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第 131話 昔懐かしい都市伝説系の番組

 

 唐突ではあるのだが今俺はテレビにかじりついてこれから放送される番組を楽しみに待っている。それは様々な心霊現象や超常現象を科学の力で解明しようという番組で、人によっては「なんて無粋な事をするのだ」と思うかもしれないが実はそうでもない。



 インターネットが普及してからというもの技術の進歩により作り物はすぐに見破られ、最近になって鼻を明かしてやろうとする輩が後を絶たないなんて口々に言われているが昔はこんな番組を毎年やっていたのだ。なんならウケたからと半年に一回は擦るほど"科学VS超常現象"という題材は人気のコンテンツだったのだが…



 しかし昨今は番組でやっていた事が一般人でも可能になった事から、自分達の食い扶持の為に嘘を暴こうとしていた筈が逆に商売あがったりになったのはテレビ側だったという訳だ。なのでいつのまにかひっそりと姿を消していたのだが数年に一回はこの様に復活する。そしてそれが今日である



「楽しみだなぁ、昔はこれを見つつ掲示板で実況しながら年を越すのが恒例だったんだよ」


「架空の存在にいちゃもんつけながら存在も不確定なインターネット上の住民たちと馴れ合うなんて…」


「兄さんはなんてかわいそうな幼少期を過ごしていたのかしら」


「それは言いっこなしだぞイズミ」



 どんな怪異よりも背筋が凍る言葉のナイフを受けながらも、その痛みを上回る期待感からなおもテレビに齧り付いている。そしてようやく生放送で行われる番組はスタートしたが、今回は俺が楽しみにしていたゲストの構成とは少し異なっていたのが気になった



「あれ? あの難癖つける科学者の人が居ないな…」


『えぇ、番組の冒頭にはなりますが今回こちらの番組を放送するにあたって制作されたVTRをご覧ください』


「なんか始まったぞなんだこれ」



 そこには約20年前からのダイジェスト映像の中で大声を上げながら超常現象を否定している例の科学者の姿が有った。これだよこれ!なんて思ったのも束の間、俺の頭の中にはある可能性がよぎった。



 まさかもうこの先生は亡くなっているのではないか?



 確かにこの番組くらいでしか見る事は無かったが、あれだけ世間を賑わしたのだからニュースにもならないなんて事想像だにしていなかった。数々のインチキ霊媒師たちを返り討ちにしていたあの弁舌をもう二度と聴けないのか…と思うとどうしようもなく寂しくなってしまう。



『えぇ今見ていただいた映像の中に登場していた○○先生なのですが、本日はスタジオにいらっしゃいません…』


「あぁ…やっぱり…」



『インドネシアに存在しているUMA"オラン・ペンデク"を調査するために現地に行っていただいてます! せんせーい!!』



『猿かなんかと見間違えたんだろどうせー!!』


「いや生きてんのかいっ!!」



 なんで一回ミスリードしたんだよ…完全に視聴者の不安を煽って楽しんでやがる。こんな事ばっかしてるからインターネットにシェアを奪われるんだぞ反省しろバカたれが…とはいえ御年60歳を迎える先生も元気な様で何よりだ。相変わらずUMAにもキレてるみたいだし



 しかしオラン・ペンデクなんて聞いた事も無いな、語感だけで言えばオランウータンみたいなものなんだろうか?と頭の中で姿形を想像しているとテレビの方が詳しい解説をしてくれるようだ。なんでもインドネシアのスマトラ島で1900年代初頭に見つかったとされる未確認生物で、直訳すると『背の低い人』を意味する名称なんだとか



 体長は80㎝~150㎝という名前通りに小柄で、当初はオランウータンと見間違えたのだろうと思われていたのだが、オランウータンの主な移動方法である木の枝を掴んでの移動をせず、人間同様後ろ足で地面を蹴りながら森の中に姿を消した事から別種ではないかと言われて調査されていたらしい。



 また近くのフローレス島では『フローレスマン』と呼ばれる13000年前まで生きていた人型の骨が発見されている事から、このオラン・ペンデクはそこから派生した新種の人属なのではないかという意見が今では支配的だ



「でもそこまで有名なら普通に見つかってそうなものだけど」


「それがインドネシアって大量の島で構成されている一つの国だから、日本と中国くらいの距離が離れてる別の島でも同じインドネシア人として扱われる国なんだよ。」


「だから噂が広がりながらも存在が確認されていないのは辻褄が合うんだ」


「へぇー…」



 共和制国家として知られているインドネシアでは同じ国名を冠しながらも多言語で会話している民族も多数いる事から、ある島では常識的な会話でも少し離れた島まで行くとまったく通じない文化だったりもするらしく、多くの人々がシェアハウスに住んでいる感覚にも似ているかもしれない。人間だけでもそんな特殊な文化形態を構築しているのだから、自然の中にどんな動物が存在していても驚きはしないだろう



 しかしこういった番組では決してその姿を捉えることは出来ずにうやむやになってしまうのが関の山…番組だからと分かってはいるのだが、今回に限っては俺も良く知っている「やらせなんて以ての外だ!」と豪語していた先生までも台本通りに事を進めているのを見て時代の流れを感じてしまった。そりゃ何でもかんでも目くじらを立てても仕方ないのだがそれなら思い出の中でじっとしていてくれた方がマシだとさえ思う。こんな思いをするなら見なければよかったと後悔までし始めている



『おい! あれじゃないか!? 居た居た! 捕まえろ!!』


「え?」


『あみあみ! 網持って来て! おら大人しくしろー!!』


「嘘だろ…?」



 俺含めてスタジオで中継を見ているタレントたちは目の前で起こっている事態に愕然としていると現地のガイドですらもあまりの事態に慌てふためいているのが分かった。そりゃそうだ、100年の間姿を捉える事もままならなかった伝説の生物がなんか日本から来た変なおっさんの手によって捕獲されているのだから。もしかしたら俺達は今とんでもない物を目にしているのかもしれない



『これどう!? ペンデク!? オラン・ペンデク!?』


『うん、うん…オランウータン!? ウソだろぉ!!』


「あぁ!! ビックリしたー!!」


「案外面白いわねこれ」



 どうやら先生が捕まえたのはオランウータンの子供で、まだ木登りも不慣れな事から今回この変人によって捕獲されたらしい。そのまま中継パートは終わり俺達同様に興奮状態のスタジオにカメラは戻された。これだけ見るとオラン・ペンデクと呼ばれている種も今回のようにただの見間違いだったのかもしれないが、ここ最近で一番のドキドキを味わえたのは確かだ



「やっぱ面白いなぁ…もうここで終わってもいいくらいだ…」


「この後は『インターネットでまことしやかに囁かれていた伝説の検証』ですって」


「…まぁ見てみるか」



 結局最後まで見てしまったがどれも質が高く、現在の視聴層というよりもインターネットにどっぷりと浸かった昨今の若者向けの構成だと見て取れた。俺達がテレビ離れをしている最中に制作側もあれやこれやと工夫して何とか視聴者を引き戻そうと努力しているのだと分かった素晴らしい番組だった。



 しかしレギュラー化してしまうとどうせつまらない事になるのでやはり年に数回程度の特番だけしか見なくなるのだろうな…と無常を感じる。今回に限ってはかなりの満足感を得られ、放送終了後にはすぐさま配信を開始して皆と都市伝説について語ったくらいだ



 しかしウキウキで始めたその配信では都市伝説に対してのマジレス派と、根深い陰謀論者で少しだけコメント欄が荒れた事は言うまでもない…



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