08_君が代
「うん、話はわかったわ。」書斎の大きな机の椅子に座ったエルシアが声を上げる。
「それでは、直ぐに出発します。」大きな机を挟んで、エルシアの前に立っているサクラが声を上げる。
「でも、良いのかしら?そんな無理言っちゃって…」エルシアが難しそうな顔で、声を上げる。
「大丈夫です。むしろヴォルケなら、喜んで作ってくれると思いますよ。」サクラが優しく微笑んでエルシアに声をかける。
「でも、お弁当を作ってもらって、どこで食べるの?」エルシアがサクラに質問をする。
『あっ!そこまで、考えてなかったな。』俺は大きな机の上で、顎に手をあててるサクラを見つめて心の中で呟く。
「そうだサクラ!カバカリヤの町の前って、草原が広がってたでしょう。あそこで食べるのは、どうかしら?」エルシアがサクラに声をかける。
「いけません、エルシア様。あそこは街道沿いですから、大勢の人間に見られてしまいます。」サクラがエルシアを窘めるような声を上げる。
「それじゃ、どこで食べるの?」エルシアがサクラに質問をする。
「あっ!エルシア様、アイゼンの屋敷に行って、食べましょう。」サクラが思い付いたように答える。
「アイゼンの屋敷に、わざわざお弁当持って行くの?」エルシアが少し呆れた感じで声を上げる。
「アイゼンの家族の分も一緒に作ってもらって、お土産ってことで持っていくのは、どうでしょうか?」サクラがエルシアに確認する。
「なるほど、それは良いわね。それで行きましょう。」エルシアがサクラに答える。
「かしこまりました。それでは、先に出発します。」サクラが軽く頭を下げると、書斎を出て行った。
「レーニャ、ハンバーグって食べたことある?」大きな机の上で、サクラが出て行くのを見つめていた俺にエルシアが声をかける。
『昨日、食べたよ!』俺は振り向いて、エルシアに「ニャ!」と答える。
「フフフ、ヴォルケのところのハンバーグはとても美味しいのよ~」エルシアが俺の頭を撫でながら、声をかける。
『うん、とっても美味かったなぁ~』俺は「ニャ~」とエルシアに答える。
「でも、何年ぶりだろう、ヴォルケのハンバーグ食べるの。」エルシアが懐かしそうな表情で声を上げる。
『なんだエルシア、ハンバーグ何年も食べてないのか?』俺は「ニャ?」とエルシアを見つめて声をかける。
「フフフ、サクラもね、昨日みたいにハンバーグを時々作ってくれるんだけど、なんか違うのよねぇ~、あっ、サクラの作るハンバーグも、美味しいのよ。」エルシアが俺を優しく持ち上げて、声をかける。
『サクラのハンバーグかぁ~、俺も食べたいなぁー!』俺はエルシアを見つめて「ニャー!」と声を上げる。
「フフフ。」エルシアは嬉しそうに笑うと、俺を膝の上に載せて、優しく頭を撫でる。
『あっ、あっ、そこそこ、気持ちいぃ~』エルシアに喉の辺りも優しく撫でられて、「ゴロゴロ」と俺は喉を鳴らす。
「レーニャはホントに可愛いわね~」エルシアが優しく俺を撫でながら、声をかける。
「き~み~が~よぉ~わ~、ちよにぃ~やちよに、さざれぇ~いしの~いわおとなりて~、こけの~おぉ~、む~すぅ~まぁ~で~」エルシアが俺を撫でながら、急に歌いだした。
『あれ?この歌、どっかで聞いたことあるぞ。』俺はエルシアを見つめて、心の中で呟く。
「どうしたのレーニャ、この子守歌は嫌い?」エルシアが俺を見つめて声をかける。
『いや、嫌いじゃないけど…、これ子守歌だっけ?』俺はエルシアを見つめたまま、首を傾げて固まる。
「フフフ、どうしたの?この歌はね、私のお父様が教えてくれたのよ。」エルシアが嬉しそうに声をかける。
『あぁ、そうか、エルシアにも親はいるんだよな。』俺はエルシアを見つめたまま、心の中で呟く。
「私のお父様は、ホントに不思議な方でね。いろいろなことを知っていたわ。この歌はお父様が、前の世界で覚えた歌だって、言ってたわ。」エルシアは俺の頭を優しく撫でて声をかける。
『前の世界…、なんだそれ?』俺は話の意味がわからず、エルシアに「ニャ?」と質問する。
「フフフ、人はね、ううん、生きとし生けるもの全ては、その一生を終えると、また生まれ変わるんだって、不思議な話ね。」エルシアは膝の上から俺の両脇を抱えて持ち上げると、俺を見つめて優しく微笑む。
「レーニャ、この歌はね。お父様が、エルシアが大きくなって、お嫁に行って子供が出来たら、その子供に聞かせてあげなさいって…」エルシアは優しく俺を見つめて、声をかけると目から一筋の涙をこぼす。
『えっ!エルシア、大丈夫?』俺はエルシアに「ニャ?」と声をかける。
「ダメね。」エルシアは声を上げると、上を向いてしまった。
「お父様…、申し訳ありません…、親不孝な娘で…、あの子たちまで、巻き込んでしまって…」エルシアは上を向いたまま、声を漏らす。
俺は上を向いたエルシアをジッと見つめることしか、出来なかった。




