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第112話 ショッピングモールを駆ける

 


 今週はいつも行きつけのスーパーが改装工事中なので、しばらくは少し離れた所にあるショッピングモールに通う事になりそうだ。環境が変わる事で俺が危惧しているのは一度の滞在時間が圧倒的に増えてしまう事だろう。調味料の区画を見るだけでもメーカーが違う山椒とか見つけると気になってしまったり、魚肉ソーセージなんか普段食べないのに見た事が無いパッケージを見つけると興味本位で買ってみたりもするから時間的にもお財布的にも優しくはない習慣だ。



 そんな生活に警笛を鳴らしたのがまさかのイズミだった。どうせ毎日余計な物を買ってしまうのだからいっその事午前中から入り浸って満足するまで店の中を散策してみたらどうなの?そう言ってくれたイズミの言葉に甘える形になるが、確かに気になる物を全て洗いざらい堪能してしまえばもうここは馴染みの店という事になるのだから、無駄使いも減り時間の節約にもなるだろう。全部で四階建てのショッピングモールを今日で制覇する事が出来るだろうか?如月兄妹の挑戦が始まった



 まずは一階の食品売り場だが、もちろん帰りに買い物もするのでここは最後に見て回るとしよう。まずは二階のおもちゃ売り場から視察する事にしたが、早速俺の目に留まったのは懐かしのガシャポンだった。どこかで見た事の有るおもちゃが二百円というそこそこの値段でランダムに出て来る機械、ソシャゲが流行っている昨今なら大して敬遠する物では無いが、昔はよくこれを回している子供を見ては「あぁ…この子も騙されているんだな…」となんだか悲しい目線を送ってしまっていた。今はそれよりも高い値段でゴミデータを受け取っている人を多数見ているので、この機械は健全だとさえ思ってしまう。



 データといえばこの階層の端の方に存在する本屋やCDショップも、今は書籍や音源のデータ化に伴い不況の煽りを受けている業界だと言えるが…これに関しては電子書籍を利用している俺もなんとも言えない所だ。古くから個人商店が栄えていた田舎にコンビニが出来てしまえば、利便性や品揃えに優れたコンビニに行く事は想像出来るだろう。懇意にしてもらえる客層は確かに存在しているが、町に本屋が少なくなっているのもまた事実。近代化すると何かが犠牲になってしまうのは世の常なのでこればっかりは仕方ないか…



 そう考えるとレコードショップなんかはよく持っている方だと思う。あそこまで行くとほとんど化石扱いというか、コレクターが手を出すから価格も高騰して売り上げが保証されている要因なのだろうか?海外からも買い付けにくる人が居るとも聞くし、それに比べれば書籍は存在した期間が長すぎたのも考えれば十分な活躍だったとも言えよう。古くは書物と呼ばれている本は貴重過ぎて博物館に引き取られたりもしているので、生まれてから百年やそこらのレコードと比べるのもおかしな話かもしれないな…盛者必衰を実感してしまうが、時代の流れとは残酷なり



 そして俺にとっての本命、お目当てのおもちゃの山!流石にこればかりは廃れる事の無いように…と思ってしまうが皆さんはご存じだろうか?最近の子供たちはお年玉を貰ったらその場でスマホゲームに課金をするらしい。クリスマスにはウェブマネーを欲し誕生日に最新のスマホを強請るのだとか。俺は言われた事なんか無いが今の老人世代からはテレビゲームに熱中する子供がこんな風に見えていたのだろうか?そりゃゲーム止めなさいとか言うわな…という感想だが、これは自分の思考が凝り固まりすぎか?課金の基準を大人で想像しているから危険だと思ってしまうのかもしれないが複雑な気分なのは否めない…



 そう考えると最近は逆に大人の方がこういうプラモとかにハマる人が多くなっていないだろうか?ネット疲れという言葉も出て来た昨今、流行はめぐる物だと言われているしそろそろベーゴマとかが流行り出してもおかしくないと思っている。流石に子供のセンスが急に昭和まで遡る事なんて無いだろうけど、アニメか漫画で一発当ててしまえばありえない話ではない。最近はネットで流行っているというだけで一つの勲章というか、成功が約束されていると言っても過言ではないので流行を敏感に察知する能力が売れる作者の能力と直結しているのかもしれないな。



 それに昔から親しまれている玩具は形もそのままに、パッケージに載っているキャラクターこそ昔とは違うものだが、それでも未だにコンテンツとして続いているのを見ると感動すら覚える。それと同様に女児向けのおもちゃも"おままごと"という形態こそ一律ながら、自分が小さい頃に見た覚えの有るキャラクターは一人として居なかった。まぁ魔法少女というカテゴリーや小さな動物たちとのスローライフ、という人気を博しているジャンルは変わりない様子でホッとしたが。



