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第110話 お姉さんに甘えたい春先の大我

 


「巨乳で垂れ目の低身長お姉さんに甘えたい!!」


「きんもっ…」



 桜舞い散る季節に如月大我のお姉さん欲が爆発した。妹から罵倒されるこんな昼下がりも悪くはないなと開き直ったが、だからと言って物事が何か好転するかと言われればそんな訳も無く。どうしてもこのお姉さん欲を発散させたい…以前の様にイズミにお姉さんになって貰おうか?しかし俺の欲求を満たしてくれそうなお姉さんとイズミの容姿は乖離しすぎている。これではメンチカツだと思って食べた物がコロッケだった時の様なガッカリ感を味わってしまうだろう



 普段であれば既存のおねショタ系漫画を読んでお茶を濁す所だが、今はそれをしてしまうと余計にお姉さんが恋しくなってしまうだろうから絶賛解決策を募集中です。まだ配信をするにも早すぎる時間だしイズミにだる絡みして時間でも潰そうか?いやもし怒られた時に再び立ち上がる気力も今のままでは足りない。誰か俺にお姉さんパワーを、この中にお姉さんはいらっしゃいませんか~?



 俺とイズミしかいないこの部屋の中に虚しく反響する俺の叫び声を聞き、眉を潜めたイズミはこちらを睨むと舌打ちをしてきた。まぁどう考えてもこれは俺が悪い、甘んじてその舌打ちは受け入れよう。しかし今の叫びによって俺の脳内には解決策が浮かび上がった、お姉さんが居ないなら作ってしまえば良いのだ。いや別に錬金術で錬成を試みるとかそんな物騒な話ではなく、脳内で理想のお姉さんを作り上げてしまえば誰に文句を言われる事無く甘やかして貰える。人はそれを妄想と呼ぶ



 しかしそうなって来るとお姉さんだけでは足りないな…こうなったら犯罪に片足を突っ込んででもショタも作り出すべきだろう。俺の大脳新皮質をフル回転させ理想の片目隠れ銀髪少年を脳内で作り上げ、先程作り上げたお姉さんの家に居候させる事に成功した。別に近親者でも親戚でもないのでこのお姉さんはゴリゴリの犯罪者になってしまうのだが、これは妄想の中の話なので全部セーフ。フィクションである


 よーし楽しくなってきた。このままの勢いで一日生活させてみよう



 まず朝ご飯の種類がパンか米かで起きるイベントの種類は異なり、パンの場合は口元にソースが付くので拭き取ってくれるお姉さんにドキドキショタハート。米の場合は焼き魚が出て来てお姉さんが骨を取ってくれる、そして『全部取れましたよー』からの『あ~ん♡』これにはショタも『じ、自分で食べられますから!///』と照れてしまって…なんて質感のある生活なんだ。もしかしたら俺の脳内に実際住んでいるのかもしれない、住民票とか戸籍が存在する可能性が生まれてしまった。



 学校はどうしよう…まぁ夏休みって事にしとけば問題ないか、となるとお姉さんの職業は?大学生に決まってるっしょ!バイトもしてないのにお金は無限にある理想のお姉さんに決まってるっしょ!?ご期待通り今回はクーラーも故障させておきました。これが見たかってんやろ!濡れ透けTシャツに釘付けショタボーイのムラムラ思春期青春白書や!!ま、ま、ま、参ったぁーーー!!もう降参!白旗でーす!!如月大我死亡確認!!



 汗かいちゃったからシャワーを浴びるのか?それとも浴槽温水プールの刑ですか!?『一緒に入ろうよ~』系のお姉さんなのか『○○くんも入る?』系のお姉さんかによってまた少し変わってきますよこれは…う~ん…審議の結果"田舎の祖父が与えた一軒家に住んでいるので縁側で涼む"に決定!!流石に少年と一緒に肌を重ねようとするお姉さんは俺的にはR指定なので、爽やかな田舎の日常系作品に路線変更もやむなしですね。二十代も後半に差し掛かるとこういうのが良いんだよ、こういうのが



 となると風鈴の音を聞きながらあの細長い色付きアイスを半分に割ってチューチュー吸うのは確定として、スイカは…二人では多すぎるし田舎の夏を象徴する物ってどんなのだ?虫の鳴き声、氷に入った生野菜…ってそれは流石にフィクションが過ぎるか。何年前のアニメだよって言われてしまいかねないけど採用!!もう何年だろうが関係ないよ!都会から来た少年が『普通の野菜にしか見えないですよ…』とか言ってトマトを一齧りすると目を見開いて『美味しい…』っていう奴やっちゃいましょう監督!!ベタでは無く王道って言うんですよこういうのは。



 夕方には今日も一日何もしなかった事を後悔する少年と夕飯の支度をするお姉さん。何を作ってるのかなぁ…流石に【田舎の夏、午後五時】ってキーワードが並べば台所から醤油の匂いは漂わせたいでしょ…となると肉じゃが、キュウリの浅漬けか?梅肉和えなんかも汗をかいた後だから健康面を考えるとベストだけど…今時の少年に梅の刺々しい酸味は少しきついか。なんで俺がお姉さんの立場になって献立考えてるんだろう、これじゃあ変態ショタコンおじさんの銀髪少年監禁生活みたいになっちゃうだろ。委ねろ、すべてを妄想に任せるのだ俺…



