第九十四話 SNSのあれこれ雑談
SNSで流れてくる情報の多さに辟易している層が最近では多くなっていると聞く。誰が炎上しているだとか、どこそこの企業がこんな声明を発表しているだとか。これが楽しめている層には毎日が楽園の様だと感じられるのだろうか?そう、俺の様にネットの炎上を楽しむ層からすれば毎日が楽園なのだ
「皆さ、今トレンドに上がってる漫画家の炎上知ってる? なんか政治的思想をコマの一部に取り入れてたとか何とかで…」
こんな風に身振り手振りで伝えても俺には何一つメリットなんか無いのに触れずにはいられない。これが古からのネット民の性なんだろう、もしくは俺の性格がとんでもなく悪いかのどちらか。少なくともトレンドに載っているという事は国民の中で俺だけが話題にしている訳ではなさそうだが…俺の気になる所は作者がどの政党を心酔しているかなんて事では無くて、この"トレンド"というシステムはどういった統計の取り方をしているのか?という一点に尽きる
一つの話題の中に「マンガのタイトル」『作者の名前』【それに付随するニュースサイトの見出し】という三つのワードがトレンドに入っていて、これらの数字を合計すれば数万にも及ぶ一般人からの反応が発信されているのだが、掲示板の様に一つのスレッドを消費している訳でも無いので漫画に対して興味の無い人でも今回の件を知れてしまう。これが良い事なのか悪い事なのか、興味の無い人でも炎上に加担できてしまうというのが昨今のネットで問題視されている部分でもあるのは事実だ。
これは騒動を巻き起こしている本人も悪いのだが、見ている側が気になる様なワードの切り抜き方も識者以外が炎上に加担するシステムを作り上げているともいえる。過激なワードがトレンド入りしていれば、頭の中で勝手にマイナスな意識を作り上げ擁護をするか叩きに回るかという二極化した脳内でニュースに触れてしまう。するとそれに触れた当人は今まで知らなかったにも関わらず「なんてひどい事をする人なんだ! こんな人の描いた漫画なんか読みたくない!」と声を上げるに至る。この人は悪を断ずる正義の一員として声を上げたのだろう。
しかし悪だの正義だのの他にもこの世には種族が存在している訳で、例えば過激なワード【地獄に堕ちろ】こんなワードがトレンドに入っていると一体どれだけの凶悪犯罪者がこの世に現れたのか?とニュースを見てみたいと思うだろう、しかし蓋を開けてみればこれはとあるアニメのキャラクターが発するキメ台詞。それを知った自称正義の軍団は『地獄に堕ちろがトレンド入り、もう日本は終わりだよ』もしくは『日本は平和だな…』という論調で自分の意見を発信する。
勘違いだったなら黙っていればいいのに、もう議論に参加する気が満々だったから取り敢えず何かを発信してネットサーフィンを再開するのだ。これを人はSNS中毒と呼び、見出し事故もこれだけにとどまらず異なるアニメの同名キャラがトレンド入りして「これ○○の××かと思ったら全然違う話題でショック!」とかいうデリカシー皆無の自己主張をしてその作品の評価を落としていく自称ファンなんて者も定番化されつつある。
ネットの中には自分の存在を主張し、自分以外の誰かと繋がる方法を常に探している寂しい人が多いのだ。昔の井戸端会議が主婦の代名詞だった時代はどこへやら、今では人類総会議時代な訳だから今回の炎上の様に"誰に見られても問題の無い内容"を意識して発信しなければならないのだ
「トレンドと言えばさ、最近声優の名前が挙がったら結婚を覚悟する人とか多いでしょ? そんな風にこれがトレンド入ってたら何かを連想するとかある?」
少し前は隆盛を極めていた声優の話題も、最近では俺の様な配信者がトレンドを席巻する時代になり重大なニュース以外ではすっかりなりを潜めてしまっている。流行り廃りの激しいネットの前で一生推す!なんて言葉は夢まぼろしの如く、彼らの一生は凄い速さで過ぎ去っては転生を経て別のコンテンツにお熱となっているのだ。
