第118話 ありふれた日常の些細な不幸
今日も朝の配信を始めようかと起きた時、敷布団のカバーが少しずれている事に気付いた。普段は意識していなかったがよく見ると足元の方に引っ張られており、足で整えようにもそもそも中のマットレスがその形に折れ曲がってしまっているので、直すには一度カバーを外して整えるしかないだろう。なんと面倒臭い作業なんだ…まぁ今まで気にもしていなかったんだからこのままでも良いか。
なんて思いながらも頭の片隅にはあの折れ曲がったマットレスの姿が…
あのまま放置したら絶対に変な癖がついて、中の綿がそれを補う様にして下部に集まりドンドン薄くなってしまう事は容易に想像できた。面倒だろうが一度掛け布団を除けてマットレスを剥がし、そしてシーツカバーをマットレスから剥がし…これをもう一度逆回しに繰り返す。この作業は人生においてどれほど無駄な時間だろうか?金もあるんだから放置して薄くなろうとも買い替えればいいと思うじゃないか、そうなれば今度は不要になったマットレスの処分方法を考えて実行して…この手間の方が何倍もマシな事は火を見るよりも明らかだ
でも絶対に要らない手間な事に変わりはない…!
朝から不運だったと考えるか、明日気付くかもしれなかった事を今日の内に消化できたと喜ぶべきか。今は後者であったと自分に言い聞かせるしか無いんだが、まぁとにかく配信を始めてしまおう。朝の配信で話すネタが出来たと思えば、あの面倒だった時間もようやっとプラスに転じたと思えるかもしれないな。
なんか今日配信の調子がすこぶる悪いんだけど
別にアーカイブで見る分には問題ないんだけど、リアルタイムで見ているとどうしても途切れ途切れになる音声にストレスを感じてしまう。だからコメントでも指摘されるんだがその度に対応していては配信のテンポが悪くなり、遅れてこの配信を見ているアーカイブ勢は自分達に関係無いトラブルで時間を浪費するという悪循環に見舞われてしまう。控えめに言ってストレスマッハな訳で、配信者にとっては一番起きて欲しくないトラブルだろう
結局見辛いだろうがいつもよりも早めに枠を閉じる事で、リアルタイム勢だけが被害を被るという最小限の被害に留める事は出来たが…先程の布団カバーの話も出来なければ"今の様なトラブルが午後の配信でも起こるかもしれない"という無駄な懸念材料を産むだけの近年稀に見る最悪な朝枠となってしまった。今日の俺が不運なだけなのか?でも布団カバーといい朝枠といい、どちらも必ず近くにイズミが居たわけだから。これが俺の問題だと決まった訳でもないので、細心の注意を払いながら朝食の準備を始めた
イズミの目玉焼きが双子だ
これだけ卵を調理している俺でも年に何度か見れればいい方の双子卵ちゃんが、なんでよりにもよって今日現れるんだ…今日で無ければいつだって良かったのに。こんな所で来られてしまっては今日起きた不幸の全てが俺の責任である、と突きつけられているに等しいじゃないか!
いや待てよ…?この卵が配膳されるまではまだ誰の卵か決まったわけではない。こっそり自分の物にしてしまえばこの負の連鎖を断ち切る事が出来るかもしれないな…
「兄さんが黄身硬めなんて珍しいわね」
「まぁ…たまにはな…」
そんな事を考えているとついつい焼きすぎてしまった…日本人に産まれた事で許される卵の生食という贅沢を捨てて、どうしてこんなボソボソ卵をベーコンと一緒に食わねばならないのだ…これも俺の不運をイズミに擦り付けようとした罰だろうか?まぁ正直これに関しては俺が悪かったので甘んじて受けよう。しかしいい加減にしてくれないと本当に事故に繋がり兼ねないので、そろそろいつもの日常に帰って来て欲しい所なんだが…
スマホの充電器が中で断線してる…
この問題で最も忌むべき所は"充電されないのはスマホ側の問題なのか、充電器側の問題なのか"これが分かり辛い所にあると思う。だから俺とイズミはわざわざ同じ型の携帯を使い、今だってイズミの充電器では正常に充電された事で断線が発覚した訳だ。もしも俺が機械関係に疎かったらまんまとスマホの買い替えを検討していた所だ…これが意図して起こされた問題だとは微塵も思っていないが、それにしても気分の悪い話だ。
ええい、イヤホンのコードが絡まっている!!
もうこれ人間がやったとしか思えない位にほどけ辛く、しかもこのまま使い続けるには絶妙に扱いづらい長さにコードが調節されている。小さく纏まってしまった分だけ顎元で存在感出しやがって…なに?Bluetoothのイヤホンを使えだって?配信をやってると様々な電波が飛び交って、イヤホンをこのスマホに繋ごうとしても別の機材のBluetoothを拾ってしまいその都度切り替えたりするのが面倒なんだ…もう脳に直接音楽が流れてくれればいいのに!!
なんで今日の俺はこんなにも災難に見舞われるのだろうか?ラノベ主人公特有の不幸体質?それってもっと可愛い女の子に付きまとわれたりとか、不思議な能力に目覚めた際のデメリットの事とか言うんじゃないのか?なんだ今の俺の状況は、完全にあるある芸人のネタ帳じゃないか。もしくはライフハック系のブログで紹介されるお手本の様な状況だよ!「今回の記事はいかがでしたか?」って聞かれる人の立場だよ!!
「かわいそうな兄さん」
「…まぁイズミが居たらなんでもプラスか」
そう、かく言う俺もイズミという何物にも代えがたいアドバンテージを所持しているので、命さえあればどんな苦境に立っていようともお釣りが来るレベルで人生は充実しているのだ。今日の災難の数々はもしかしたら、順風満帆な俺の人生に嫉妬した神からの試練だったのかもしれないな…残念だが今日の俺も健康かつ幸せです。
「あぁぁ!! 今度はマウスのホイールが壊れた!!」
それにしたってやりすぎではないだろうか…?




