12_メイドさん現る
「着いたぞ。」優しく俺の頭を撫でながら、そいつが声をかけてきた。
俺は大きなあくびと伸びをそいつの腕の中ですると、顔を上げて辺りをキョロキョロと見渡す。
『どこだ、ここ?』目の前には大きな壁のようなものがあり、両端に灯りがともっていた。
「今、戻った。」そいつが壁に向かって声をかけると、壁が開いて中から眩しい灯りが外を照らした。
「エルシア様、お帰りなさいませ。」一人の女性がそいつに声をかけて、頭を下げる。
「うん、サクラ。すまないが、お風呂の用意はできている?」そいつはその女性に声をかける。
「はい、直ぐに入れます。お着替えもそちらで?」女性は頭を上げて、そいつに聞いてきた。
女性の恰好を見ると、白いフリフリのエプロンに、頭にはやはり白いフリフリの髪留めをしていた。
『メイドさん?』俺はその女性の姿を見て、心の中で呟く。
「うん、そうしたい。少し疲れたので、直ぐに眠りたい。」そいつはそう言いながら、灯りの中に俺を抱いたまま入って行った。
灯りの中に入ると、そこは大きな広い空間だった。
目の前には2階へ続く大きな階段があり、天井にはキラキラ光る大きなシャンデリアがいくつもぶら下げっていた。
『なんだここ…、豪邸か?豪邸なのか…』俺は驚いて辺りをキョロキョロと見渡す。
「あら、エルシア様その子は?」メイドの女性が質問してきた。
メイドの女性をよく見ると、黒い長い髪と、切れ長の目、それでいて整った顔立ちの美人さんであった。
『わぁ...、メッチャ綺麗な人…、日本人みたい…』俺が茫然と見つめていると、女性と目が合った。
「まぁ、可愛い。フフフ…」メイドの女性は、口元に手をあてて微笑んだ。
『ドッキューーーン!惚れてまうや~ん。』メイドの女性の笑顔は可愛くて、俺の心をわしづかみにする。
「この子か。この子は山で独りぼっちだったから拾ってきた。」そいつが答える。
「えっ、エルシア様、山でさらってきたんですか?」メイドの女性が問いかける。
「違う、違う、拾ってきたって言ったでしょう!」そいつは、呆れたような声を上げる。
「えぇ~、でもこんな小さな子が、山で独りぼっちでいるなんて、おかしいですよ。」メイドの女性が声を上げる。
「いや、だからな…」そいつが説明を始める。
「あら、エルシア様、血が…、お怪我をなさったのですか?」メイドの女性は、そいつのフードに血痕が付着しているのに気がついて、質問をする。
「私が怪我をするわけはないでしょう。これは、この子の家族のものだ。」そいつが血痕について説明をする。
「えっ、エルシア様…、ま、まさか、その子が可愛くて、その子の家族を…」メイドの女性は口を両手で押さえてワナワナと震える。
「サクラ、いい加減にしなさい。この子の家族は、はぐれ者に殺されたのだ。」そいつは少し怒った口調で声を上げると、俺の頭を撫でながら説明を付け加えた。
「そうだったんですか、それで、独りぼっちだったんですね。」メイドの女性は、そいつの腕の中の俺に顔を近づけて、マジマジと見つめる。
『うわっ、顔ちかっ!』切れ長の目の奥の黒い瞳が俺を見つめる。
「良かったわね。エルシア様に拾われて…」メイドの女性はそう言うと、優しく微笑んだ。
『やっぱり、このメイドさん、美人で可愛い…』俺は少しドキドキする。
「サクラ、着いてきて。」そいつはそう言うと歩き出した。
「かしこまりました。」メイドの女性は答えると、そいつの後ろを歩いて付いてくる。
「ところで、エルシア様、はぐれ者はなんだったのですか?」メイドの女性が質問してきた。
「うん、ミノタウロスだ。」そいつが答える。
『おぅ、ミノタウロスであってたんだ。』俺はそいつの腕の中で少し驚く。
「それでは、ミノタウロスの角はとってきたんですか?」メイドの女性が質問してきた。
「あぁ、それがね、ちょっと手違いがあってね。焼き尽くしちゃった。」そいつは、少し歯切れの悪い感じで回答する。
「そうですか、フレヤがちょっとガッカリすると思いますが…、まぁしょうがないですね。」メイドの女性は呆れた感じの声を上げる。
「それでね、サクラ頼みがあるんだけど…」そいつは、言いにくそうに声を上げる。
「かしこまりました。フレヤには、私から話をしておきます。」メイドの女性は直ぐに回答する。
「ごめんね、サクラ。」そいつは少しバツが悪そうに声をかける。
「いえ、それも私の役目ですから。」メイドの女性は少し明るい声で答える。
『なんだろ、このメイドさん。美人な上に、できる人のなのかしら。』俺はなぜかこのメイドさんが好きになっていた。




