10_デンチとヒャッハー
『なんだ今のは、灯油でもかけたのか?』俺はそんなことを考えながら、フードを被ったやつとミノタウロスを見つめる。
ミノタウロスの体を包んでいた炎は次第に消えて、ミノタウロスの体の形で黒い灰になっていた。
フードを被ったやつは、かぁちゃんが倒れている場所に静かに歩き出す。
『あいつ、かぁちゃんに何するきだ!』俺は、隠れていた木から慌てて降りる。
途中で、木の幹に引っかけた前後両足の爪が外れて、地面に落下するが『ニャンパラリン!』空中で姿勢を正すと地面に着地する。
『ほぁ~、あぶねぇ~』一息ついたが、直ぐにかぁちゃんの倒れている場所に向かう。
近くまで行った後、俺は近くの木の後ろに身を潜めて、フードを被ったやつを見つめる。
フードを被ったやつは、倒れたかぁちゃんの傍で両膝を地面に落として座った。
次にそいつはフードを外した。
『ふぇ…、綺麗な人…、外人さんかな…』俺は茫然とフードを外した、そいつの顔を見つめる。
さっきまで、あまり綺麗とは言えない言葉を使っていたとは、とても思えない清楚感と透明感が漂う顔立ちだった。
「すまなかった、私がもう少し早く来ていれば…」そいつは倒れたかぁちゃんを見つめながらそう言うと、唇をグッと噛みしめて涙を一筋流した。
『あんたのせいじゃねぇよ!』俺がそいつに向かって「ニャー!」と声をかける。
『あっ!』いつの間にか、俺は木の陰から出てそいつに向かって、歩き出していたことに気が付く。
「良かった、隠れていたのか?」そいつが俺に声をかける。
『うん、そうだよ。』俺は「ニャー!」と答える。
「おいで。」優しい声を上げると、腕を伸ばして手のひらを俺に向けた。
『こいつを信じて、良いのか?』俺は躊躇しながら、手を差し伸べたそいつを見つめる。
「警戒されてしまったかな。お前を虐めたりしないから、おいでなさい。」そいつの言葉は優しく、俺は差し伸べた手に右の前足を乗せてみた。
「フフフ…」そいつは笑うと、差し伸べた手で俺の頭や背中を撫でた。
『あっ、あっ、良い感じ…』そいつに撫でられると、いい気持になって張り詰めていた気持ちが和らいだ。
「ここに倒れているのは、お前のお母さんかい?」そう言いながら、そいつは俺の体を両手で持ち上げると自分の膝の上に置いた。
『かぁちゃん…』俺はそいつの膝の上で、変わり果てた姿で倒れているかぁちゃんを見つめた。
「お前の他に隠れている子はいないの?」そいつは膝の上の俺の頭を撫でながら聞いてきた。
『あっ!そうだ、デンチとヒャッハー!』俺はそいつの膝の上から降りると、辺りをキョロキョロする。
俺は巣穴のあった場所へ走り出す。
巣穴の近くに行くと、巣穴は完全につぶれていて大きな穴が出来ていた。
穴の中には血だまりが出来ていて、近くにデンチの頭と前足部分の一部が転がっていた。
『デンチ…、やっぱりお前が最初に食われたんだな…』俺はデンチの亡骸を見ながら茫然とする。
「この子はお前の兄弟か…、あいつに食われたんだな…」いつの間にか、俺の後ろでそいつが声をかけてきた。
『こいつは、デンチっていうんだ。』俺は「ニャ~」と答える。
そいつは、腰のあたりにぶら下げたカバンから、ハンカチほどの大きさの布を取り出すと、その中に大事そうにデンチの体を包んだ。
「お母さんのもとに、連れていってあげよう。」そいつはデンチの体を包んだ布を両手で、大事そうに持ってかぁちゃんのもとに歩き出した。
『そうだ、ヒャッハーは、ヒャッハー!』俺は「ニャー!」と呼んで見る。
『どこだ、ヒャッハー!』俺は右へ左へ走ってヒャッハーを探す。
少し離れた場所にヒャッハーのモヒカンが見えた。
『ヒャッハー!』俺はまっしぐらに、ヒャッハーのモヒカンに向かって走る。
近くまで行くと、ヒャッハーが倒れていた。
『ヒャッハー…』ピクリとも動かないヒャッハーの姿を見て、俺はヒャッハーも殺されたことを理解する。
「その子も、お前の兄弟か?」いつの間にか、俺の後ろに立っていたそいつが声をかけてきた。
『そうだよ、俺の兄弟だ!ヒャッハーっていうんだ!』俺は「ニャー!」と答える。
そいつはしゃがんで、優しく両手でヒャッハーを抱き上げた。
「すまぬ…」そいつは両手で抱き上げたヒャッハーを見つめて声を上げる。
『なんで、お前はそんなに謝るんだ?』不思議に思って、俺は「ニャー?」と聞いてみる。
「この子もお母さんのところに、連れてってあげよう。」そいつは立ち上がると、俺に優しく声をかけて歩き出した。




