05_サクラのお姉様
「エルシア様、ご機嫌をお直しください。」サクラが困った表情で、エルシアに声をかける。
「ポンコツ…、ポンコツ…」エルシアは馬車のベンチシートの上に体育座りをして、光を失った目で呪文のように同じ言葉を繰り返している。
「エルシア様…、はぁ~」サクラが困った表情で、溜息を漏らす。
エルシアはサクラに対して、横を見る状態でベンチシートに両足を上げていて、俺はエルシアの腕の中でエルシアを見つめている。
「エルシア様、私はエルシア様をポンコツとは、思っておりません。」サクラがエルシアに声をかける。
「それじゃ、サクラは私をどう思ってるの?」エルシアが口を尖らせて、サクラを見ずに声を上げる。
『おっ!ここは、重要だぞ、サクラ慎重に行くんだ。』俺はサクラを見つめて、心の中で呟く。
「エルシア様、お忘れですか?最初にお会いしたとき、エルシア様はアルベルト王に、私を妹にするとおっしゃいました。」サクラがエルシアに声をかける。
『はい?なに言ってんのこの人…、サクラの方がどう見ても年上に見えるけど、ホントは年下なの?』俺はサクラとエルシアを交互に見つめる。
「えっ、ん?…、言ったかな…」エルシアが惚けた感じで答える
「子供のときの記憶ですから、お忘れになって、しまわれたんですか…」サクラが寂しそうに溜息を漏らす。
「な、なによ、覚えてるわよ。」エルシアが頬を赤くして、不愛想に声を上げる。
『ん?あぁ、年上のサクラを妹にするって…、エルシアは子どものときから、ポンコツだったのか。』恥ずかしそうにしているエルシアを見つめて、俺は心の中で呟く。
「エルシア様が、あのとき私の手を握って、微笑んで、サクラは今日から私の妹だって、おっしゃってくれたこと、サクラは片時も忘れることが出来ません。」サクラが懐かしむように声を上げる。
『あれ?ここは、笑うところじゃ、ないの…』エルシアはサクラから視線を外して、唇を噛んでいる。
「エルシア様、サクラはエルシア様より、年上になってしまいましたが、今でもエルシア様の妹だと思っております。」サクラが諭すように、エルシアに声をかける。
「サクラは、私のことを恨んでいない?」エルシアが、サクラから視線を外したまま、寂しそうに声を上げる。
「恨む?エルシア様。エルシア様は、サクラの望みを叶えてくださったのですよ。恨むなど、サクラはなにを恨めば良いのですか?」サクラの目から、涙が流れる。
『えっ!なんの話…これ?』俺はサクラとエルシアを交互に見つめる。
「エルシア様は、今でもサクラのお姉様です。これからも、ずっとお慕いする。唯一無二の存在でございます。」エルシアに声をかけるサクラの目からは、涙が流れている。
『えっと、全然話が見えないんですけど…』俺はサクラから視線を外したまま、唇を噛んでいるエルシアを見つめる。
「フレヤもエルシア様をお慕いしております。フレヤはエルシア様が、レーニャちゃんの家族のお墓を作ったこと、大変驚いておりました。また、レーニャちゃんになにもしてあげれていないと、エルシア様が落ち込まれていたことも、心配していたんですよ。」サクラがエルシアに声をかける。
『あぁ、あれか…、そうだ、エルシアは俺の家族のお墓を作ってくれたんだ。ありがとう、エルシア。』俺はエルシアに「ニャーオ」と声をかける。
「レーニャ…」エルシアが俺を見つめて、声を漏らす。
「レーニャちゃんも、エルシア様をお慕いしているのね。」サクラが涙を拭きながら、俺に声をかける。
『うん、お慕いしてる~』俺はサクラに「ニャ~」と答えると、エルシアを見つめる。
「フレヤがエルシア様に軽口を叩いてしまった件、エルシア様がどうしても許せないのであれば、サクラも一緒に謝ります。」エルシアが口を尖らせて、頭を下げたサクラを見つめる。
「もう、わかったわよ。サクラ、頭を上げなさい。」エルシアが溜息交じりに声を上げると、ベンチシートから足を下ろして、サクラに声をかける。
エルシアは俺を優しく、膝の上に載せる。
「もう、怒ってはおりませんか?」サクラが頭を上げて、エルシアに探るように声をかける。
「怒ってません。」エルシアが視線を外して、恥ずかしそうに声を上げる。
「ありがとうございます。」サクラがエルシアに声をかけて、頭を下げる。
「やめて、サクラ。確かに私には、至らないところが多いわ。フレヤに、ポンコツって言わせたのは、私自身なのね…、反省するのは、私の方なのか…」エルシアが俺を見つめて、溜息交じりに声を上げる。
「エルシア様が、反省する必要はございません。今のままのエルシア様を、私もフレヤも、お慕いしております。」サクラがエルシアに優しく声をかけると、エルシアが微笑んで頷く。
「でも、サクラ、ポンコツって言われるの、結構ショックよ。」エルシアが光を失った目で、サクラに声をかける。




