40_街道の守り人
「しかし、この肉はなんなのだ。豚肉のようでもあるのだが、しつこくない。それにこのスープ、黒いのに肉の油が溶けて、とても美味い。」殿下がお椀の中の汁を飲みながら、声を上げる。
「はい、この肉は猪でございます。」コタロウが説明をする。
「猪か、ほう~、初めて食べたぞ。」殿下が嬉しそうな声を上げる。
『へぇ~、俺の食べてるこれも、猪の肉なのかな~』俺はお椀の中の肉を咀嚼しながら、心の中で呟く。
「そういえば、お前たちは、なぜこんな山奥に暮らしておるのだ?さきほどハンゾウから、聞いたのだが、ここにはお前たち家族しか住んでいないそうでは無いか。」殿下が質問をするとコタロウが困った表情をする。
「それに関しては、私からご説明させていただきます。」エルシアが声を上げる。
「なんだ、理由があるのか?」殿下がエルシアに声をかける。
「はい、ここは帝国とつながる唯一の街道です。今から150年ほど前になりますが、この峠に山賊が住み着きました。山賊は私とシビラキ、カバカリヤの町の兵士団によって、壊滅させましたが…、また山賊に住み着かれては、困りますので、コタロウの一族に、この街道を守って貰っているのです。」エルシアが説明をする。
「コタロウの一族には、このような場所での生活を強いてしまって、すまないと思っている。」エルシアがコタロウに声をかける。
「と、とんでもございません。私は、エルシア様から命を受けた先祖を誇りに思っております。」コタロウが声を上げると、フジもスモモもコゲンタもエルシアを見つめて、力強く頷く。
「それに、4年一度の帝国からの行き帰りの際に、エルシア様が必ずここを訪れていただけることで、我々一族、これほどの誉はございません。」コタロウが声を上げると、フジもスモモもコゲンタもエルシアを見つめて、微笑んで頷く。
「コタロウ、フジ、スモモ、コゲンタ、ありがとう。」エルシアが4人を微笑んで見つめる。
『うわ~、女神様だぁ…』エルシアの笑顔には清楚感と透明感が漂っていて、俺はボーっとエルシアを見つめる。
「アルベルタ、どうしたのだ?食べるのが、止まっているぞ。」殿下がアルベルタに声をかけたので、俺が振り返るとアルベルタが口を開けて、エルシアをボーっと見つめていた。
「あっ!お父様、エルシアが、今、凄く綺麗に見えて…」アルベルタが殿下に説明する。
「こらこら、エルシアはいつでも綺麗だぞ。」殿下がアルベルタに声をかける。
「殿下、おやめください。お戯れが過ぎますよ。」エルシアが頬を赤くして、殿下に声をかける。
「ううん、エルシアは綺麗だ。」アルベルタが嬉しそうに声を上げる。
「アルベルタ様まで、そのようなことをおっしゃらないでください。」エルシアはアルベルタを優しく諫める。
「アハハハ、エルシア、アルベルタは正直に申しておるのだぞ。」殿下が笑いながら声をかけると、エルシアが困った表情をする。
「そうか、先祖代々、この街道を守ってきたのだな。街道の守り人か…、コゲンタと申したか、いくつになる?」殿下がコゲンタに声をかける。
「あっ!はい、10になります。」コゲンタが驚きながら、殿下に答える。
「ほぉ~、ブリッツと同い年か…、将来はコタロウの後を継いで、この街道の守り人となるのか?」殿下がコゲンタに優しい声で質問をする。
「は、はい、そのつもりであります。」コゲンタが元気よく殿下に答える。
「えっ!あんた、前に兵士団に入りたいって、言ってなかった。」スモモがコゲンタに声をかける。
「な、な~に~、コゲンタ、その話は本当か?」コタロウがコゲンタに声をかける。
「い、いや…、ねぇちゃん、余計なこと言うなよ!」コゲンタがスモモに声をかける。
「コゲンタ、ちゃんと聞かせなさい。」コタロウが怒った顔で、声をかけるとコゲンタが困った表情となる。
「あなた、スモモ、コゲンタ、殿下の御前ですよ、言葉を慎みなさい。」フジが3人を窘める。
「あっ!こ、これは、お見苦しいところ、お見せしてしまって、誠に申し上げません。」4人が後ろに下がって、殿下に向かって平伏する。
「アハハハ、よいよい。それより、コゲンタ、私に先ほど、この街道の守り人となると、答えたのは嘘なのか?」殿下がコゲンタに質問をする。
「いえ、嘘ではありません。将来は、お父さんの後を継いで、街道の守り人となります。」コゲンタは真っ直ぐに殿下を見つめて、元気に答える。
「そうか、ならば私も一安心だ。コタロウ、良い子息を持ったな。」殿下が微笑んで、コタロウに声をかける。
「で、殿下…、ありがたきお言葉、感無量でございます。」コタロウが涙を流しながら、殿下に向かって平伏する。
「こらこら、コタロウ、面を上げてくれ…」殿下が慌てて、コタロウに優しい声をかける。
『エルシアもそうだけど、殿下も人の心を鷲掴みにするな~』俺は殿下を見つめて、心の中で呟く。




