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第137話 寝具選びは慎重に

 

 梅雨が明け本格的な夏の訪れを予感させる陽気に、絶賛配信中の如月大我は模様替えを検討している。自分だけならばどれだけズボラな季節感で過ごそうが問題は無いのだが、今はイズミと寝食を共にしているのだから季節の変わり目には敏感だ。自分が過ごしやすいようにすればイズミも喜ぶ、素晴らしい正のサイクルの中で生きている事を改めて感謝しよう。



「ところでイズミは俺のベッドを仮住まいとして寝ているけどさ、なんか寝辛かったりしてない?」


「別に変わりはないどころか前よりも寝覚めが快適よ」


「そうか…なら良いんだけど」


「どうしたのよ神妙な面持ちで」


「いやこれが面白い話なんだけどな…?」



 普段何気なく床に着いている皆さんにも覚えて帰って欲しい事なんだが、世界中を見ても実はいつも使っている寝具が自分の体に合っていないという例が数多く散見されているらしいのだ。なぜならメーカー側が作っているのは"一般的な体系であれば寝心地の良い物"なのだから当然と言えば当然だが。



 しかし普通の家庭でオーダーメイドの寝具だなんて聞く機会もほとんどないだろう。俺が言いたいのは『だから作らない』のではなく『それでも作らねば』という事だ。人間の一生を80年そこそことした場合にどれだけの時間を睡眠に費やしているのかを考えて欲しいのだ。一日が24時間だとして健康的とされている睡眠時間が6時間前後、もうお分かりだろうか?



 そう、人間は人生の"四分の一"を寝具の上で過ごしている計算になるのだ!



 こんなにも長い間付き合っていかなければならないのに、人生においてのマストアイテムとも呼べる彼らにどうして出費を抑える必要があるのだろうか?一年を通して何度かしか袖を通さない煌びやかな衣服なんかよりもよっぽど価値のある宝物だと俺は思うのだが…そこは個々人の主義や主張も有るだろうから深く言及する事は控えるとしよう。



 これだけ言えば普段から俺がどれだけの熱量で寝具を選んでいるか分かって貰えただろうか?自分の為だけに作られた寝具がイズミにフィットしていた事が嬉しくてついつい話過ぎてしまったな。季節の変わり目にも改めてそのシーズンに合った寝具を調達するのが俺の趣味であり、イズミと寝床を共にするようになってからはもはや義務ですらある。



 という訳で今シーズンも如月大我、衣替えの陣開幕だ



「両面式の掛け布団かぁ、こういうのは結構当たり外れが大きいんだよな…」


「何のために両面なんかにしてるの?」


「これはツルツルした面が熱を逃がす構造で、もう片方の毛布が熱を逃がさない構造で出来てるんだ。嘘みたいな話だけど夏場は冷たい方で寝て冬場は毛布の面で寝る事が出来る優れものなんだよ」


「じゃあ当たり外れなんか無いんじゃないの?」


「そうなんだけどなぁ…」



 先程俺が説明した構造がそのまま適用されていれば問題なく様々なシーズン味方になってくれること請け合いなのだが、世界がそれほど優しい訳も無く『こういう原理ですよ』と言っているだけで商品にはその技術が使われず、ただツルツルな面と毛布の面がある布団が大量に市場に出回っているのが現状だ。これは詐欺ではないのか?と思う方も沢山居るだろうが、昔から布団の販売なんてきな臭い物ばかりで…一時期羽毛布団と聴くだけで"詐欺まがいの訪問販売"を想起する人も少なくなかったくらいだ。



 その商品がいかに劣悪だろうと一度買ってしまえば買い替える気も起きない布団が対象である事や、標的となった高齢者には科学的な知識を理解する事は難しく(なんかいい物らしい…)という事しか分からないから次々と中身スカスカの羽毛布団もどきを買わされる被害者が増え続けたのだった。



 しかしこれを見ている若者の方々も他人事ではないのだ。正直今寝ているベッドよりもいいベッドを想像してみろ、と言われてどんな物を思い浮かべるだろうか?漫画に出て来るようなキングサイズのベッドか、どこまでも沈んでいく雲の様なベッドだろうか?



 どちらも不正解だ。これは実際に体にフィットするマットレスを作ってくれる会社が有るのでそこに問い合わせてみると良いだろう。こういった情報も知らずに深夜通販番組でやっている『自分の体の形に変わってくれるマットレス』とやらの購入を検討している人が若い人の中にもいるはずだ。我々人類は長年付き添う夫婦の様な寝具の事を知らなすぎる…今一度考えてみて欲しい、あなたが寝ているそのベッド、安全ですか?と



 自分の背を預けられるほどの度量がその寝具にはあるのだろうかと。



「大層な事言ってるけどそんな頻繁に変える理由は何なの?」


「三カ月に一回の気分転換にもなるだろ?」


「それこそ個人の裁量次第じゃない」


「いい男ってのは言い訳を用意してやるモノさ」



 これだけ言えば誰かの琴線に触れ一念発起するやもしれぬ、と考えながら積極的に管を巻くのが俺の仕事というか役割でもあるのだ。厄介な人間の様に見えて必要悪、俺が日本の経済を回しているんだぞ!というくらいの豪胆さと小姑が如くあらゆる物に文句を言うねちっこさを併せ持った人間が配信中の俺だ。



「まぁぶっちゃけた話をすると一軒家でもないのに頻繁に模様替えするのは避けた方が良いよな。気分転換にしては疲労だとか断捨離した物の処分とか、マイナスの面が多すぎる」


「本末転倒とはこの事ね」


「俺達は金も時間も有り余ってるからするに越した事は無いってだけだしな」


「しなくていいわよ面倒臭い」



 今の日本では『たまには模様替えでもしようか!』なんてやる気のある若者が一軒家に住んでいる事の方が珍しく、マンションやアパートに住んでいる人が大半だと思われる。いくらエレベータがあろうとも自分の部屋まで運ぶのは一苦労だろう。その労に見合ったほどの達成感が有るかと言うと…いややめておこう…今日の本題は『人生においてどれだけ寝具が重要か?』という話だったのだから。



 長くなるとついつい脱線しがちになってしまうからよくないな。しかし先程の押し売り販売だったり通販の話は信じすぎない様に、本当にいい物かどうかは結局自分の審美眼に掛かっているのだからそれを磨くしかない。最終的には何の得にならなくても損をしないように生きられれば御の字だろうて




「それでどれを買うか決まったの? 早くご飯食べたいんだけど」


「ん? あぁ、布団は去年のが押し入れにしまってるからそれ使うよ」


「は?」


「もったいない精神も大切だよ」



 時にはこうやって梯子を外してしまう事だってあるんだから、人のおすすめ話なんて話半分で聞くのが正解だ。これだけは胸を張って言える数少ない金言かもしれないな




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