発案者であるこの如月大我すら窺い知ることは出来なかった…半分ブリッジ状態の晴香の股座に顔を埋める朝陽さんの姿なんか見とう無かった…少しだけ反省しながらも前衛美術のような構図に笑いそうになってしまう。この作品に題名を付けるとすれば【飢え】だろうか。



 しかしたかだかエステの為だけにこれだけ真面目に取り組むという事は、こんな閉じた世界でしか生きていない彼女達にも美意識という物がまだあったのだと感動すら覚えるくらいだ。てっきり女であるという事を諦めた亡者の群れくらいにしか思っていなかったのだが、今日は新たな発見に恵まれ嬉しい限りである。



「大田さん、右足青」


「ほっ! ほぁっ…!! へいやぁ!」


「うんごぁ!!??」


「あ、朝陽ちゃーーん!?」



 股下にはカガリの左手と頭が有る状態で無理矢理足を上げ、そのまま体幹を活かして目的地の青色マスに足を下ろそうとした刹那、三沢晴香の股間にガッツリ顔面を埋め身動きの取れなかった神田朝陽さんの背中に踵落としを決めてしまったようだ。その衝撃で地面に倒れ伏す朝陽さんと道連れの被害に遭う晴香だが、正直勢いで始めてしまったツイスターのルールが分からないのでこういう場合にどう処理すればいいのかが分からない。まぁ適当で良いか



「じゃあ足置けなかった大田さんは失格ね。お邪魔ブロックとしてそこに残ってて」


「お、お邪魔ブロックって何ですか!?」


「マスの上で丸まってて。俺が指示したマスが大田さんの下に有ったら大田さんがその色のマスになるから」


「ツイスターってそういうゲームでしたっけ!?」



「だ、大丈夫かい朝陽ちゃん…?」


「うっ…うぐぅ…」


「とんでもねぇゲームだなコレ…」



 まだこの地獄絵図に満足がいかないから適当にルール追加したけど…「お邪魔ブロックなのにオールマイティ扱いなのかい!」みたいな声が一つも無かった事から相当疲れている様に見える。しめしめ、これならまだまだ楽しませて貰えそうだぞ



「ほら朝陽さん右手赤! 大田さんの下に赤あるよ!」


「晴香左足青! 大田さんの下に青無いけど届けばセーフとする!」


「カガリ右足黄色! 大田さん使えるよ!!」



 なんて事をしているとなんだか大田さん復活の儀式に集った三賢者みたいな構図になってしまった。うずくまる大田さんの背中には『右手の朝陽』『左足の晴香』『右足のカガリ』が集い残るは『左手のイズミ』だけとなったが、彼女は普通にパソコンの前に座っているので一生大田さんが復活する事は無い。残念だがこれまた著名な作家が描いた絵画みたいな構図になって大満足。ダリあたりが描いてなかっただろうか?



 そしてそれから10分の間せめぎ合いが繰り返され…



「優勝は朝陽さーーん!!」


「や…やったぁぁ…」


「つ…つぇぇ…」


「はぁ…はぁ…もう負けでいいや…」



 朝陽さんは初戦に見せた【晴香の股埋め】に始まりどんな体勢になろうとも臆する事無く果敢に向かって行った末の勝利であり、その勇敢な姿には共に挑んでいた戦友の皆も祝福してくれている様だ。特に凄かったのは最終戦に見せた【出産】だった…まさかカガリの股下であんな事が起きるとは、ここまで見ていた甲斐が有ったという物だ。



「時に朝陽さんエステって行った事ありますか?」


「え…? 無いけど…?」


「じゃあちょっと貞操帯だけ買ってから行きましょうか、危ないので」


「エステそんな所じゃねぇよAV脳が」




 晴香はこういうが、今回のツイスター中といい少しだけ朝陽さんは貞操観念がバグっている様に感じる。ほとんど四十八手の形でもしているのか?というくらい際どいポーズの応酬だったし、なにより他人の股間にノータイムで突っ込める精神力は訳が分からなかった。



 そんな人がエステになんて行ったら普通にアンアン喘ぎだしてもおかしくないだろう。施術している人が女性だろうとムラムラして来て一回戦がおっぱじまる可能性だって否定できないのだから…そうなると風営法違反だったりで義理の母である朝陽さんはこの歳で前科者になってしまうだろう。それは困ってしまうし、娘であるイズミの同伴なんて許す訳が無いだろう



「まぁこれこれこういう訳だから心配にもなるだろ?」


「じゃあ私達も一緒に行って安全かどうか見ておきましょうか?」


「それもそうだな。確かに朝陽ちゃんの危うさは私達も知っての事」


「酔いだすとトイレの個室に二人で入ろうとするからな」


「いかれてんのかこの女」



 この面子の中ではそこまで害がなさそうだった朝陽さんの面倒な部分が浮き彫りになるにつれ、他人に対するラインの近さやデリカシーの無さが更に心配になって来るので大田さんが言うように付き添って貰う事にした。これなら旦那の居る隣でシリーズみたいな事が無い限り安心だろうし



「じゃあ三人ともよろしく。くれぐれもアロマと警察には気を付ける様に」


「はーい」



 そういって解散したが片付けをしている最中にふと心に突っ掛かる物を感じた。その正体に気が付かないまま夕食の準備を始め、イズミと団欒の時間を過ごしている内にまるで魚の小骨の様に突き刺さっていた物の正体が分かった



「なんで俺が金払ってエステに送り出したんだろう…? しかもツイスターやる意味なかったし…」


「私もずっと思ってたけど兄さんが気にしてなさそうだったから」


「いやいや! 金返してもらわなきゃ! なんで家貸してババアの乱痴気騒ぎ見せられた挙げ句金まで取られてるんだ!?」


「母さんもヤバいけど兄さんも大概ね」


「一緒にするなよ!!」



 その後返金を申請するもやけにツルツルな四人の写メを送られ腹が立った大我は、今回の件を闇に葬る事にしたのだった。イズミの言うように大我も要所で天然っぷりを見せる事があるが、優秀な人間でもどこか抜けている事がたまらなく可愛く見える人も居るというので、肩を落とさずに生きていて欲しい。



「兄さん風呂に入りましょう」


「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。イズミにはエステ行かせんからな」



 如月イズミはどうやらそのタイプの人間だったらしい。


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