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第129話 釣り師・如月イズミ

 


 如月大我が少し目を離した隙にこの難攻不落の城と呼ばれた如月邸に侵入者を許してしまったらしい。本来であれば警察に通報するのが常套手段だろうが、あろうことかその侵入者は現代に似つかわしくない風体をしていたので、現代の法に頼って良いものなのかと躊躇してしまった。



「何やってんだイズミ」


「買ったのよ」



 ていうか妹だった



 どこからどう見ても怪しいお店のお姉さんみたいな丈の短いスカートと、鎖帷子くさりかたびらというよりかは網タイツと呼んだ方が適切な気がする破廉恥な格好をした妹がリビングで俺の反応を伺っていたのだ。しかもあのイズミが自分からこの衣装を買ったという事を知れば「なんか知らんがかわいいのでよし!」とはならないだろう。最近の中でも断トツに奇行だ



「なんでそんな服買おうと思ったの…」


「くのいち好きでしょ」


「まぁ…嫌いな人の方が少ないだろうけど…」



 漢たるもの目の前にくのいちが居ればその足や胸元に視線が釘付けになるのは必然、鼻をくすぐればくしゃみが出る様な生理現象にも似た反射と言っても良いだろう。しかもその対象が世界的にも類を見ない超絶美少女の妹だと言うならば、下品な話ではあるがあと何分の間直立で居られるか分からない。スケベ過ぎんだろこの女…



「俺が好きだからってこういうの自分から買う性分ではないだろ…?」


「そうでもないわよ。もう何着か買ってるし」


「何着か買ってるの!?」



 更に朗報と言っても良いのだろうか?まさか俺の妹がこんなに破廉恥な訳が無いと思っていたが幻想だったのか?俺に見られるためだけにコスプレ衣装を何着も…



 メチャクチャ見たい



 見たいけどがっついてしまったら引かれるかもしれないし、そんな情報知らなかったから結構否定的なスタンスで話を始めてしまったものだからここで「ちょっと他のも見せてよ」なんて言ったら性欲第一で行動しているケダモノ判定されてしまうかもしれない…兄としての威厳もさることながら男性としての魅力すらも損なわれてしまうんじゃないのかと危惧している…どうにかして円滑にコスプレショーに移行出来ないだろうか…?



「見たい?」


「えっ!?」


「他のも見たい?」



 ちょー見てぇ…



 どうして未だにこんな童貞みたいな反応になってしまうんだろうか…?ネットでこんな反応してるやつ見つけたら童貞煽りするのが定番だったが、もしかしたら彼らも別に童貞なのではなく奥手でピュアな生き物だったのかもしれないな…あの時煽ってしまった君たちすまんな…俺はまだこの問いに対する正解を見つけられそうにないや…



「結構攻めたのも買ったんだけど」


「見たい!!」


「そう」



 ついつい俺の口が反応してしまった…反応したというか今のは完全に誘ってただろ。なんだって今日はこんなに積極的に…待てよ?まさかイズミは昼間っから俺の事を誘っているんじゃないのか?



 そうに違いない。コスプレとはコスチュームプレイの略称とされているが、イズミは俺と"コスチュームプレイプレイ"をしたいに違いない!どうしようバニーコスみたいな本当に激しめの着て来たら…動画で見るとちょっとエグく感じてしまうけど、イズミが四つん這いで誘ってきたりしたら…いかん俺の息子が早くも起きてきてしまったか…待ってろもう一人の僕!もう少しで解放してやるからな



「お待たせ」


「お、おう!!」


「ちょっと着るのに手間取ったわ」



 ──つ、釣り…人…?



 待て待て…なんだそれ、それってコスプレというジャンルに含まれているのか?完全に職人の風体になってるけど。水気ゼロの所で防水ジャケット着てるのなんかシュールだな…いやまだ何かのアニメキャラという線も捨てきれないが…にしても釣りアニメのキャラって誰だそれ…?



「その…それはどういうコンセプトで…?」


「バス釣りよ」


「…そう」



 質問の意図が全く伝わってねぇ…「何のコスプレですか?」ではなく「どうしてそのコスプレを?」と聞きたかったのだが…まさかあの究極インドア派のイズミが釣りに行きたいという意思表示なのだろうか?そもそも一度キャンプを試みた時も"外で寝るのが嫌だ"という理由だった事から、外に出ること自体にそこまで拒否反応が無いのかもしれない。であればそろそろ気候が落ち着いて来た夏間近のこの時期に、妹と釣りでもしゃれ込みますか…!



「じゃあ今度一緒に川でも行って釣りするか」


「は? 嫌よめんどくさい。なんだって山道なんか歩かなきゃいけないのよ」


「…そっか」



 訳分かんねぇよコイツ



 釣りに行く訳でも無く、官能的なコスチュームで俺を悩殺するでもなく。何を思ってバス釣り師の服なんかをネットで買ったのか…?完成度を追求するにしても竿の一本でも持っててくれよとも思う。おかげで俺の竿の方はもう店仕舞いだ…あれだけ期待した俺の息子よ、今晩はバニーコス物で慰めてやるからな…それはそれとして本当の意図に関してイズミを問いただしてみよう。そしてあわよくばくのいちに戻って貰おう



「そもそもなんだってそんなニッチなコスプレしようと思ったんだよ」


「よくぞ聞いてくれたわね。こっちに来てみなさい」


「???」



 言われるがままにイズミの近くまで行くと、おもむろにイズミはその防水ジャケットのファスナーに手を掛け目の前で脱いで見せた。すると厚手のオーバーオールの上からでも分かる豊満な胸が逃げ場を求めてこちらに主張してきているのがよく分かった。



 …あれ?エロくね?



 先程まで「どうしてこんな厚着を…」なんて思っていた俺がバカだった。そう、昔の女性にとってステータスと言えば『十二単じゅうにひとえ』と呼ばれる厚着に厚着を重ねた着物だったではないか。古からムッツリ気質な日本人の遺伝子に響くのは服の中を想像させるエロティシズムに他ならない…よく見たら下半身の方も耐水性の高いジーンズが肌に密着して…凄いですねコレ



「どう? ムッツリの兄さんはこっちの方が興奮するでしょ」


「…はい」


「いいわよ脱がして」


「…失礼します」



 まんまとイズミに釣られてしまったが、こんな釣られ方なら本望だと思えた素晴らしい一日だった




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