17_ユスクドの業火
『坊やとの約束…、お願い…』俺は心の中で呟く。
『そうよ、坊やがね、死ぬ寸前に…、私を見て最後のお願いだからって…、あの娘が死ぬまで見守ってほしいって…』アネモスは俺から視線を外したまま、寂しそうに答える。
『アネモス…』俺にはアネモスが、泣いてるように見えた。
『しっかし、今考えると、坊やに騙されたのよねぇ~』急にアネモスが、ムッとした感じで声を上げる。
『えっ!なんで?』俺はアネモスの豹変に驚く。
『あの娘、死なないのよ。』アネモスが俺を見つめて、呆れた感じの声を上げる。
『はい?…』俺はアネモスを見つめたまま、言葉を失う。
『まぁ正しくは、あの娘は17歳のときから歳をとらなくなって、今もその17歳の容姿のまま、生きているってことよ。』アネモスが俺に説明する。
『不老不死…』俺は心の中で呟く。
『それはわからないわ、まぁでも、不老であることは確かね。そうだ、あのサクラって娘も、今あなたと一緒にいるフレヤも、あるときから、歳をとらなくなったわ。』アネモスが淡々と説明する。
『サクラもフレヤも、歳をとらない…』俺は心の中で呟く。
『そう、ずっと歳をとらないわね~』アネモスが呆れた感じで、声を上げる。
『あっ!そうか、だからエルシアたちは、赤ちゃんのときのゲンジロウのチンチンを見たんだ。』俺はカゾの村での夕食のときの話を思い出す。
『なに、そのゲンジロウのチンチンって?』アネモスが俺に声をかける。
『いや、そこは特に聞かないでください。』俺はアネモスに答える。
『あっ!297年…、101年…』俺はカゾの村でサクラが言った言葉を思い出す。
『なーに、レーニャ、その年数は?』アネモスが俺に質問をする。
『あっ、サクラがエルシアに言ってたんだ。あれから297年だって…』俺がアネモスに答える。
『そうか…、あの娘たち、あれからその年数を重ねてきたのね…』アネモスは、また遠くを見つめて寂しそうに声を上げた。
『ねぇ、アネモス。あれからって、どれから?』俺がアネモスに質問をする。
『語彙力のない質問ね、まぁ、あなたが聞きたいことはわかるわ。いいわ、教えてあげる。』アネモスは優しく俺を見つめて、声をかける。
『あの娘たちが、住んでる場所って、なんて呼ばれてるかわかる?』アネモスが俺に質問をする。
『たしか、ユスクドの屋敷、いや、ユスクドの森…』俺はどこかで聞いた話を思い出す。
『そう、あそこはユスクドの森と呼ばれているわ。でもね、あそこには、昔大きな町があったのよ。』アネモスがゆっくりと説明を始める。
『町?』俺は心の中で呟く。
『あそこには、この国の王のお城があってね。お城の周りには、いろいろな建物が立っていて、多くの人が住み、とても活気があって、帝都にも負けないんじゃないかって、人々が口にしていたわ。』アネモスが俺を見つめて説明する。
『その町がね、全部灰になったの…』アネモスは俺から視線を外すと、遠くを見つめた。
『はい?…』俺はアネモスを見つめたまま、言葉を失う。
『そう、あの日お城から立ち上った火柱が、あっという間に町を飲み込み、その後、1週間燃え続けて建物も、なにもかも全て燃やし尽くした。今では、ユスクドの業火と呼ばれているわ。』アネモスが俺を優しく見つめて、説明を終える。
『ユスクドの業火…、全部灰にしゃう…』俺はアネモスを見つめたまま、心の中で呟く。
『そうね、なにもかも燃やし尽くしたと言ったけど、残ったものが1つだけあるわ。』アネモスが声を上げる。
『残ったもの?』俺はアネモスに質問する。
『うん、今レーニャたちが住んでいる、あの屋敷よ。』アネモスが俺に微笑んで答える。
『レーニャ、あの屋敷はね、坊やがエルシアの10歳の誕生日に、プレゼントしたものよ。』アネモスが俺に説明をする。
『はい?…、10歳の子どもの誕生日プレゼントが屋敷?レーニャのとうちゃんって、どんだけ金持ちなの…』俺はアネモスを見つめたまま唖然とする。
『金持ちって言うか、坊やは王様だからね。お城の一角に娘の屋敷を建てるぐらいは、なんてことないんじゃないの。』アネモスが俺を見つめて、声をかける。
『王様…、そしたらエルシアって、お姫様なの?』俺はアネモスを見つめたまま愕然とする。
『そうね、お姫様になるわね。それから、本来なら坊やが亡くなった後、あの娘が女王になっていたかも知れないわね。』アネモスは淡々と声を上げる。
『女王…、私を女王様とお呼び!ピシッ!』俺は思わず心の中で叫んでいた。
『なに、言ってんのレーニャ?』アネモスが怪訝な表情で俺を見つめる。
『あっ、いや…、つい…』俺はなぜか恥ずかしくなって、アネモスから視線を外す。




