29_関西人?
サクラは外に出ると、柵につながれたソウリュウの手綱を外して、俺を抱えるようにしてソウリュウの上に乗る。
「レーニャちゃん、ちょっと急ぐからね。」サクラが俺に声をかけると、ソウリュウが走り出した。
『ヒャー!早い!早い!あっ、でも目が開けてられない。』俺はサクラの前で顔にあたる空気に、目が開けていられなくなって、目を閉じた。
しばらくすると、ソウリュウの蹄の音が「パカ、パカ」と変わり、顔にあたっていた空気も弱くなる。
『おぉ、これは町に入ってきたときの門だ。ん、あっ!顔が…』俺は目を開けて、大きな門の下にいることを確認した後、顔を洗いたくなって、前足を舐めようとするが、布に包まれているせいか届かず、布から出た前足をバタバタとする。
「どうしたの、レーニャちゃん?」サクラが俺の行動に気が付いて、声をかける。
『顔を洗いたいの~』俺はサクラに「ニャ~」と答える。
「あっ、これはサクラさん、なんですかそれ?」鎧を着た男性が、ソウリュウの上のサクラに声をかける。
「あぁ、この子のこと?この子は、レーニャちゃんよ。」サクラが鎧を着た男性に答える。
「…。レ、レーニャちゃん?…」鎧を着た男性が首を傾げて声を上げる。
「あっ、ごめんなさい、この子の名前よ。」サクラが鎧を着た男性に説明する。
「はぁ、それで、なぜサクラさんは、猫…ではなく、レーニャちゃんを連れてるんですか?」鎧を着た男性がサクラに質問をする。
「それはね…。よんどころない事情があるのよ。」サクラが答えると、鎧を着た男性は「はぁ…」と声を上げる。
『サクラ~、顔が~』俺は前足をバタバタさせて、サクラに「ニャ~」と声をかける。
「ん?どうしたの、レーニャちゃん?」サクラが俺を包んだ布を抱き上げて、俺の顔を見つめる。
『あっ、あっ、いい感じ…』サクラが指で俺の顔を撫でてくれた。
「フフフ、気持ちいい?」サクラが微笑みながら、俺に声をかける。
『サクラ、もうちょっと撫でて。』俺はサクラの指に自分のおでこを擦り付ける。
「フフフ、気持ちよさそうね。」サクラは優しい声をかけながら、俺の頭全体を優しく撫でてくれる。
「サクラさん、それより…」鎧を着た男性がサクラに声をかける。
「あっ、ごめんなさい。忘れていたわ。」サクラは俺を前にぶら下げると、カバンの中から紙を出して鎧の男性に渡す。
「はい、確かに確認しました。気を付けて、お帰り下さい。」鎧の男性はサクラから受け取った紙を見つめて、声を上げるとサクラに紙を返す。
「ありがとう、あなたもお仕事、頑張ってね。」サクラは鎧を着た男性に声をかけると、ソウリュウをゆっくり歩かせて、町の門を潜った。
「やっぱり、サクラさん、綺麗だような~」先ほどの鎧を着た男性の声が聞こえてきた。
「あぁ、危険だよ、あの人は…、あの微笑みと、あの言葉…、気持ちいい~?ってか…」別の男性の声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫か?お前…」先ほどの鎧を着た男性の声が聞こえてきた。
「あかん、わし、わし、こ、今夜いってまう~」別な男性の変な声が聞こえてきた。
『えっ!いってまう~って、関西人?』俺は鎧を着た男性たちの声を聞きながら心の中で呟く。
『あぁ~、こんな感じになってるんだ。』町から出ると、開けた草原になっていて、道が真っ直ぐに続いていた。
『ん?どうした、サクラ?』サクラが俺を包んだ布を、体から外して正面に持ち上げて俺の顔を見つめるので、「ニャ?」と声をかける。
「ふ~ん、そういうことか。」サクラはなにかを納得した声を上げる。
『どうしたんだ、サクラ~?』俺はサクラに「ニャ~?」と声をかける。
「うん、レーニャちゃん、いらっしゃい。」サクラはそのまま俺を包んだ布のベルトを首にかける。
『サクラさん、俺これだと前が見れないんだけど…』俺はサクラに「ニャー!」と声をかける。
「レーニャちゃん、ちょっと急ぐから、これだったら顔に風が当たらないでしょう。」俺の顔を覗いてサクラが優しく声をかける。
『あっ!さすが、サクラさん。』俺が門のところで、前足をバタつかせた原因に気が付いたようだ。
『おっ、これは、これで、いいかも。』俺の前にはサクラの柔らかい胸の膨らみと、いい匂いがした。
「ソウリュウちゃん、ちょっと頑張ってもらうわね。」サクラがソウリュウに優しく声をかけると、ソウリュウが走り出した。
「パカラ、パカラ」とソウリュウの蹄の音が聞こえてくる、俺の体は背中から押されてサクラの胸に押し付けられる。
『あぁ、なんか電車に乗ってるときみたい…』リズミカルに聞こえる蹄の音と、適度に伝わる振動で俺はそんなことを考えながら、眠くなってきた。
『あぁ、サクラの匂い…』俺は目を閉じた。