 結果選ばれたのはハンバーグでした。一緒に捏ねたり焼いたりしたハンバーグは少し不格好だけど苦労した分だけ愛着が沸いて、いつもとは違うゴロゴロの玉ねぎとか人参が新鮮さを演出して特別美味しく感じる事と相成りました。完全決着。縁側の扉を閉めずに蚊帳を張り蚊取り線香も焚いて、夜風が部屋を吹き抜けるこの感覚が少年の夏を彩るんでしょうね。日本の夏、お姉さんとのひと夏の思い出。なんちゃらシネマが来年公開してくれないかなこの映画…ホタルなんかそこらへん飛び回っとるわ



「兄さん、ご飯」


「え、あぁもうそんな時間か…氷でキンキンに冷えた生野菜で良い?」


「殺すぞキサマ」


「ひぇぇ…」



 まだ妄想ベースだった俺の脳内を一気に現実に引き戻したイズミの恫喝を聞き、やはりこの日本にはそんな幻想存在しないのだと悲しくなった。そもそもそんな田舎に大学なんてない。大学生はガキなんか相手にしてる時間あったらセックスしてる。そんな都合の良い田舎も少年もお姉さんもこの世には存在しないんだ…返せよ、俺の妄想の世界を返してくれよ!!



 泣きながらイズミに訴えると鋭い張り手を頬にお見舞いされて完全にこちらの世界に戻ってくる事が出来た。そうだ俺は放送をしなければ…この世界には例のお姉さんもショタも存在しないが、ネットの中にはそれらに縋らなければ生きて行けない惨めな人間は山程いるので、そいつらを救う事が俺の使命であると思い出した。



 ついつい妄想に影響されてハンバーグを作ってしまったがイズミには好評で良かった。夜の配信では先程の妄想を視聴者と共有したが、やはり彼らも一周回って現実を見すぎているようで【そんな田舎で縁側開けっ放しにしてたら襲われるだろ】とか【大学生の事を萌え属性だと思っている事がまず間違い】だとか散々な言われ様だ。でも好きだろ?と聞くと【それはそう】の大合唱。



 しかし脱サラしてコンビニも無いド田舎で自給自足生活をしているという視聴者から聞くと…っていうかどんな層が俺の配信見てるんだよ。いつもありがとうな本当に。こんなシチュエーションの田舎に今も一人で住んで居るんだという。夜は虫の鳴き声と用水路を流れる水の音しか聞こえないらしいが、ついでに何とも夢の無い話も聞かされた。



 田舎には集落特有の仲間意識が存在し、引っ越したての頃はどこに行っても注目の的となってしまったらしい。都会で働いている時の様に気にしない素振りで生活していると、そんな態度がこちらでは無視として扱われるらしく、人間関係の構築が何よりも苦労したのだという。しかし一度コミュニティ内に入ってしまえばほぼ家族ぐるみの付き合いに発展して、生活のしやすさは段違いに向上したらしい。



 なんだかその話を聞くと海外のコミュニケーションに近い物を感じた。余所者を排斥する意識が高く身内を厚遇する意識も同様に、見慣れない人というだけでヒットマークを付ける感覚なんかまさにそれだ。俺の場合は仲良くしようなんて気はさらさらなかったが、もしも歩み寄る姿勢を見せれば彼の様にファミリー扱いされていただろうか?であれば俺は田舎での生活に向かないんだろうな…悲しいが大人のお姉さんとのひと夏の思い出はお預けか…線香花火が落ちた時の様な寂しさが俺の胸に去来した



 イズミと風呂に入っている時も不意にため息を漏らしてしまったが、そんな俺を見てイズミはとても悲しそうな顔をしていた。もしかして架空の女性相手に嫉妬させてしまっていたのだろうか?これは失礼な事をしてしまったかと思い謝ろうとしたが、なんとイズミの方から先に謝罪を受けてしまい…どういう事だ?まさか俺がイズミにため息をしたと勘違いしているんじゃないのか?なんとしても誤解を解かなければ…と思った矢先イズミからなんとも無慈悲な言葉を投げられた。



「ごめんなさい兄さん…最初に聞いた時から言おう言おうと思っていたんだけど…」


「兄さんの理想のお姉さんがどうしても"母さん"にしか思えなくて…」


「ん?」



 巨乳で垂れ目の低身長お姉さん…額面通りに受け取れば確かに朝陽さんの特徴と合致する。でもあの人はもうお姉さんって年齢でも無いし、たとえ俺が8歳と仮定しても既に24以上…おや?これは案外…いやいや何を考えているんだ俺は!?流石に義理の母親にお姉さん味を感じる訳には…義理の母親ッ!?なんだこの属性テンコ盛りな女は!?危ない危ない…もしも朝陽さんという事を伏せられて属性だけ抜き出されたら好きになってしまう所だった。親子そろって俺を籠絡しようとするんじゃないよ



 今後は積極的にお姉ちゃん役はイズミに頼み込もう。そうでもなければその内朝陽さんにお願いする事になってしまうかもしれない。そんな悪夢みたいな事態は回避しなければならない…胸やけにも似た吐き気と戦いながらこの日はなんとか眠りにつく事は出来た…



 なお午前五時、朝陽さんに膝枕をされながら頭を撫でられる夢を見て飛び起きた模様。




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