11_お葬式
かぁちゃんの倒れているところに戻ると、そいつはヒャッハーをかぁちゃんの傍に静かに置いた。
そいつは腰のあたりにぶら下げているバックから、一枚の大きな布を出した。
布を広げて地面に置くと、その布の上にかぁちゃんを、続けてヒャッハーを最後に布に包んだデンチを優しく静かに置いた。
『何するんだろう?』俺は傍らで不思議そうに見つめる。
そいつは立ち上がると辺りをキョロキョロと見渡して、すぐそばに咲いていた白い花を三つ摘んだ。
「これはお前のお母さんに、これはお前の兄弟に…」そいつはそう言いながら白い花を、一つ一つ静かにかぁちゃんとヒャッハーの体、そしてデンチを包んだ布の上に置いた。
『お葬式だ…』俺は走って、そいつが花を摘んだ場所に行くと、まだ白い花はあった。
『これは、ナノの分だ。』俺は白い花を一つ口で摘むと、そいつのもとに戻る。
白い花を口にくわえて戻ってきた俺を、そいつは不思議そうに見つめる。
「お前も花を手向けるのか?」そいつは声をかけてきたが、俺はそのまま口にくわえた花をかぁちゃんの傍に置いた。
俺は花を置くと、そいつの傍らに腰を下ろした。
「お前は不思議な子だな。」そいつは俺の頭を優しく撫でた。
「命を失ったものに問う、お前が残したものは何か、それは命である。お前が生んだ、育てたもの、お前が愛しんだもの、その全てがお前の命である。お前の命は永遠に受け継がれる。今は安らかにその命を終えたことを、命が受け継がれたことを誉と思い、安らかに眠れ。」そいつはそう言うと、広げた布の四隅を持ってかぁちゃんたちを布の中に包み込んだ。
次にそいつは、トランプぐらいの大きさの紙をかぁちゃんたちを包んだ布の上に置いた。
『なんだろ、この紙?』俺はその紙を見つめた。
紙には文字なのか絵なのか、わからないが何かが書かれていた。
『何が書かれてるんだ?』俺はその置かれたカードを見つめる。
『あっ、火、炎、カエンだ…』俺はそのカードに書かれたものを理解した。
『カエン!』俺が「ニャー!」と叫んでいた。
次の瞬間、そのカードからメラメラと炎が上がると、あっという間にかぁちゃんたちを包んだ布を覆った。
眩しさのあまり、俺は目を閉じる。
「えっ?あれ~」そいつが驚いた声を上げる。
『なんか、またやらかしたのか、こいつ…』と俺がそいつを見つめると、そいつは首を傾げていた。
「まぁ~、良い。」そいつはそう言うと、かぁちゃんたちが包まれた布が燃える前で、胸の前で両手を合わせた。
あっという間だった、かぁちゃんたちを包んだ布は黒い灰となっていた。
『かぁちゃん、ヒャッハー、デンチ、ナノ。俺はお前たちが、残した命だ。絶対生き抜くからな、お前たちの分まで死んでも…』俺は心の中で呟いた。
「お前、私のもとに来ないか?」そいつは俺に声をかけてきた。
『えっ!』俺はそいつを見つめる。
「ダメか?…」そいつは俺を見つめて、声をかける。
『みんな、死んじゃったしな…、いいよ!』俺は「ニャー!」と答える。
「おいで。」そいつは優しく声をかけると、俺の体を抱き上げた。
「少し、辛抱しておいておくれ。」そいつは俺を胸に抱きかかえた。
『ん?胸?』俺はそいつが女性であることに気づく。
優しい匂いがした、それはかぁちゃんのお腹の匂いとは、また違った匂いだった。
「お前は、ホントに良い子だな。」クスッと笑うと、そいつは俺を抱いたまま空中にいた。
『えっ、えっー!空飛んでる?』俺は驚いていたが、眼下には木が生い茂る森しか見えなかった。
「ホントに少しの辛抱だから、おとなしくしていてくれ。」優しい声が聞こえると、次は落下する感覚が襲ってきた。
『わっ!わっ!落ちる~!』俺は驚くが、再びフワッとした感覚に包まれる。
『こっ、これってジェットコースター!』俺は慌てたが、なぜか危険では無いと思った。
なぜかはわからないが、そいつに抱かれていることに安心感があった。
『あぁ…、なんだろう…、これ…』そんな上下する感覚が、数回続く中いつしか気持ちよくなって俺は気を失う。