だからこそ今でも残っている少数精鋭のファン達はトレンド入りする度に怯え、CD発売か…あの新アニメの声優か…と大きく息を吐いているらしい。今や芸能事務所の声明やブログの宣伝すらSNS経由という事も珍しくなく、これ以外にもSNSの発展によって日常生活の大半は様々な情報に釘付けとなっている。
【移籍の時期に野球選手の名前見るとワクワクする】
「お~なるほどね、俺はあんまりスポーツとか見ないから分からんけど確かにニュースは流れて来るわ。メジャーとか行くと大事件なんだ?」
スポーツの話題は自分でも意識しない内に脳内へインプットされている事から、影響力という一点を見ればSNSの生み出した数少ない成功例と言えるだろうか?海外のスポーツですら一つのフォーマットで網羅できるのだから良い事尽くめの様に感じるが…問題はそのファン達の民度というか、喧嘩は絶えず行われている様に感じる。
どこのファンは民度が~とか、あそこの球団はこのスタジアムでは~とか。根も葉もない噂話を投げつけ合って互いのファン層や球団をけなし合う地獄絵図なんて状態を見かけると、昔の掲示板で盛んに行われていた対立煽りを思い出し胸がキュンとなってしまう。自分に関係の無い喧嘩ほど高鳴る物はこの世にないのだ
「対立煽りなんか別にスポーツに限った話じゃなくてさ、ソシャゲなんかも激しいよな。売り上げだとかストアランキングとかでさ」
課金額でのマウントを同ゲーム内でしてしまう人間も居れば、他ゲーのストアランキングを持ち出しあたかも自分の功績かのように振る舞う人間もいる。そして外野や子供がそのファンを全体の総意かの様に語れば対立煽りの完成、これで○○キッズという蔑称までも定着して困るのは制作会社や作者だけという地獄に様変わりする。最近のSNSはこればかりの印象だ
「ちなみにイズミ、今のトレンドって何が一位?」
「拡散すれば無料でクーポン貰えるチャンス」
「なんだそのクソ面白そうなトレンドは。拡散しといてくれ」
こういう超絶面白い情報がトレンド一位でなくてはならないと昔から思っていたが、それはそれとして企業も良い宣伝になる媒体が見つかってよかったとは心の底から思うな。昔は匿名掲示板を使ったステルスマーケティングで問題になる企業が多数発覚し、当時のネット民は自分達の住処がエサにされていた事に対して憤慨していたのも懐かしい
その頃から比べればどんな企業でも自分達のセールスポイントを自由に発信できる訳で、危ない橋をあえて渡る必要なんか無くなったんだから健全化も進んで消費者もお得な情報を知れる。それとは対照的に経営者の手腕一つで炎上するニュースも散見する事からこちらも一長一短、今やネットに明るい事も経営術の一つと言えるらしい。
「皆も無意識に自分の好きな物を持ち上げすぎて叩かれないように気を付けてね。じゃあまた料理配信で会いましょう」
朝の配信を終えてから今日の昼食は…と無意識にSNSで視聴者が貼った料理を調べている事に気付いて自分もSNS中毒の症状が出ている事に驚いた。無意識化で他人からの情報を頼りにしている現状を是としない為に、俺はネットからの自立を決意したのだ!
「兄さん、この角煮が美味しそうだから今日はこれにして」
「…まぁイズミが言うなら」
そう、イズミが言うなら中毒だろうが何だろうがOKである。今日はこれを昼食にさせて貰おうと投稿者の発言にいいね!を贈ると後々歓喜の発信が投稿されたらしい。それを羨ましがった視聴者が更に研鑽を積み、間接的に俺達がSNS中毒を生み出しているのかもしれない
そんな事を思いながらも、自分達が楽しければ全然OK!と今日も俺達は無責任に配信を続けるのだった




