21_サクラの火傷
「いい感じに、焼けたようね。」サクラが厚手の手袋を外して、少し満足げに焼き上げたパンを見つめて声を上げる。
『うまそ~』俺は焼きたてのパンを見て、嬉しくなって突進する。
「あっ!ダメよ。レーニャちゃん!」サクラが慌てて、黒いお盆に突進する俺を手で止める。
「ジュッ!」と音がして、「アツ!」とサクラが声を上げたので、俺は驚いてサクラを見つめる。
「もう、レーニャちゃん、いけませんよ。」サクラの左手の甲が俺を止めたときに、黒いお盆に触れてしまって、左手の甲に火傷の痕がついていた。
『あっ!サクラごめん。』俺がサクラに「ニャー!」と声をかける。
「レーニャちゃん、なーに?」サクラは俺を見つめて、優しく声をかける。
『あっ、そうだ!火傷は早く冷やさないと!』俺はサクラに「ニャー!」と声をかける。
「レーニャちゃん、この鉄板はさっきまで火であぶられていたから、とっても熱くなっているのよ。レーニャちゃんの可愛い前足が、火傷しちゃうところだったじゃない。」サクラは俺の前足を握りながら、優しく声をかける。
『いや、そうじゃなくて、サクラ、あんたの火傷…』俺は前足を握っているサクラの左手の甲を見ると、火傷の痕が無くなっていた。
『えっ!火傷は…』俺の前足を握るサクラの左手を見つめて、俺は心の中で呟く。
「フフフ、レーニャちゃん、ご飯の準備するからね。ちょっとおとなしくしててね。」サクラは何事もなかったような感じで、俺に声をかける。
『えっ、いや、サクラ…、火傷…』俺はサクラを見つめてキョトンとする。
「レーニャちゃん、鉄板に近づいたらいけませんからね。」サクラは俺に声をかけると、大きなテーブルの上にある桶から肉の塊を取り出して、まな板の上で包丁を握ると薄くスライスしていく。
『まぼろし?いや、でもジュッ!って音がして、確かに火傷の痕が左手にあったよな…』俺はまな板の上で、肉の塊をスライスするサクラの手を見て心の中で呟く。
「うん、こんなもんかしら。」サクラがスライスした肉を1枚、口の中に入れて確認する。
「レーニャちゃんの食べられる大きさにしないとね。」サクラはスライスした肉をさらに細かく切って、皿に載せると俺の前に置いてくれた。
「さぁ、レーニャちゃん。カゾ村から貰ってきた、鹿肉のハムよ。」サクラが優しく俺に声をかける。
『サクラ!これが、鹿肉のハム?』俺はサクラに「ニャー?」と質問をする。
「塩気は十分抜いたと思うけど、大丈夫かな?」サクラが少し心配そうな声を漏らして、俺を見つめる。
『大丈夫です!肉食ですから。』俺はサクラに「ニャー!」と答える。
俺は皿の上の鹿肉のハムを食べようとして、『あっ!いけない。』と思いとどまる。
『えーと、なんだっけ、今日も我らに生きる糧を与えてくれた、全ての生命たちへ…、あと、なんだっけ…、まぁ、いいや、感謝を込めていただきます!』俺は前足を伸ばして姿勢を正すと、「ニャー!」と声を上げてから、皿の上の鹿肉のハムにかぶりついた。
「ウフフ、レーニャちゃん、今いただきますって言ったの?」サクラが、鹿肉のハムにかぶりつく俺に質問をする。
『うん、全然覚えてなかったけど、いただきますってした~』俺はサクラに『ウニャニャ』と鹿肉のハムを食べながら答える。
「フフフ、レーニャちゃんは、ホントに可愛いわね~」サクラは大きなテーブルに両肘をつくと、手の上に自分の顔を載せて、鹿肉のハムを食べる俺を見つめて、声を漏らす。
「エルシア様がレーニャちゃんを拾ってきたときは、どうしたものかと思ったけど、私も同じ状況なら、きっと拾ってきちゃったろうな~」サクラが俺を見つめて優しい声を漏らす。
「あっ!そうだ、山羊のお乳もあげないとね。」サクラはそう言うと大きなテーブルから離れて、竈に置いてある鍋から、なにかをお玉ですくって、小さなお椀に入れると俺の前に置いてくれた。
『あっ、山羊のミルクだ!』俺は鹿肉のハムを食べ終えると、今度はお椀に入った山羊のミルクをペロペロと舐めだす。
「いっぱい食べて、スクスク育つのよ。あっ、でも大きくなったら、もっといっぱい食べるように、なるのかしら?」サクラが嬉しそうな声を上げる。
『サクラは、なんかお母さんみたいだなぁ~』俺はサクラの声を聞いて、優しい気持ちになった。
山羊のミルクも綺麗に舐め終わった俺は、大きなテーブルの上で毛づくろいを始める。
「レーニャちゃん、綺麗に食べたわね。お腹いっぱいになった?」サクラが毛づくろいをする俺を見つめて、声をかける。
『うん、美味しかった。サクラ、ごちそうさま!』俺はサクラに「ニャー!」と答えた。




