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第120話 ゲームセンター荒らし

 


 今日は珍しく朝陽さんとカガリの二人と如月兄妹のみでの外出になるのだが、この二人からは想像もつかない"ゲームセンター"に何も聞かされずに連れて来られた訳で。朝陽さんとは以前プリクラを撮りに訪れた事は有るものの、カガリは一体如何なる用でこんな陽キャ溢れるゲーセンなんて場所に俺達を招いたのだろうか…?



「大我クン、折り入って頼みがある」


「そういうのって現場に来る前に一言断り入れると思うんだけど…」


「何も聞かずにUFOキャッチャーでグッズを取って欲しいのだ!」


「何も言えない程の深刻さを全く感じない案件だな」



 別にぬいぐるみを取るくらいなら自分達でも出来たろうに、それに何も言えない時っていうのは大概やましい事をしている時な訳で…例に漏れず厳島カガリという女は体の半分以上がやましい事で出来ているのだから、今回も何か裏がありそうだな



「それは別に構わないけど、朝陽さんも居る必要ある?」


「まぁ…私は付き添いというか…」


「ふーん…」



 案の定というか朝陽さんはなにか口ごもって言い辛そうにしているが、この二人が集まる時には大抵"バーチャルアイドル"としての活動に関係しているのは明らかだ。そうでも無ければここに居ない残り二人のお荷物も連れて、ゲーセンでただ奔放に遊び回るだけの無駄な時間を過ごしているに違いない。身内のアイドル活動が辛すぎて最近はアーカイブすら追っていないが、配信中に何か大言壮語でも謳っていたのだろう。カガリの事だからそんな光景が容易に思い浮かぶ



 それに今のUFOキャッチャーは昔の様にぬいぐるみだけでなく、フィギアや企業とのタイアップ商品が陳列されている事も多く、令和になった今でも若者から人気を博しているコンテンツとなっている。きっと若作りしようとして流行りのアニメグッズを集めようとしたのだが、それがゲーセン限定商品だとも知らずに放送内で「知っている」とでも言ってしまったのだろう…自分の親ながらその適当さを見ていると泣けてくる。どうかファンの方々には早くこいつの本性に気付いて欲しい…と祈るばかりだ



「それで…俺は何を取ればいいんだ?」


「おぉやってくれるかね! それじゃあこれなんだけど…」


「ん?」



 俺が連れて来られた先で対面したのは『大関・夢乃幻ぬいぐるみ!』という力士がデフォルメキャラ化したぬいぐるみだった。スケール的に言えば"五分の一"程度のサイズだろうが元のサイズがサイズなので、他のぬいぐるみより随分と大きく感じる…それにしてもなんでこんな物を欲しがっているんだ?もしかしてまた適当に「お相撲さんおっきくて好きー!」とか適当ぶっこいてしまったので、後付けの状況証拠でも捏造するつもりなのか?訳が分からん



「取るのは別に構わないけど、これを欲しがる理由くらい教えてくれよ」


「それは出来ないんだ。何も聞かずに取ってくれ」


「朝陽さん…?」


「その…私も分からなくて…」



 益々どうなっているんだ…?もしかしてこの商品は取得難易度が高すぎて、マニアの間では価格高騰を起こしているとか…?それで金にがめついカガリは転売を目的として俺を共犯に仕立て上げようとしているのかもしれない。イズミにこのぬいぐるみの相場を調べて貰いつつ、何はともあれ"高難易度"と聞くと興味を惹かれてしまうのが配信者の性。目の前にそびえ立つ力士と勝負してみるとしますか…腕が鳴るぜ



 一瞬でGET出来たんだが…?



 どういう事だ、イズミの話によればどこの界隈でも話題にならず相場どころか取り引きしている場所すら見つからなかったと言うが。それに念願のぬいぐるみを手に入れた筈のカガリも特段喜ぶ素振りも見せずに淡々と持って来た袋に巨大なぬいぐるみを詰め込んでいる。訳が分からないがこれで解散となる筈も無く、続いてもUFOキャッチャーの前に連れて来られた。



『銀河パトロール・キングコブラ』とだけ書かれた右手が日本刀で全身タイツ男のぬいぐるみを取って欲しいと依頼されたが、これはもう完全にアウトというか…訴えられるべきだろうと思う程の酷いクオリティ。もしもバーチャル活動の一環でこれを欲しがっているのだとしたら、まずはその権利意識を正す事から活動を始めるべきではないのか?



 そう注意するつもりが、俺の手は既に簒奪者のそれと遜色ないただ奪うだけの機械と化していた…


 そしてそれからも数個ほど意味の分からないグッズを取る事に終始して、俺の役目は終わりを迎えたのだが…



「ありがとう大我クン、色々と助かったよ」


「いい加減に目的だけでも教えてくれ…もやもやしすぎて眠れない」


「それは…今日の放送を見てくれればすべて解決すると思うよ」


「狡い手口で配信に誘導すんなよババァ」



 俺の訴えも虚しくカガリと朝陽さんは大量の荷物を抱えて自宅へと帰っていった。本当にあんな商品を配信で紹介するつもりなのだろうか?不本意ながらもやりがい搾取されたままではどうにも気が収まらないので言われた通りに"カガリン&アサヒのバーチャルLIVE"という怖気の湧きたつチャンネルまで足を運ぶ事にした。



 そしてそこには自分の目を疑う光景が広がっていたのだ…



『えっとぉ~これもお気に入りのぬいぐるみでぇ~』


『カガリン本当に好きだよねぇ変なぬいぐるみ!』


『えぇ~変じゃないよぉ~! かわいくなぁ~い?』



 俺は目を塞ぎながら天を仰いでしまった。自分の年齢や容姿だけでなく、自らの趣味趣向までも偽らねば金を稼げぬ時代なのか?世界観と言ってしまえばそれまでなのだが…共犯者として手を貸してしまった俺は、今日自分の隣から感じた生気の宿らぬ二人の視線が思い起こされてどうにも腑に落ちないのだ



 まるで大学の講義をやり過ごそうとするかのようなあの所在なさげな身の置き方。アレを見てしまうと目の前でサブカル系女子を演じている女性がなんとも醜く、悪しき存在の様に見えてしまうのだ。何がバーチャルアイドルか?これではまるで詐欺師では無いか?なんて義憤に燃えていると隣のイズミがあの時の二人と同じ様な表情で俺の事を見ていたのだ。俺はイズミにも意見を求めようと胸中を打ち明けたのだが、受け取った返事は自分が求めていた物とは随分とかけ離れた内容で…



「そんな事よりも自分の母親がアイドルやってる事を嘆いたらどうなの?」


「…その通りだな」



 俺は何を乗せられて前のめりに放送を見ているのだろうか?『まるで詐欺師では無いか?』じゃないんだよ。こいつら俺の母親なんだからそれ以前の問題で…「おい母さん!バーチャルアイドルとしての自覚は無いのか!?」って息子が画面に向かってる光景こそがシンプルに恥ずかしかったわ…



 その日の味噌汁は少し塩辛く感じたが、それは隣で同じ苦痛を味わっていたイズミも同じなのかと思うとどこか心に余裕が出来た気がした──


 あぁ…春だなぁ…

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