 三階は洋服や靴、眼鏡屋なんかが展開されていた。なんで靴屋はどこでもこの匂いがするんだろう?ゴムの匂いというかどこか癖になって意味も無いのにそこら辺をウロウロしてしまう。イズミは靴とか服に興味を示さないので今でも数千円のスニーカーを履いて歩いているのだが、ヒールとかパンプスに興味ないのか聞いてみると「家の中ででも履くつもり?」とインドアな俺達らしいカウンターを喰らってしまった。そうだよな、今日みたいな日が特別なだけで年中引き籠っている俺達には高価な靴や煌びやかな服なんて無用の長物なのだ。



 では俺達の商売道具の置かれている四階ゲーム売り場に参りましょうか。これらの買い物も普段はネットで済ませているが、この店の売り上げランキングも見られるからゲームの面白さうんぬんよりも興味がそそられる。ネットで人気な物がTOP10を総なめしているのはまぁ予想通りだが、普段は手を出す事の少ないシミュレーションゲームなんかを見つけるとついついパッケージの裏を見てしまう。実際にこの場で買う訳では無いのだが、今後の参考には大いに役立ってくれるので有難い限りだ



 ショッピングモールにも関わらず、予想外に周辺機器も大量に取り揃えられていて驚いてしまった。田舎の大手ゲーム販売店だと言われれば騙される人も多いんじゃないかと思う程の品揃えで、需要と供給に寄り添っているいい店舗じゃないかと感心する。階層巡りの締めくくりとして皆さんもご存じだろうガムの自動販売機によって帰る事に。百円入れると謎のレーンを走って二個出て来る丸いガムを俺は一つ頬張るともう一つをイズミに渡す…がイズミは受け取らなかった。ガムは嫌いだっただろうか?確かに今までも積極的に食べている様子は見受けられなかったが…俺はもう一つも口に放り込むと一階まで戻った



 さぁ、満足した所でこの階層に潜んでいる掘り出し物もつまびらかにして行こうではないか!と意気込んでいる俺の横をスっとイズミが通り過ぎた。その姿を視線で追うと迷う事無くソーセージの店頭販売に目掛けて歩いて行き、試食を食べると二袋持って帰って来た。この時点で付き合いの長い俺はピンと来たが、恐らくイズミは今日一日でこの店の試食を制覇する気なのだろう。だから先程もガムを受け取らず、今日は俺に店内を探索してみれば?とか言い出したに違いない。



 まぁ確かにこの雰囲気というか空気感に触れてしまうと試食品に手を出したくなる気持ちはわかる。俺もお惣菜コーナーとか通り過ぎる時はついつい揚げ物に手を出してしまいたくなるもの。だからと言ってバカ正直におすすめされた商品を持ってくる事もあるまいに…奥底に眠っていたイズミの人の良さが出ているのか、その商品がシンプルに美味しかっただけなのかは家に帰ってから確かめてみよう。なんなら後半からは俺も一緒に楽しんでしまっていたし…



 ちょっとお高めの調味料を見て回ったり、どう考えても美味しくなさそうな安物のハムもどきみたいな物を買ってみたり、俺達はこの日手にした商品以上にこの店を楽しんだことは言うまでもない。そして醍醐味といえば店を出た後に駐車場に止まっている移動販売車の存在だ。許可を貰っているのかそうでないのかは分からないが、正体不明の商人が狭い車内でテキパキと仕込みをしている姿が妙にかっこよく映ってしまう。



 主にたこ焼きだとかタコスなんかを売っている印象があるのだが、今日は個人的に当たりの部類に入るクレープ屋さんだ。デザート系列でもたい焼きとおやきだとちょっとガッカリというか…そういうのは商店街の専門店で食べたい気持ちが俺の中には有るのだ。その点クレープはこういう時にしか食べる機会が無いので青天の霹靂というか、その姿を視認した時点で口の中がクレープの受け入れ態勢を整えるといった感じで、もちろんテンプレのチョコバナナクレープを買って食べながら帰ろう



 生クリームとチョコソースにバナナが乗っているだけなのにどうしてこんなに美味しいんだろうか?相性抜群とはまさにこの事。「俺とイズミもこれくらい相性がいいのかもしれないな」と言うと、あの侮蔑に満ちた表情で見返してくるかと思いきや、予想外にイズミはかなり動揺していた。



「そういう事は外で言うものじゃないわ…///」


「……あっ! い、いや別にそういう訳じゃ!!///」



 一つの言葉に様々な意味を持つ、日本語とは難しい言語だと痛感した。

 如月兄妹は今日も平和である



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