表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/216

第128話 大田まさみの原点回帰

 


 どうもはじめましての方ははじめまして。如月イズミさんファンクラブ兼男の娘愛好家の大田まさみと申します。まぁ男の娘に限らず最近では様々な"絡み"を楽しませていただいている訳なんですが…ここに来て更に頭を悩ませる事態が…


 こんな時にはあそこに行くしかないでしょう!という事で"我々は"如月家へと向かったのでした



「お邪魔しまーす!」


「もう普通に四人一組で行動してんのな。同一ターンに殺さないと無限に復活するタイプのボスじゃん」


「失敬な! 私は両端から倒さなきゃいけないタイプのボスの方がだね…」


「そうねぇ、じゃあ私が右側で…」


「じゃあアタシは四天王の後に出て来る…」



「せめて何しに来たかを先に教えてくれよ」



 勝手に自分から話題を出したにもかかわらず被害者の様な目線で語られるこっちの身にもなって欲しいですが、今回は寛容な姿勢で見逃してあげる事にしましょう。私にとってはそれよりも大切な話があるのですから!



「あの、実は最近"百合"にもハマってしまったんですが…」


「…は?」



 * * * * *



「なるほどね…BLがてらに漁っていたら本筋に引き戻されたと」


「まぁ元々そっちを主軸にやっていた当方からしますと青天の霹靂というか」


「覚えたての言葉使いたいのは分かるけどもっと簡潔に顛末を教えてよ」


「うぃ」



「あれは私がいつもの様にネットサーフィンをしていた時の事でした──」



 * * * * *



「さてさて、今日はしっとり失恋系でも拝見するとしますか…」


「ただBLって失恋がそんなに多くは無いんですよねぇ…最終的に体を重ねないと恋愛に発展しないのが難点というか…やっぱり男性同士って好意を伝えてからフラれる作品が作り辛い構造なんでしょうか…?」


「その点"百合"ってメジャーというか、同性でも流れの中でキスとか出来ちゃう分だけ有利ですよねぇ…はぁ…今に限っては百合好きの方々が羨ましい…」


「まぁ私には無縁でしょうが試しに触ってみましょうかね──」



 * * * * *



「でそれが想像以上に良かった…と」


「はい、こんな感じで失恋する人も居るのかと考えると胸が苦しくなりまして…ゴリゴリに感情移入しちゃったんですよね…」


「大田さんって完膚なきまでに負けてるくせしてその鈍感さは何なんだろうね」



 あれだけ自分の普通さにコンプレックスを持っていた人とは思えない変わり様だ。ていうかまだイズミに対して恋愛感情を抱いているなら俺は警戒するべきなんじゃないのか?今すぐ家から叩き出して…とはいえ折角出来た新規の百合友達なのだからおすすめの作品を教える事に関してはやぶさかではない。


 仕方ない、俺の蔵書が保管されている場所から何冊か見繕って読ませてやるとしよう。え~っと、主に失恋を扱っている作品を…



「はい大田さん、これが俺のおすすめする"ノンケ落ち四天王"だよ」


「喧嘩売ってるんですか?」


「まだまだ未熟だな。本当に百合を楽しみたいのなら毒まで喰らう事だよ」



 そう、本来であれば俺だってこんな百合の風上にも置けないような本は読みとう無かった…しかしある時を境にこういった「金返せ!」と叫びたくなるような作品すらも愛せるようになったのだ。



 それは俺がマンネリ化した百合ライフを過ごして時の事だった──



 * * * * *



「さぁて…今日はしっとり失恋系でも拝見させていただくとしますか…」


「にしても男の娘も許容できる俺がなんで毎日飽きもせず百合だけを好んで見ているのだろうか? …いや前まではこんな事疑問に思う事すらなかったのに…」


「もしかしたら卒業の予兆…いやいやそんな馬鹿な! 俺はこの生涯を百合と添い遂げると誓って──」



 そうして読んだ作品はありきたりな展開が続いて、ただただ行為に重きを置いた『こういうのが好きなんでしょ?』系の作品だった事が俺の中の何かを大きく揺るがした。



 もしかして飽きているのか?この俺が?



 あれだけ新作を心待ちにした作者さんの同人誌さえも…今では手を付けずに保存用と共に未開封



 俺は…



 俺にとっての百合は──



 * * * * *



「そうして意を決して読んだ未開封の作品が完全変化球のノンケ落ちだったって訳」


「それはただ単に自分が好きな作者だったから許容できただけでは?」


「まぁまぁ最後まで話を聞きなさいよ…正直言って俺はここに並んでる四天王の事は未だに好きじゃないんだ…」


「でも時折脳を破壊した後に摂取する百合の濃い事!!」


「えぇ…」



 大田さんが困惑するのも無理はないが、サウナ後の水風呂の様な感覚とでも言えば分かりやすいか?体を極限まで熱してから冷却するという行為を何度も繰り返し行う様は端から見れば遠回りな自殺に見えるかもしれないが、あれは自分の身を敢えて死地に置く事で今以上に生を実感するという荒療治なのだ。人はそれを"整う"と呼んでいる



「俺の経験上コンテンツに疲れる時期っていうのが必ず訪れるから、大田さんにとっての百合だって本来は"BLの合間に読もうと思っていた"横道な訳でしょ?」


「まぁ確かに…」


「だからそれと同じ様に一旦離れる為の場所を用意しておく事も大切だと思うんだよ」


「だとしたらまたBLに──」


「それで帰ったBLという場所を以前の様に楽しめない体になっていたら…大田さんあんた"終わり"だよ?」


「うっ…!!」



 自分の中では好きなままだと思っていたコンテンツが急に色を失ってしまう感覚は、まるで死に直面した時の様な…身体全身から熱が引き、あたかも今まで自分が恥ずかしい事をしていたかのような錯覚すら覚えるのだ。そして今まで自分を叩いていた者達の中に混ざり「俺は正気に戻ったぞ!」と言わんばかりに叩く側に回る。そういう人間を今まで俺は何人も見て来た



 これは自分が無駄な時間を過ごしたと認めたくない人間の防衛本能なんだろうが、だとしても残酷過ぎないか?今まで自分が愛したコンテンツを、ただ自分が飽きたからと言って叩く側に回るだなんて…あんまりじゃないか?俺は今でも自分がマンネリを感じずに百合を楽しめるのは他でもない、あの時正気に戻る事を引き留めてくれたこのノンケ落ち四天王のおかげだと思っている。もしもあの時読んだジャンルがありきたりなイチャイチャ百合ップル物だったとしたら…



 ──俺も叩く側に回っていたのかもしれないんだから



「だから様々な視点から物事を楽しめる方がお得だよって言いたいんだよ。現に俺達は大金持ちだけど生活水準は大田さんと同じくらいでしょ? それも価値観を狂わせない様にしてる俺達なりの工夫なんだよ」



「なるほど…そう言われるとなんだかしっくり来た気がします…」


「もしも自分が飽きたと感じたらまた如月家の門戸を叩きなさい。彼らが"新たなステージ"で君を待っているよ」


「…はい!」



 やれやれ、また一人迷える子羊を救ってしまったか…敵に塩を送る形になってしまったが、しかしこれも致し方あるまい。彼女もまた同じ女を愛した女なのだから──



 ん?そういやさっきから俺の愛する女とその他大勢が妙に静かだけど…



「ほれほれ、イズミちゃんも食っちまわないと肉が傷んじまうだろ。遠慮しないでどんどん食いな」


「でも危なかったわぁ~こんなにいいお肉腐らせちゃったらそれこそ事だもの…」


「しかし他人の冷蔵庫も漁ってみる物だね~。本意では無いがこれからも度々高級食材を救助するために通う必要がありそうだね…」


「うめっ、肉うめっ」



 台所には真空パックに加え冷凍保存までされて、少なくとも年単位で保存の効く高級肉をドンドコ焼いて食っている畜生共の姿が有った。先程も言ったように俺達は身も心も金持ちになるつもりなど無いので節制を心掛けていたのだ。故に何か特別な事があった時の為に保存していたキロ数万円の肉をあんなにも大量に…



「あっズルいですよ皆さん~! もう、大我さんが長話するから出遅れちゃったじゃないですか~!」


「な、長話…」



 俺があんなにも熱を込めて語った体験談が長話だと…?ていうか当然自分にも食べる権利が有ると思っているのか畜生の輪の中にまた一人加わってあまつさえ酒宴まで繰り広げられようとしている。俺の胸中に去来した感情は怒りでも悲しみでも無かった…



 こんな時に俺が何をするか知っているかい?


 そう…自室に一人で籠り



 ──"整える"のだ



 その日の夜は外から漏れ聞こえる騒音に抗うように"ノンケ落ち四天王"を手にした悲しき男の姿がそこに有ったそうな…



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