02_全員不正解です!
朝ご飯を食べ終えて、部屋に戻るとフレヤは浴衣を脱いでパンツだけになって、すぐにメイド服に着替える。
サクラはエルシアの浴衣を脱がして、スッポンポンにすると黒いドレスを大きなカバンから出して、エルシアに着せていく。
『今日は、黒いドレスなんだ。そうか。今日はお葬式か。』俺はエルシアのドレスを見て、少しせつなくなった。
「この服は、ホントは着たくなかったわね。」エルシアは自分が着せてもらったドレスを見て、寂しそうな声を漏らす。
「さぁ、レーニャも行きましょうか。」エルシアが俺を持ち上げると、優しく胸に抱いて歩き出す。
「サクラ、先に行ってるね。」フレヤがまだ浴衣姿のサクラに声をかけると、エルシアの後を着いてきた。
エルシアとフレヤは、少し俯きながら廊下を屋敷の玄関の方に向かって歩いている。
「エルシア様とサクラって、やっぱりすごいですね。」フレヤがエルシアに声をかける。
「なに、どうしたのフレヤ。」エルシアは振り向かず、フレヤに確認する。
「いえ、私もエルシア様や、サクラのようになりたいと思って…」フレヤが寂しそうな声を漏らす。
「フレヤ、なにを言ってるんです。昨日サクラが私に嬉しそうに言ってたわよ、フレヤが良い娘に育ったって。」エルシアがフレヤに嬉しそうに声をかける。
「えっ、あっ、もうサクラったら~」フレヤの恥ずかしがる声が聞こえた。
『サクラかぁ~』俺は昨日の夜、エルシアの胸の中で泣くサクラのことを思い出す。
『あっ!うぉ!し、しまった~、サクラの着替え!』俺はエルシアの腕から飛び降りると、踵を返してサクラの部屋に向かってダッシュする。
しかし、エルシアの直ぐ後ろにいたフレヤにヒョイと捕まって、俺は両脇を抱えられるように持ち上げられる。
『後生ですから、私を部屋に戻してください!サクラの着替えを~』俺はフレヤに向かって「ニャー!」と声を上げる。
「レーニャ、どうしたんだ?」フレヤが不思議そうな顔で、俺の顔を覗き込む。
フレヤの綺麗な青い瞳に、俺は心が見透かされそうな感じを受けて、思わず視線を反らす。
「どうしたのかしら?昨日から、レーニャ、時々大きな声で鳴くわよね。」エルシアがフレヤの傍に回り込んで、首を傾げてフレヤに抱えられた俺の顔を覗き込む。
『いや、あの、どうしても、確認しないといけないことが…、あったような…、なかったような…』俺は心の中で呟いて、エルシアを見つめると、エルシアは困った表情で俺を見つめていた。
「どうされました?二人でレーニャちゃんを見つめて。」メイド服姿のサクラが、エルシアとサクラの後ろから声をかける。
「あっ、サクラ。レーニャがね、エルシア様の腕の中から、急に飛び降りて玄関と反対方向に走り出したの。」フレヤが説明する。
「あら、どうしたのレーニャちゃん?」今度はサクラが俺の顔を覗き込む。
『いや、あの、だから、すみませんでした。』俺はエルシアたちに向かって、「ニャー」と謝る。
「もう、レーニャ、あんまり驚かさないでね。」エルシアは俺をフレヤから受け取り胸に抱くと、廊下を歩き出す。
『あぁ~、今日も天気がいいなぁ~』俺は廊下から見える青空を見て、心の中で呟く。
廊下の端の木戸を開けて、囲炉裏がある部屋に入る。
サクラは先に土間に降りると、式台に腰を下ろしたエルシアに靴を履かせる。
3人は声をかけるでもなく、エルシアを先頭に屋敷の玄関から外に出る。
「さぁ、まいりましょう。」黒い着物姿のスミレが玄関の外で待っていて、エルシアたちに声をかけると歩き出した。
スミレもエルシアたちも、口を閉じて黙々と屋敷の門を出ると、スミレに従って村の道を歩く。
『あぁ、なんだろうな~、この虚脱感って…』俺はエルシアの腕の中で、ボーっとしながら心の中で呟く。
「レーニャちゃん、ず~とおとなしいですね。」サクラがエルシアの腕の中の俺を見つめて声をかける。
『いや、そんな目で見ないで…』サクラの視線に耐え切れずに俺は視線を外す。
「猫には人の気持ちが、わかるそうですよ。」前を歩いていたスミレが、立ち止まって振り向くと声を上げる。
「レーニャちゃんは、賢い子です。エルシア様、サクラ様、フレヤおねぇちゃんの今の気持ちが、わかってるんじゃないでしょうか。」スミレは振り返ってそう言うと、また前を向いて歩き出す。
『いや、ばぁちゃん、そう言うことでは、ないんだけどなぁ~』俺はスミレの後姿を見て、心の中で呟く。
「レーニャ、大丈夫だよ。」フレヤが優しく笑って、俺に声をかける。
「レーニャちゃん、ありがとう。」サクラも優しく笑って、俺に声をかける。
「レーニャ、私たちはみんな大丈夫だよ。」エルシアが俺の頭を撫でながら、優しく声をかける。
『いや、あの…、ブッブー!全員不正解で~す。』俺は心の中で呟く。




