19_子供に教えるのって、難しいんだよね
「今度、アモル卿たちに、なにかお礼をしなくちゃ、いけないわねぇ~」馬車のベンチシートに座ったエルシアが声を上げる。
「お礼といいますと、なにがよろしいでしょうかね~」エルシアの向かいに座ったサクラが、楽しそうに声をかける。
「そうね~、なにが良いかしら…」エルシアが頬に手をあてて、思案する。
「フレヤ、なにが良いと思う?」エルシアがサクラの隣に座っているフレヤに、声をかける。
「そうですね~、ヴァルム様とキュールが喜びそうな物か~」フレヤが腕を組んで首を傾げる。
「フレヤ。」サクラがフレヤを窘める声を上げる。
「あっ!キュール…様…です。」フレヤがバツが悪そうな表情で、声を上げる。
「サクラ、私たちだけなのですから、そんなに怒らなくても、良いではないですか…」エルシアが溜息交じりにサクラに声をかける。
「エルシア様が、そうやってフレヤを甘やかすから、いつまでたってもフレヤが、礼儀や礼節を軽んじるんです。それに今は、アルベルタ様もいらっしゃるんですよ。」サクラが今度はエルシアを諫めると、エルシアもバツが悪そうな表情をする。
「なぜ、サクラはそんなに怒っているのだ?」エルシアの隣に座っているアルベルタが、膝の上の俺の頭を撫でながら声をかける。
「あっ!これは、アルベルタ様、申し訳ございません。フレヤがキュール様を呼び捨てにしたからです。」サクラが優しくアルベルタに答える。
「フレヤはキュールを呼び捨てにしては、いけないのか?」アルベルタがサクラを見つめて、首を傾げる。
「アルベルタ様、人には身分というものが、ございます。フレヤの身分では、帝国から爵位を与えられたキュール様を、呼び捨てにすることはできません。」サクラがアルベルタに説明をする。
「身分とは、なんだ?」アルベルタがサクラを見つめて、首を傾げる。
「身分というものは…、この帝国における地位、そして…、帝国における序列を意味します。」サクラがアルベルタに説明をする。
「地位?序列?」アルベルタが説明を聞いて、また首を傾げる。
「そうですね~。アルベルタ様は爵位について、ご存じですか?」サクラが優しくアルベルタに確認する。
「爵位?それはなんだ?」アルベルタがサクラに質問をする。
「はい、先ずは爵位には2通りございます。1つは帝国から与えられるもの、そしてもう1つは、国を治める王によって、与えられるものです。」サクラが優しくアルベルタに説明を始める。
「うん、それで!」アルベルタが嬉しそうにサクラに声をかける。
「はい、帝国から与えられる爵位は、公爵と伯爵になります。そして、国を治める王が与えられる爵位は、子爵と男爵になります。」サクラがアルベルタに説明する。
『ふ~ん、公爵、伯爵、子爵、男爵…。あっ!エルシアは公爵だって、アイゼンが言ってた。』俺はエルシアを見つめる。
「それで、この爵位が帝国における、地位と序列になります。」サクラが説明を終える。
「なるほど、コウシャク、ハクシャク、シーシャク、ダンシャク。」アルベルタが指を折って、可愛い声を上げる。
エルシアとサクラ、フレヤを見ると、アルベルタを見つめてホッコリしてる。
「レーニャ、覚えたか?」アルベルタが俺に声をかける。
『うん、覚えた!』俺はアルベルタに「ニャー!」と答える。
「そうか、レーニャも覚えたか。」アルベルタが嬉しそうに笑って、膝の上の俺の頭を撫でる。
「それでサクラ、爵位はなんであるんだ?」アルベルタが質問をすると、サクラが困った表情をする。
「アルベルタ様、先にサクラが人には身分があると、説明したと思います。」エルシアが優しくアルベルタに声をかける。
「おぉ~、帝国における地位と、序列だ!」アルベルタが声を上げると、サクラがホッとした表情をする。
「はい、爵位とはその身分、すなわち地位と序列を、みんなにわかりやすく、示したものでございます。」エルシアがアルベルタに説明をする。
「なるほど、地位と序列か…、それで、その地位と序列とはなんだ?」アルベルタがエルシアの説明に首を傾げる。
エルシアがアルベルタを見つめたまま、目をパチパチとさせる。
「アルベルタ様。もう少し大きくお成りになりましたら、きっと誰かがもっと詳しく教えてくれます。」エルシアがアルベルタに、声をかける。
「今、知りたい。エルシア、サクラ、今は教えてはくれぬのか?」アルベルタがエルシアとサクラを見つめて、声をかける。
「お知りになりたいですか?」エルシアが困った表情で、アルベルタに確認する。
「うん、知りたい!」アルベルタが答える。
『地位とか序列か…、今のアルベルタになんて説明すれば、良いんだろう?』俺はアルベルタを見つめて、心の中で呟く。
「う~ん、そうですね~」エルシアは声を上げながら、アルベルタから視線を外してフレヤを見つめる。
フレヤがエルシアと目が合うと、人差し指で自分を指すと、エルシアが静かに頷く。
『あっ!フレヤにぶん投げた!』俺はエルシアとフレヤを交互に見つめて、心の中で呟く。




