23_山の神様の使い
「エルシア、それが山で保護した猫か?」椅子に座った男性が、エルシアに声をかける。
「はい、カゾの村の近くの山の中で保護しました。」エルシアが椅子に座った男性に説明する。
「名前はつけたのか?」椅子に座った男性が、俺を見つめて質問をする。
「はい、レーニャと名付けました。」エルシアが俺の名前を答える。
「レーニャか、良い名前だ。ほら、アルベルタ。この子の名前は、レーニャっていうんだよ。」椅子に座った男性が俺を指して、女の子に優しく声をかける。
「お父様、もう少し近くで見たい。」女の子が声を上げる。
「サクラ、レーニャをアルベルタ様の前へ。」エルシアが声をかけると、サクラは屈んで両手に載せた俺を女の子の前に差し出す。
『うわぁ~、この子近くで見ると、メッチャ可愛い~、お人形さんみたいだ。』俺は目の前の女の子を見つめて、心の中で呟く。
「初めて会う、私はアルベルタ。レーニャ、お前に会えたこと、幸いとする。」女の子が可愛い声で、俺に声をかける。
『アルベルタって名前なのか。俺はレーニャだ!よろしくなぁ~』俺はアルベルタに「ニャ~」と声をかける。
「お父様、レーニャ、私にご挨拶したよ。」アルベルタが嬉しそうに声を上げると、その場がホッコリする。
「エルシア、レーニャに触っても良い?」アルベルタがエルシアに声をかける。
エルシアは椅子に座った男性に目をやると、男性が黙って頷く。
「大丈夫でございます。サクラ、もう少しレーニャをアルベルタ様の近くへ。」エルシアがアルベルタに答えて、サクラに支持を出す。
サクラがアルベルタの手の届く位置に俺を差し出す。
アルベルタは黙って、俺を見つめると右手を上げて、恐る恐る俺に向かって、手を差し出してくる。
俺は少し俯いて、アルベルタが触りやすいようにする。
『あれ?触ってこない。』俺が顔を上げると、アルベルタが差し出していたはずの右手を引っ込めていた。
『あれ?どうしたの。』俺はアルベルタを見つめて、首を傾げる。
「どうした、アルベルタ、触りたかったのではないのか?」椅子に座った男性が、優しくアルベルタに声をかける。
「アルベルタ様、大丈夫ですよ。」エルシアが片膝をついて、サクラの腕の中の俺の頭を優しく撫で始める。
『あっ、あっ、気持ちいい~』俺はエルシアに撫でられて、気持ちよくなる。
「エルシア、私が触っても大丈夫なの?」アルベルタが不安そうにエルシアに質問する。
「はい、アルベルタ様手を出して、私の撫でた後を優しく撫でてください。」エルシアが俺の頭を撫でながら、アルベルタに声をかける。
「あっ!エルシア、こうか?」アルベルタが俺の頭を小さな手で、撫でているのがわかった。
「はい、お上手でございます。」エルシアが優しくアルベルタに答えた。
「レーニャは可愛いなぁ~」アルベルタが俺を撫でるのをやめて、俺を見つめて声を上げる。
『可愛い~、あっ!』俺はエルシアを見ると、バツが悪そうな顔をしていた。
「エルシア。」アルベルタがエルシアに声をかける。
「な、なんでございますか、アルベルタ様。」エルシアは優しく微笑んでいるが、明らかに顔が引きつっている。
「レーニャを私に譲ってはくれないか?」アルベルタがエルシアに質問をする。
「そ、それは…」エルシアが俯いてしまう。
「アルベルタ、レーニャはな、普通の猫ではない。サイタマオオヤマネコと呼ばれるヤマネコだ。」椅子に座った男性が、アルベルタに声をかける。
「ヤマネコ?」アルベルタが椅子に座った男性に質問をする。
「あぁ、それもオオヤマネコだ。今は子どだから、こんなに可愛いが、大人になったら、アルベルタよりも大きくなるんだぞ。」椅子に座った男性がアルベルタに優しい声で説明する。
「私よりも大きくなっちゃうの?」アルベルタが俺を見つめて、声を上げる。
『そうだぞ~、大きくなるぞ~、怖いぞ~』俺はアルベルタを見つめて、「ニャ~」と声を上げる。
「フフフ、やっぱり可愛い~」アルベルタが俺を見つめて、微笑んで声を上げる。
『あれ?脅かそうと思ったのに…』俺は心の中で呟く。
「いいかいアルベルタ、サイタマオオヤマネコは、この地域では山の神様の使いと、呼ばれているんだ。それがどうな意味かわかるかい?」椅子に座った男性がアルベルタに質問する。
「う~ん…、お父様、わかりません。」アルベルタが可愛い眉間に皺を作って考えるが、椅子に座った男性に声をかける。
「アルベルタ、いいかい。山の神様の使いということは、山を守るという使命があるんだ。だから、決して人間がそれを、飼うことは許されないことなんだ。但し、レーニャは、不幸にも家族を失って、こんな小さな体では、今は山を守ることはできない。エルシアはレーニャが、山が守れるぐらいに大きく育てて、山に帰そうとしているんだよ。」椅子に座った男性が、アルベルタに優しく説明をする。
『へぇ~、そうだったんだ。えっ?』俺は首を傾げて、固まった。




