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第138話 異常兄妹

 

 こんにちは、如月大我と申します。本日はお日柄もよく晩御飯の買い物に来ているのですがどうやらタイミングが悪く、俺達の並んでいるレジの前で老人がクレームをつらつらと述べているのであります。どうしたものかと周囲を見回してもこの有様なので蜘蛛の子散らした様に別のレジへと逃げているらしく…まぁそのうち治まるだろうと待っててみるか



 ~5分後~



 如月大我です。何やら店長が出て来たのでまだまだ長くなりそうですが、先程から聞いている限り今回の件は一方的に客側が悪い訳でもなく、店頭に並んでいる揚げ物に虫が集っていたという物で。まぁそれは食料品を剥き出しにしているんだから管理くらいはしっかりしなさいよ、と言われても仕方がないので店側の落ち度と言えよう。



 どちらかと言えばこんなめんどくさい客に見つかってしまったのが運の尽きだろうか。こうなってしまう可能性が有るのだから食品の質うんぬんだけでなく、目に見える部分ではしっかりとした衛生管理をしなくてはならないのだろうな。勉強になるよ



 ~更に5分後~



 まだやってるのかこのジジイ。もういい加減いいだろうにいつまで天ぷらの話してるんだよ。ていうか本当はそこまで怒ってないだろ?なんだって天ぷら帝国の帝王みたいな立場でキレ散らかしてるんだこいつは?臣下の舞茸が殺された時のボルテージだろこれ。人間が天ぷらに虫が集ってたってだけで怒れる時間じゃないもの10分て時間は



 これだけ待ってるんだから他のレジに行けばいいのに…と思ってるだろ?ここまで付き合ったのだから今更移動したら負けた気になってしまう。これは俺とクレーム天ぷらジジイとの仁義なき戦いなんだ、負けてたまるか



 ~またまた5分後~



 なんかちょっと店員も俺達の方見てビビり出してるじゃんか。ここまで待つって事は俺達もなんかクレームあるんじゃないのか?って顔してチラチラ見て来るけど、いやクレームが有るとしたらこのジジイにだよ。ていうか今から後頭部ぶん殴って横入りしたいくらいにはイラついてきてるよ…もういい加減別のレジ行こうかな。



 なんてな、ここまで来たら目の前でオロオロしている店員にも思う所は有るのだ。なんだってマニュアルみたいな動きが用意されていないのか?普通ここまで長引いたら裏の個室に連れて行くとか有るだろ?未だにレジの前でダラダラダラダラと堂々巡りの話をして、それに対して相槌代わりの謝罪をしているだけじゃないか。これじゃあ解決する訳も無く、黙って警察呼ぶなり金でも握らせるなりして対応すればいいのにとさっきからずっと思ってる。最初の5分くらいからずっと思ってるよ、お兄さんは。



 普段からクレーム対策をしていない自分達の準備不足に苦しむがいい、俺はここで高見の見物をさせていただくとしよう。ついでに俺からのプレッシャーも喰らえ!



 ~5分後~



 もうそろそろ終わりそうな雰囲気になって来たか、なんか普通に説教と呼べる範囲にまでジジイが落ち着いて来たみたいだ。なんか俺がさっきまで思ってた事も言ってるし確かに店側の不手際に感じる部分もあったからな、お互いに治せる部分は治した方が良いだろう。凡人とはそうしなければ一生成長もしないまま枯れて果てていくのだろうから。哀れだなこいつら



「ほらこのお兄さんだって待ってるしね? しっかりしておけばこんな事になってないんだから!」


「うるせえな殺すぞクソジジイ」


「あっ」



 ついつい心の声が漏れ出てしまった



 ~1時間後~



 やれやれ酷い目に遭った。あれから発狂するジジイ相手に完全な無視を決めながらただ目を見続けるという作業を完遂し家に帰ってくる事が出来た。しかしあのクソちびジジイがよくもこれだけ若くて体格のいい人間相手に威勢よく噛みついて来れたものだ。今までのクレームで様々な企業に謝罪させてきたことが成功体験となって無敵の人になってしまったのだろうか?あそこまで行くと人間というよりは人の皮を被ったバケモノに見えてしまうな



 ていうかよくイズミもずっと待ってたな



 俺の隣でまんじりともせずに俺と同じ体制で何かを食べる訳でも無く、別に車の中で待ってれば良かったもののただただジジイのクレームを待つ俺を待っていた訳だ。何が楽しいんだその時間…いや俺が言えた事でも無いけどさ、なんか面と向かって聞くのも怖いから放送始まってから聞いてみよう。



 それから晩飯を食い終え放送を始めると今回のクレームジジイとの顛末を掻い摘んで話していると、やはり視聴者もクレームジジイに対して嫌悪感を示している様だったが勘の良いガキどもが俺達の異常行動にも気づき始めていた。


【なんで別のレジ行かないの?】


「ここで別のレジ行ったら負けたみたいになるから悔しいじゃん」


【クレーム入れてる時点でそのジジイの負けだろ】


「いや、でも完全に悪という訳でも無かったからどう納めるのかが気になったんだよ」


【ただの野次馬か】


「・・・」



 まぁ確かに野次馬と言われればそれまでだが、こういう何かが起きそうな部分にアンテナを張っておかなければならないのが配信者としての心持というか…実際、普通に別のレジに行ったのであれば今日話す内容も無かった訳で。そこらへんは理解して貰わないと困るという旨も一応話しておく



【それでそれ以降はなんか有ったの?】


「あぁ俺がジジイに殺すぞって言ってから…」


【やばぁ…】



 それからも普通に話し続けようと思ったのだが視聴者はそれどころではなくなっているようで、とにもかくにも今日は大変な一日だったとだけ伝えると隣で黙って聞いていたイズミがやっと重い口を開いた。



「ところでなんで殺さなかったのよあのジジイ」


「いや手出して来たら思いっきり殴ってやろうと思ったんだけど意外と忍耐強くて…」


「ずっと待ってて損したわ」


【こいつら言ってる事やばぁ…】



 どうやらイズミは待っている間にしびれを切らした俺がジジイをぶん殴る事を期待していたらしく、それが叶わなかった事が不満だったらしい。通りで文句一つ言わずに黙って見ていた訳だ、俺の理性があのクレームジジイほどだったらそれも叶っただろうに…



「お前らも俺の目の前でクレーム入れてたら今度は本気で殺しにかかるから覚悟しとけよ」


「じゃあな」



 なんか犯行予告みたいになってしまったが許容の心を持ちながら生きなさいよ、という啓蒙のつもりで言ったので特に深い意味はない。誤解が生まれなければいいのだが



 翌日アフィリエイトブログに都合の良いまとめられ方をしていたのでハッキングして大元の企業宛にウイルスを送っておいた。一身上の都合でサービス終了するらしいが大丈夫だろうか、心配する俺の横でイズミは静かに笑っていた




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