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第139話 福引き

 


 今日もいつものスーパーで買い物をし終えると如月兄妹の目に留まったのはいつもとは違った光景で



「なんだあれ? 商店街福引き?」


「どうせろくでもない景品なんだから気にする事無いわよ」


「まぁまぁ、そう言わずに見るだけ見て帰ろうよ」



 日本人でも上位の富を持つ如月兄妹を満足させるだけの景品が有るとはとても思えなかったが、こういった催し事が大好きな大我の勧めにより商品だけでも見て帰る事に



 そこには特等と呼ばれる最上級の景品から参加賞のポケットティッシュまで軒を連ねていたのだが、大我の目を惹いたのは三等の景品である『皇帝ペンギンさんクッション』である。どう見ても普通のクッションにペンギンが刺繍されただけに見えるのだが、動物大好きの大我から言わせるとそのクオリティには目を見張るものが有るらしい



「ほら見てくれイズミ、この口元の部分なんだけどしっかり可動域が広くとられているんだ。ペンギンの口が自分の顔の面積よりも広く開く事をしっかり再現している細かい仕事で──」


「うるさいわねもう帰るわよ」


「待ってくれって! これだけ! これだけは欲しい!」



 なんてやり取りをしている二人だが、肝心の福引券を一枚も持っていない事に気付いた大我は受付の人から今回の商店街福引の概要を聞いてみる



「そうですね、うちは福引きの本会場ってだけなので別の店舗で買い物をしてきてもらって」


「これって一枚で一回引けるんですか?」


「いえ、お買い上げ500円につき一枚でしてそれら二枚で一回となります」


「千円で一回って事か…これは長くなりそうだぞ」


「正気なの兄さん…?」


「男には何が何でもやり切らねばならない時が有る!」


「今日では無いでしょ」



 それから如月兄妹の商店街めぐりが始まった。すでに今晩の夕食分の買い物は済ませてしまっているので特に欲しい物なんかはある訳も無く、ただただ福引き券だけを目当てに散財する様はまるでパチンコの玉を買い足す人間の動きにも見えたほどだ。



「ほらイズミもどんどん食べていいからな。餃子も食うか?」


「うん。串カツも」



 しかしなんだかんだ二人とも楽しそうだった



 そして…



「手に入れて来たぞ、占めて20枚。値段にして一万円分もの買い物をしてこの地に舞い戻って来たのだ!」


「もう似たようなクッション買いなさいよ」


「それは言いっこ無しだ妹よ」



 買い物を始める前にあのクッションが限定品かどうかを調べてしまえばよかったのだが、それを考え始めたのが既に五千円も使ってしまった後だったので大我は考えない様にしていた。もしもネット販売されている様な物だったら悔しいどころの騒ぎでは無かったから。



 如月大我は福引きに懸ける軍資金よりも自分の心を守ったのだ



「なによりもあのクッションがまだ残っていると良いのだが…」


「誰もやらないわよこんなぼったくり福引き」


「あのお兄さんの前では絶対に言うんじゃないぞ」



 そうして福引き会場まで戻ってきた二人を温かく迎えてくれたのはあの皇帝ペンギンクッションだった。どうやらまだ残っていた…というよりも誰も福引きなんか引いていなかったらしい。そりゃ移動の手間を考えたらそうかもしれないが、子供連れの人が一人も来ないのは商店街的にも誤算だろう。



 それもそのはず、今の子供はこんなちゃちなガラガラ回って玉が出て来る遊具よりも派手な演出でキャラが出て、しかもそのキャラで他人にマウントを取る事が出来るスマホゲーに着手しているのだから。時代に取り残された人間の発想とバカにするがいいさ、しかし俺の心はどうにも惹かれてしまったのだ!



「あ、お疲れ様です。福引き券溜まりましたか?」


「はい、二十枚分お願いします」


「にじゅ…えぇ…」



 明らかにこのお兄さんも引いてしまった反応だが見なかった事にしよう。ガチャにするとたかだか三十連分じゃないか。心の平静を保つにはやはり暴利ガチャに限る



 しかしよく見てみると他の景品もそこそこ豪華じゃないか。主婦層狙い撃ちというか二等にはエステ、特等にはバリ島旅行なんて書かれているが流石にこれは入っていないだろう。大人を舐めてはいけないよ自治会のジジババめ。いずれにしろ俺が狙うのは三等のペンギンのみだ!



 * * * * *



「ひんっ! ひん!」


「二等が当たったんだから良いじゃないの。それにあのクッションも普通に売ってたし」


「言うなイズミ!!!」



 結果は惨敗。大量のポケットティッシュと行きもしないエステの券を握りしめ、ネット通販で例のクッションを2500円で注文した如月大我の傷は思った以上に大きく、その目からは大粒の涙が零れ落ちていた。



「しかしイズミにこんなエステとか言うアダルトな店に行かせる訳にもいかないな」


「AVの見すぎでしょ」


「…ババアでも招集するか」



 自分達には不要と見るやエステと聞けば飛びついてきそうな枯れた肌の女共に声かけ如月家の門戸を叩かせると、大我は三人+大田さんに向かってこう声を掛けた



「今から皆さんには殺し合いをしてもらいます」



 つづく!!



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